第47話 稗田礼子の研究ノート

 私、稗田礼子(ひえだ れいこ)が母国日本のオカルト分野に興味を持ったのは、かなりありきたりではあるけど日本の妖怪アニメがきっかけだった。


 最初こそ、アニメや物語のキャラクターとして妖怪を楽しんでいた私だが、妖怪が日本の文化や歴史に基づいて生まれた存在だと知ると、私の興味はそういった根源的な方へ向けられるようになった。


 考古学と民俗学の分野で学位を取り、アメリカの大学を15歳で飛び級卒業した頃には、私は学会の人々から面白がられて『妖怪ハンター』と呼ばれるようになっていた。


 そんな私が少女九龍城に辿り着いたのは、日本に残されたとある人魚伝説を追っていたことがきっかけである。


 人魚伝説の関係者にして、住人少女の倉橋椿(くらはし つばき)さんは、私がアポを取ると少女九龍城の食堂で会ってくれることになった。


 椅子とテーブルが雑然と並び、十代の少女たちが大勢くつろいでいる様子は、大学時代の学生寮を思い出させる。それでいて厨房から漂ってくる和の香りは、アメリカ育ちである私も不思議とホッとさせられた。


「アメリカ育ちというからどんな子かと思ったら、黒髪ロングストレートで純和風の大和撫子でびっくりしたぞい! それに学生服風のスーツもよく似合っておる」

「は、はぁ……どうも」


 椿さんは赤襦袢を身につけた十代前半とおぼしき見た目の少女で、その雰囲気はさながら座敷童……あるいは花魁の付き人である禿(かむろ)のようだ。しかし、そんな見た目で缶ビールをぐびぐびと飲むのだから困惑させられる。もしかして、単なる童顔のキャバ嬢とかじゃないだろうな……。


「で、お主の学説とやらを聞かせてもらおうか?」

「学説というほどのものではありませんが……はい、聞いていただきましょう」


 私は鞄から持参した研究ノートを取り出して開いた。


「八百比丘尼はご存じでしょうか? その昔、ある男の持ち帰った人魚の肉を娘が知らずに食べてしまい、不老不死になってしまったという伝説です。不老不死になった娘は比丘尼……つまり僧侶になり、日本全国を行脚したと言われています」

「日本昔話で聞いたような話じゃな」

「また、八百比丘尼は白椿を好み、花のついた枝を持ち歩いていたとか……」

「……わっちが八百比丘尼だと?」

「いやいや、それは流石に飛躍しすぎですよ」


 私の調査によると、椿さんが人魚伝説とつながるのはもっとあとだ。


「で、ここからが私の独自調査なのですが……八百比丘尼は二人いたと思われるんです」

「ほほーう」

「全国行脚に出た八百比丘尼にはいくつも逸話がありますが、旅先で人々の願いを叶えたという良い逸話がある一方で、人魚の肉を売りつけたという悪い逸話もある。そういった悪い逸話というのは、八百比丘尼の名声を利用した歩き巫女たちが発生源だというのが定説なのですが……私は違うと思っています」

「なるほど、悪い方の逸話は別人の仕業だったと……」

「そういうわけです。しかも、人魚の肉を売りつけようとする第二の八百比丘尼……その目撃情報は1970年代まで続いているんです。共通する見た目と行動から、人魚の肉を売りつけている女性は同一人物……すなわち、不老不死であると考えられます」


 私は研究ノートに貼られた新聞記事を椿さんに見せる。

 新聞記事の日付は明治から昭和までバラバラだ。


「そして、記録の中で一件だけ……人魚の肉を買って食べたという事例が残っています。購入者の名前は倉橋椿。明治初期の娼館で働いていた少女娼婦で、成長しない容姿を不思議がられて失踪したと言われています」

