第二幕 戀羽編
序章
新手
利駆たちの通う高校の二学期が始まって少し経った頃。残暑も漸く和らぎ、季節がすっかり秋めいてきたある日の晩、彼らの暮らす街の上空に、一組の影の姿があった。人の形を持つ彼らは、にも関わらず不自然に宙に浮いていた。人ならざる者――そう、彼らもまた、オルハと同じ吸血鬼だった。
「へぇ~、ここがオルハくんが選んだニンゲン界ってワケ。パッと見はどってことない、つまんなさそうな街だけど」
軽い口調でどことなく楽しそうに話す一方はレンハ。この街では【戀羽】と名乗るつもりだ。
「俺たちは遊びに来た訳じゃない。あまりはしゃぐな」
もう一方の真面目な口ぶりで話す男はサワといった。戀羽と同じく、和名では【爽羽】と名乗る予定だった。
「わーかってるよー。アレルギーを克服したと噂の、にも関わらず一向に帰ってこようとしないオルハくんを連れ戻す。ボクらはとても重要な任務を帯びてここに来てるってことはさっ」
おどけた調子で答える戀羽に、爽羽はふんっと鼻を鳴らす。戀羽が真剣にとりあっていないのが気に食わない様子だ。
「おれはまずは様子見をする。オルハのことだ、複数で行けば恐らく必要以上に警戒するだろう。斥候はレンハ、お前が務めろ」
「はいは~い、了解致しましたっと」
そんなにコソコソしても、オルハなら既に自分たちのことに勘付いていて無駄だろうに、と思ったことは、戀羽は胸に留めておいた。爽羽という吸血鬼は、普段はあまり口数が多くないくせに、お小言を言う必要が出た時には途端に饒舌になることを、うんざりするほど身をもって知っていたからだ。
「何はともあれ、オルハくんに接触しないと始まらないよね。早速明日の朝から動こうかな」
戀羽が呟くと同時。涼しげな風が一陣、まるで利駆たちに降りかかる騒動を予感させるように吹き抜けていった。
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