幕間【黒羽 惣之丞(Kurobane Sonojo)】
黒羽 惣之丞 の章
アユちゃんの生真面目にして馬鹿正直な正義漢っぷりに辟易しつつも、不思議なことに衝き動かされている自分がいる。
アユちゃん、城野先生、そして恭歌、俺……。
公僕たる俺たちが、逆に国民/市民の信頼を失わせる行為に出ようとしている。傍から見れば愚の骨頂だろう。
アユちゃんと城野先生が導き出した真犯人。それは、彼らの職場の同僚の薬剤師だと言う。最初はそんな偶然があるかと思ったが、その薬剤師がゆくゆくは自分が収監されることを見据えて、その予習のために勤務していたとしたら、少々こじつけているような気もするが、理解できないこともない。
しかし証拠はない。証拠はないが、動機があり、被害者の関係者を辿って、彼より他にそれを実行できる人物がいない。
少々乱暴な推理だが、彼らや恭歌から聞く青山という既決囚の人物像からは、これだけの凶悪犯罪には結びつきにくいのも事実。そして何よりも、第二の事件は収容されている間に発生した。死体の損壊のされ方が共通していることから、同一犯として考えるのが妥当であり、青山が犯人にはなり得ないのだ。
証拠がないだけに、犯人を自供させる現場に見ず知らずの自分がいない方ではいいのではないか、という提案もまたアユちゃんらしい。刑務所にその薬剤師を呼び出し、その真偽について問い質すようだ。今頃、もう始まっているだろうか。
城野先生のアパートで待機すること一時間ほど。ようやくアユちゃんから電話がかかってきた。
アユちゃんからの報告は、非常に含みをもたせた内容であった──。
その後、アユちゃんからの慌てふためくような声で、テレビをつけるように指示される。その映像に驚愕する。一体何が起こっているのだ。しかも、何やら遠州刑務所でも動きが……。
警察の勘とやらでなくても、何か不穏な空気を察せざるを得なかった。
そしてその空気を具現化するように、嫌な予感は的中する。
『やっと、解放された。署内はバタバタだよ』
「恭歌、大丈夫だったか!」
『もー! 大変だったけど、まぁ何とか元気だよ……』
恭歌から電話である。何日ぶりだろうか。久しぶりの元気そうな声に、電話に胸を躍らせたのも束の間であった。
『それより……、さっき嫌な報せを耳にしたよ!』
「ど、どうした?」
『青山の娘が危篤らしいの』
「えっ!?」
青山の娘は、アユちゃんの情報によると腎不全を患っていると言う。非常に気の毒なことにいちばん受け継がれたくない病気が、継承されてしまったようだ。少女に罪はなかろうに。心を痛める。
「腎臓が悪化したのか!?」
『腸閉塞だって。透析の合併症で、えっと、何だっけ? ひ、
聞いたこともない病名だったが、事態は一刻を争うことは、容易に想像できた。早くアユちゃんと城野先生に伝えなければ……!
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