「……よく調べておるのう」


 椿さんが空っぽになった缶ビールをカツンと叩きつけるように置いた。

 顔はうっすらと赤らんでいるのに明らかに目が据わっている。


「で、お主はそれをわっちに聞かせてどうするつもりなんじゃ?」

「……あ、いや、すみませんっ!」


 私は椿さんの気持ちをようやく察して大慌てする。

 自分のひた隠しにしてきた過去を暴かれて、機嫌を悪くしない人はいないだろう。


「私、知的好奇心を満たしたいだけなんです。この研究結果を論文にするつもりも、公表するつもりもありません。そんなことしたら椿さんに迷惑ですからね。素性を隠しながらの生活がどれほど苦労続きだったか……心中お察しいたします」

「……お主、もしかして単なるオカルトマニアじゃな?」

「いやはや、全くのその通りでして……」


 苦笑いしている私を見て、椿さんがクスッと笑った。


「まあ、お主のトンデモ学説について、わっちはイエスともノーとも言わんよ。しかし、それをわっちに確認するためだけにわざわざアメリカから少女九龍城に来たのか?」

「いえ、しばらく少女九龍城に腰を据えて、都市伝説に幽霊に妖怪に……あらゆるオカルト関係について調べてみます。それに一つ、大きな捜し物もあるんです」

「大きな捜し物?」


 二本目の缶ビールを開けながら小首をかしげる椿さん。

 私は研究ノートの新たなページを開いた。


「火の鳥です」



 ×



 椿さんと話してから数週間後。

 住人仲間の加納千鶴(かのう ちづる)さん――通称・チズちゃんに案内してもらい、私は少女九龍城の奥深くを目指していた。


「少女九龍城をがっつり調査する人なんて初めてですよ」


 先導してくれているチズちゃんが私の方に振り返る。

 少女九龍城の地図作りをライフワークにしているため、彼女はこういったフィールドワークにも慣れているのだろう。出発してから小一時間、ほとんど動きっぱなしなのに爽やかな汗をかいているだけだ。


 その一方、最近自主トレを怠っていたせいで、私はすっかり体力が落ちてしまっていた。

 床に開いた穴を飛び越えたり、パイプにぶら下がって移動したり、ロープを引っかけて垂直の壁を上り下りしたり……さながら古代遺跡を探検しているインディジョーンズのような気分で進んでいたらへとへとになってしまった。


「稗田さん、休みます?」


 チズちゃんが心配そうな顔をして立ち止まる。

 私は天井の梁だったとおぼしき半分朽ちた木材に腰を下ろした。


「いや、ほんと……近道したいと言い出したのは私だったのにすみません……」

「目的地はすぐ近くですけど、大事を取って休憩しましょうか。それに帰りは遠回りでも安全なルートにしましょう」

「助かります……ふぅ……」


 私はタンブラーに入れて持ってきた緑茶を飲んだ。

 緑茶は数年前、研究調査で日本を訪れた際に初めて飲んだが、今ではすっかり大好きになっていた。


「それで……稗田さんは火の鳥を探してるんですよね?」


 チズちゃんが私の隣に腰を下ろした。


「ええ、そうです」

「びっくりしましたよ。少女九龍城に火の鳥がいるかもしれないって言われたときは……」


 わたしは椿さんと話したあと、少女九龍城における火の鳥の目撃情報を調べていた。


 そうしたら、出てくるわ出てくるわ……かつての住人たちが残した日記から、今まさに住んでいる少女たちの証言まで、研究ノートにまとめきれない量の目撃情報が集まった。


 そのほとんどは『少女九龍城で孔雀を見かけた!』や『外国の珍しい鳥が密輸入されているらしい』などの一見したところ火の鳥とは思えない証言や記録ばかりだが、美しい見た目の鳥が長年にわたって目撃されてきたことは間違いない。


「まあ、確かに私もこの辺で綺麗な鳥は見ましたけど……でも、どうして少女九龍城に火の鳥は住んでるんでしょう?」


 チズちゃんが頭の上に疑問符を浮かべる。


「伝説の生き物なんだから神聖そうなところとか、火の体をしてるんだから熱そうなところとか……よりにもよって、俗っぽいうえによく燃えそうな少女九龍城なんかに住まなくてもいいと思うんですけどね」

