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それからというもの、戀羽は宣言通り度々二人の前に姿を現した。ある時は先日のように登校中に、ある時は下校時刻に。オルハが学校の送り迎えをしていることを知ってからは、どこで調べたのか利駆のアルバイト先にも出勤前後に現れるようになり、その行動はまさに神出鬼没と言うに相応しいものだった。嵐のようにやってきて、また同じように去っていく。そのことの繰り返しだった。
オルハ一人なら、そんな戀羽相手でも、無視するだけで充分対応できた。だが戀羽は、オルハが取り付く島もないことなど最初からお見通しだったのか、はたまた当初言っていたように純粋な興味からか、利駆にばかり的を絞って話し掛けた。利駆は利駆で生来のお人好しを発揮し、いちいち戀羽の発言に応えている。それだけでもオルハの苛立ちはどうしようもなく積もってゆくのに、ある日の戀羽の発言は、ついにそれに火をつけてしまうのだった。
「んもう、オルハくんは黙ってて! 利駆ちゃんは今ボクと喋ってるんだから」
とある平日の放課後。いつも通りふいに現れた戀羽に反応する利駆にオルハが「構うな」、と注意したことに対する言葉だった。なんてことはない、戀羽らしい言い種ではあった。けれど今のオルハにとっては、やけに癇に障る台詞だったのだ。
「……利駆。ここからは、一人で帰れ」
「え? ですが……」
「いいから」
有無を言わさぬ物言いと、視線を逸らすことを許さない瞳。利駆はそこに、メラメラと燃え盛る炎を見つけた気がした。今の彼に逆らってはいけない……本能的にそう感じ取った利駆は、しぶしぶそこから先の道を一人で進むことにしたのだった。
家路を進む利駆が、心配そうにこちらを時折振り返りながらも、少し先の角を曲がったところで、オルハは視線を戀羽に戻した。
「あーあぁ。いい訳? 大事な彼女を一人で帰して。心配だからついてたんじゃないの?」
「歯ァ喰いしばれ」
言うなりオルハは、学生鞄をよそ様の家の塀の側へ放り投げる。瞬間、戀羽は流石にマズいと直感する。アレルギーというハンディキャップはあるものの、基本的にオルハより格下である戀羽では、力勝負で勝ち目はまずないのである。オルハが入学式で上級生相手に喧嘩をした時、本当は流血沙汰にならなかったのは、吸血鬼が本気を出してしまえば人間などひとたまりもないことをオルハが理解していたからである。しかし今彼の目の前にいるのは戀羽。オルハと同じ吸血鬼だ。つまり――手加減など一切要らないということになる。
「ちょちょ、ちょっと待ってオルハくん! ここはもっと冷静に……」
戀羽は慌ててオルハを落ち着かせようとするも、時既に遅し。彼の身には、オルハの振るう拳の嵐が吹き荒れることになるのだった。
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