64話 裏切りの爆弾

「フブキの言うことは本当だったんだ」


 爆発した跡地を見ながらクロタカさんが言う。

 もしも、あと少しでも遅れていたら、あの爆発に巻き込まれていたかも知れないというのに、汗一つ掻いていない。

 俺はこんなにも冷や汗で身体がじっとりしているというのに。


「……なにか、言っていたんですか?」


 確かに逃げ回っている最中、フブキは俺を指差した。

 どうやら、その時にクロタカさんに『爆発』することを教えていたらしい。わざわざ敵であるクロタカさんに情報を教えたのは、俺を囮にして自分が逃げるためだったのか。

 クロタカさん、敵を倒す事より俺を優先してくれたのか。

 ……。

 それは嬉しいけど、でも、俺は生き返る。

 だったら、フブキを逃がさない方が良かったのではと思うが、


「『爆弾』って武器、君なら知ってるんでしょ?」


 この戦況で、未知の武器があることの方が問題だと考えた用だ。

 確かに、これだけの威力。

 もはや、武器というよりは平気である。


「ええ、まあ。多少は」


「それを〈ゾンビ〉の中に隠していたらしいよ。『起動爆弾』とか言ってたかな。はっきりとは覚えてないけど、そんなようなこと言ってた」


「『起動爆弾』ですか」


 フブキ曰く、任意のタイミングで起動させることで、爆発させられるモノらしい。

 それは異世界のレベルで作れる兵器ではない。


 フブキが持っていた鈍器は、この世界にあるだろう。形は特殊だが言ってしまえば只の鈍器。自分が使いやすい形に作り上げた。

 それなら話は分かる。

 だが、『爆弾』は違う。

 ましてや、自分で起動させるなんて――どうあがいてもこの世界とは合わない。

あるとしたら、『拳銃』と同じく――俺達の世界にあるものだ。


「でも、まさか、本当にそんなのがあるなんてね。僕から逃げるための嘘かと思ったんだけど、うん。念のために助けて良かったよ」


「……ありがとうございます」


 爆発の噴煙が風で流れていく。

 岩山が削り崩れていく。

 小さな岩山とは言え、たった一回の爆発で山の一つを吹き飛ばしたのだ。その威力は、『爆弾』という存在を知っている俺ですらも、震えあがる威力だ。

『爆弾』なんて初めて見たけど、うん、使っていい物じゃないな。


「でも、なんで、そんなものが……」


 問題は何故、メイル領が俺達の世界の兵器を持っているのかということだ。

 なんて、思い当たる節は一つしかないのだけれど。

 俺達の世界の兵器は、ハクハ領が持っていた『拳銃』と同じ。


 そして、俺が騙されハクハの『経験値』として殺されていた時、シンリは『イケイ センジュは裏切ったから殺した』と真相を告げだ。


 その二点から考えれば、池井さんがハクハ領を裏切り、メイル領に『爆弾』を流したことになる。


 ……でも、それをやって池井さんに何の得がある?

 得どころか、それが原因でシンリに殺された。


「……何を考えてたんだろう」


 この世界で出会うことのなく、命を奪われた池井さんに思いをはせるが、死んだ人間の気持ちを理解できるはずもない。


「『爆弾』の出所がどこだろうと、ああなるって分かってれば別に問題はないよ。それよりも僕的には、最初に彼女フブキが〈ゾンビ〉に紛れていた方が気になるかな」


「紛れていた?」


「うん。最初は〈ゾンビ〉しかいなかった。で、〈ゾンビ〉から普通の姿に戻ったじゃない」


「ああ、そうでした」


〈ゾンビ〉に『爆弾』を仕組んでいたという行為に記憶を塗り替えられてしまっていたけど、そうだ。確かにフブキは〈ゾンビ〉から、元の姿に戻った。


「それって、自在に変化できるってことだよね。それってちょっと面倒くさいかも」


〈ゾンビ〉だけなら、余裕で戦えても――その中にフブキのような腕の立つ人間が紛れていたら話は変わってくる。

 統率の取れた〈ゾンビ〉の軍隊。

 クロタカさんすらも苦戦したのだ。

 ならば、皆も同じ思いを味わうはずだ。


「なら、俺達もみんなの手伝いに行った方がいいですよね?」


『爆弾』のこともある。

 情報の伝達を任せた二人を追って、俺達も仲間を探した方がいいだろう。

 俺はそう考えていたのだが――クロタカさんは違った。


「いや――、もっといい方法があるよ」


「え?」


「この勝負を終わらせればいい。僕たちが敵の『旗』を奪いに行こう」


 この『旗取り』が終われば、いくらでも情報の共有は出来る。

 どうせ、どこにいるか分からない仲間達を探すよりも、逃げたフブキを追った方が、勝利につながる道は開けるとクロタカさん。


 いや、それはちゃんと戦力が揃っていた場合だ。

 今、俺達二人だけなんだけど?


「……」


 敵がどう動いているのであれ、『旗』の周囲には少なからず敵がいるはずだ。

 それに――、


「クロタカさんも気付いていると思いますが、さっきの〈ゾンビ〉、指定された人数以上いましたよね?」


「うん」


「つまり、ゾンビはカウントされていない」


「ああ。手ごたえがなくて気にしなかったけど、確かに多かったかも」


「それくらい気にしましょうよ」


 いいながらも、俺も今になるまで気付かなかったんだけどね!

 俺達がさっき戦ったのは実質、フブキ一人だけと言うことになる。

 1人に対して無数の〈ゾンビ〉。

 そう考えると――、 


「『旗』の元に残った人たちは、かなりの人数だと思いませんか?」


「……」


 メイル領は〈ゾンビ〉によって人数の制限を超えたことになる。ならば、下手に戦力を分散する必要も、隠す必要もない。

 戦を切り抜け、消耗した相手を迎え撃てばいいだけだ。


 こんな戦法、サキヒデさんもカナツさんも対策しているはずもない。

 やはり、異世界人との初戦は明らかに不利だ。

 それは相手も同じなのだろうが……。


「だったら、尚更行かないと。ま、僕だけでも行くから、リョータは皆に伝えておいてよ」


「いや、そういう訳にはいきませんよ!」


 流石に敵が待ち構えているかも知れない場所に、クロタカさんを一人で向かわせることは出来ない。


「分かりました。その代わり、ピンチになったら直ぐに逃げて下さいよ」


「大丈夫。ここは僕に任せてよ。たまには僕も、自分の意思で――カラマリの役に立ちたいんだ」


 日ごろ迷惑をかけている分、こういう不利な状況で恩を返したいんだとクロタカさんは言う。

 まさか、狂人の口から恩返しという言葉を聞くことに在ろうとは。

 それが気まぐれでも思い付きでも――俺は従うしかない。


 だって、一人じゃ皆を見つけることも出来ないんだもん。

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経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~ 誇高悠登 @kokou_yuto

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