「いやいや、少女九龍城は一種の禁足地……すなわち神の領域ですよ」


 私は鞄から研究ノートを引っ張り出して開いた。

 チズちゃんは私の言葉を聞いて目を丸くしている。


「神の領域って……なんだか大げさじゃないですか? そもそも、少女九龍城は明治時代にあった娼館や、江戸時代にあった遊郭で使われていた建物が元になっているって話です。そんなに古い歴史はないですよ?」

「歴史の長さは関係ありません。女性たちによって守られた閉鎖空間であるという状況が重要なんです。女性たち……すなわち巫女に守られた場所が神格を帯びるのです。そうして神格を帯びたことによって、少女九龍城の奥地は神の棲まう地……常世となったと考えられます」

「な、なんか話が難しい……」

「少女九龍城がやべー場所につながっちゃった結果、やべー超常現象まみれの毎日になっちゃったっていう話です」

「……なるほど、そいつはやべーですね」


 うんうん、と神妙な面持ちでうなずいているチズちゃん。

 私としては「うんうん」くらいの反応で済んでいることに驚きしかない。


 少女九龍城の住人たちは現世(この世)と常世(あのよ)の境目を守る巫女であり、この場所では昔話や神話であったような出来事が実際に起こりえる。もしかしたら、彼女たちの何気ない行動が境界をゆがめてしまい、この世ならざるものを外界に解き放ってしまう可能性すら否定できないのだ。


 そうなれば世界は……いや、それは流石に話が大げさすぎるか。

 それではまるでファンタジー小説かバトル系少年漫画だ。


「少女九龍城がやべー場所なのは分かりましたけど、それと火の鳥はどうつながってくるんです?」

「火の鳥、不死鳥、フェニックス……そう呼ばれる存在は太陽神の使いとして神話に登場しています。そして、日本の太陽神と言ったら――」

「アマテラス、ですか?」


 チズちゃんがニヤリとする。


「その辺はメガテンやったことあるので知ってますよ!」

「はい、その通りです。そして、アマテラスは太陽神であると同時に、祭祀を執り行う巫女を表していたという説もあります。強引な考え方ではありますが、たとえば国を統治する女王であり神託を授かる巫女であった卑弥呼は、アマテラスそのものであるという説もあり……」


 私はちらりとチズちゃんの顔色をうかがう。

 案の定、彼女は小難しい話に顔をしかめていた。


「……まあ、つまるところ、火の鳥と太陽神、太陽神と巫女にそれぞれつながりがあるなら、巫女のたくさん住んでる場所には火の鳥も住んでるんじゃないかっていう私の妄想です。雑な三段論法です」

「へー、そんな説もあるんですね」


 強引な考え方なのは自分でも分かっている。

 でも、この少女九龍城という場所なら、何が起こってもおかしくないと思えるのだ。

 これが単なる妄想の域を出なくても、試しに脚を運んでみるくらいの価値はある。


「それじゃあ、そろそろ行きます」


 私はすくっと立ち上がる。

 自説について話してたら、なんだか元気が出てきた。

 チズちゃんも荷物を背負い直して立ち上がる。


「この廊下を真っ直ぐ進むと屋外に出て、すぐ目の前が火の鳥の目撃現場です。私はいつもの地図作りをしてから、ひとまず一時間後に稗田さんのところへ合流しますね」

「分かりました。それまでに調査を一区切りさせておきます」


 私はチズちゃんと別れて、床板の朽ちかけている廊下を進んだ。


 前に進むにつれて、廊下の先が妙に明るくなってくる。

 帽子のつば代わりに手をかざしながら進んでいると……ふと、人魚伝説を聞いてもらったあと、椿さんが言っていた言葉を思い出した。


『人魚伝説から少女九龍城まで辿り着いたお主の調査能力は賞賛に値する。しかし、それはあくまで外界の話……学校のお勉強が少女九龍城でまで通用するとは思わない方がいいぞい。ここで起こる現象はお主の予想の斜め上を行くからな』


 もちろん、それくらいは分かっているつもりだ。

 ここはもう現世ではなく常世……そのくらいの認識でいる。

 ヨモツヘグイを食べてこの世に帰ってこられなくなるようなマネはしない。

 前方の光がますます強くなる。

 目を細めながら歩み続けて、私はようやく目的地に辿り着いた。




 廊下の終わりにドアや戸のような出口はなく、まるで廊下の途中から全て崩れ去ったかのように建物がなくなっていた。


 建物から屋外に出た先には、さらに奇妙な光景が広がっていた。

 まず目に止まったのは野原の中心にたたずんでいる洞窟の入口である。二階建ての住宅ほどもある巨岩にかまくらの如く穴が開いており、その穴の奥は地下へと道が続いていた。まるでファンタジーRPGに出てくるダンジョンの入口だ。そして、巨岩に開いた穴のすぐ前には、テーブルのように真っ平らな巨石が横たわっていた。


 巨石はさらに一番外側の直径4~50メートルはあろうかという、二重……否、三重のストーンサークルに囲まれていた。真円を描くように敷石が並べられており、さらにその円上には規則性を感じさせる間隔で、高さ1メートルほどの石柱が立てられている。


 私はその光景を目の当たりにして、秋田県にある大湯環状列石を思い出す。

 大湯環状列石は確か日時計になっていたはずだが……目の前のストーンサークルも石柱の配置がよく似ている。


 古代……のものかどうかはまだ分からないが、火の鳥の目撃現場に日時計とはますます太陽との関連を感じさせられる。ただ、いくら巨大であるとはいえ、女子寮にストーンサークルはあまりに場違いだ。


 そんなことを考えていると――


「……あれはっ!?」


 突然、わたしの頭上を大きな影が通り過ぎていった。


 ばさりと羽ばたきながら、大きな影が巨岩に降り立つ。

 それは全身を黄金に輝かせる未知の巨鳥だった。


 白鳥を思わせる細長い首にすらりとした脚、それでいて広げた翼が3メートルを超えようかという巨体、真紅のトサカに孔雀を彷彿とさせる長い尾羽……そして、黄金色の全身を淡く包んでいる炎のオーラ。


 呼吸を忘れていたことに気づき、私は慌てて深呼吸する。

 危うく美しさにあてられて窒息するところだった。


「これが……火の鳥……」


 私は吸い寄せられるように火の鳥へ近づいた。


 そんな私のことを火の鳥が巨岩の上から見下ろす。

 それから、火の鳥の全身が一層まばゆく輝いたかと思うと、炎に包まれた巨鳥の姿から十代とおぼしき少女の姿に変化した。


 顔立ちは幼さを感じさせる純和風。しっとりとした黒髪を高い位置で結い上げて、頭には黄金のサークレットをはめている。目尻と頬に紅を差しており、頬には呪術的な意味を感じさせるフェイスペイントが施されていた。


 服装は真紅に染められている袖の広がった絹の衣、それから同じく絹の折り目がないスカート……それらの上から真っ白な貫頭衣をかぶり、鱗紋様のたすきを体にかけていた。弥生時代の高貴な身分……というより、歴史の教科書に登場する卑弥呼そのものだ。


 火の鳥(女の子モード)は7~8メートルはあろうかという巨岩から飛び降りる。

 重力を感じさせないふんわりとした動きで着地すると、そのまま私の方にずいずいと近づいてきた。


 私は目を白黒させたまま、その場で硬直している。

 なにしろ、相手は伝説の火の鳥なのだ。驚かせたり機嫌を損ねたりしたら、どんな事態になるか分からない。逃げられるくらいならまだしも、火炎放射でも浴びせかけたり、下手に不老不死にでもさせられたりしたら目も当てられない。


 火の鳥がおもむろに私に尋ねた。


「あなた、どちら様かしら?」

「稗田礼子……考古学と民俗学を研究しています」


 私がそう答えると、火の鳥は高飛車なお嬢様のように「ホーホホホホ!」と笑った。


「あなたも永遠の命をお望みかしら?」

「ぜ、全然ほしくないですね……不老不死で永遠に人生をエンジョイするとか、流石に難易度が高すぎますから……」

「……なんだ、つまんない」

「はい?」


 こいつ、つまんないって言ったか?


 私が目をぱちくりさせていると、火の鳥がさらにこちらへ接近してきて、それこそ鼻と鼻がくっつきそうな距離で顔を覗き込んでくる。すると、化粧に使われている紅から、原料であるベニバナの匂いがふわりと香ってきた。


 それにしても……なんというか……改めて見るとものすごく美人だ。私も椿さんから大和撫子とか言われたけど、目の前の火の鳥からはもっと原初的な美を感じる。胸の奥に潜んでいる感情をかき立てられるような――


「ねえ、人間さん」

「は、はい……」

「私とまぐわっていかない?」

「まぐわ……は、はいぃっ!?」


 私は驚いた隙を突かれて、ドンと野原に押し倒される。

 火の鳥はぺろりと舌なめずりしながら貫頭衣を脱いだ。


「ここは空気も綺麗だし、人もあんまり来ないから快適だし、それでいてたまに会う女の子は美少女ばかりだし……私はこの場所をとっても気に入ってるの。それで……あなたは私とまぐわっていくわよね?」

「ま、ま、待ってください! 私にその気はありません!」

「あら、私に性別はありませんよ?」

「いや、性別の問題ではなくてですね……」


 火の鳥とセックスして全身大やけどとか嫌すぎる! というか、伝説の生き物とセックスして、万が一にも子供が生まれちゃったりしたらどうするの? 異類婚姻譚として新しい伝説が生まれちゃうの?


 もしかして、少女九龍城の住人少女たちが巫女ならば、彼女たちは火の鳥の機嫌を取るための生け贄としての役割もあるとか……? そ、そんなの怖すぎるーっ!


「えー。青空百合ックス、開放的で気持ちいいのになー」

「伝説の火の鳥が青空百合ックスとか言わないでください……」

「……分かりましたわ」


 火の鳥が脱いだ貫頭衣をすっぽりとかぶり直す。

 彼女はぷくっと頬を膨らませて、巨岩に開いた穴に走って行った。


「わたし、おへそ曲げちゃいますもんねー! 鳥にもちゃんとおへそありますからねー!」

「こんなタイミングで鳥アピールされましても……」


 火の鳥の姿が巨岩に開いた穴に消えたかと思うと、穴の前に横たわっていた真っ平らな巨石が独りでに動き出す。石のテーブルかと思われた巨石は垂直に立ち上がると、巨岩に開いた穴をぴっちりと塞いでしまった。どうやら、洞窟の入口を塞ぐふただったらしい。


 最大の異変はその直後に起こった。


 私は急に嫌な予感を覚えて空を見上げる。

 頭上は抜けるような青空で、ほぼ真上に近い位置で太陽が輝いていた。


 その太陽が……唐突に欠け始める。

 もちろん、自然の日食が起こる予定なんてない。明らかな異常現象だ。


 太陽が完全に隠されてしまい、新月の夜のように周囲が暗くなる。日光が届かなくなったことで気温も明らかに下がっていた。といっても、私が背筋を震わせているのは寒くなったからではないが……。


 私は洞窟の入口を閉ざしている巨石をぺしぺしと叩いた。


「火の鳥さん! 火の鳥さん、出てきてください! 日食をやめてください!」

「ツーン……」

「完全にすねてるーっ!?」


 太陽神(の使いである火の鳥)が岩屋(つまりは洞窟)に隠れて、その結果として世界が闇に閉ざされる……これは思いっきり古事記にも記された天岩戸伝説の再現だ。しかも、アマテラスが天岩戸に閉じこもっている間、外の世界ではありとあらゆる災厄に見舞われたと古事記に記されている。


 つまり……火の鳥の機嫌を取らないと世界がやばい!

 私のせいで世界が魑魅魍魎のあふれた世紀末になるなんて御免だ。


「分かりました! 青空百合ックスでもなんでもします!」

「ん? 今、なんでもするって言ったわね?」


 火の鳥がこんなときだけ耳ざとく言質を取ってくる。


「それでは岩屋の前でストリップしてもらおうかしら。もちろん、少女九龍城の住人たちをたくさん集めて盛大なお祭りを開いてね」

「私にアメノウズメ役をやれと!?」


 アマテラスを岩屋から引っ張り出すため、八百万の神々は盛大な宴を執り行い、その中でもアメノウズメという女神は半裸でセクシーダンスを踊り、その場を大いに盛り上げたとやはり古事記に記されている。


 ということは、少女九龍城にやってきてからわずか数週間の新参者である私が、住人仲間たちをわんさかと集めてストリップを披露しなければいけないと?


 人格を疑われるわっ!!


 しかし、今は従う以外に日食をなんとかできる方法はない。


「わ、分かりました……ストリップやらせていただきます……」

「えっ、本当? 私、岩屋の中から心の目で見てますね」

「ええ……それじゃあ、しばしお待ちください……」


 私は平らな巨石を背にしてしゃがみ込む。


 チズちゃんが地図作りから帰ってきたら相談してみるしかあるまい。住人仲間たちに影響力を持っている彼女に手伝ってもらえたら、宴の人集めも少しは楽になるだろう。でも、その前に天岩戸伝説が再現されたなんて信じてもらえるかなぁ……。



 ×



 翌日の正午が迫った頃。

 私のストリップを見るため、火の鳥の住処にわんさかと住人少女たちが集まった。

 休日で時間があるということもあるだろうが、片道一時間もある道のりをわざわざやってくるなんて物好きな話だ。


 4~50人は集まった住人少女たちは、ストーンサークルに篝火を焚き、バーベキューをしながらどんちゃん騒いでいる。昨日から続いている日食のことも「昼間からキャンプファイヤーできるぞ!」くらいにしか思っていないらしい。でも、火の鳥の機嫌を取るために盛大な宴を開くにはむしろ好都合だ。


 その一方、少女九龍城の外……つまり世間一般は大混乱に陥っていた。日食が一晩続くという異常現象に直面して、中には「恐怖の大王がやってきた!」とか「マヤ暦の予言通りだ!」とか騒ぐものも現れている。実は『世界滅亡の危機』という意味では大正解! もちろん、いくらなんでも真面目に信じられてはいないが……。


 それから、人集めを手伝ってくれたチズちゃん、そして彼女と親密な関係にあるらしい椿さんには、今回の事情を詳しく説明してある。せめて彼女たちだけでも、私が自分の欲求を満たすためにストリップをする女でないことを知ったほしかったのだけど――


「礼子ちゃん、はよう始めるんじゃ! わっち、待ちくたびれたぞい!」


 誰よりもストリップを楽しみにしているのが椿さんなのだった。

 彼女は敷石に腰を下ろして、さっきからビールの中瓶をラッパ飲みしている。

 しかも、よさげな地ビールをわざわざ持ち込んでいる浮かれっぷりだ。


「これはもしかして、彼女の過去を暴いてしまったことの意趣返しですかね……」

「いや、それはないと思いますよ」


 そう言ったのはチズちゃんだった。


「椿さんは美少女が大好きなんです。あと信じられないくらいスケベです」

「は、はぁ……」


 火の鳥にしろ椿さんにしろ、永遠の命があると性欲が強まるのだろうか?


 ちなみに酒を飲んでいる住人仲間は椿さん以外にも何人もいる。日本は法律に厳しいと聞いていたが、少女九龍城では例外のようだ。これで葉っぱでも吸ってる子がいたら、完全にアメリカの大学で行われていた学生パーティーだ。


 ここは当時のテンションを思い出してストリップをやりきるしかない。不幸中の幸いにも、ストリップのまねごとは経験がある。飛び級組も含めた女子大生が学生寮の一室に集まり、深夜テンションの赴くまま、みんなで服を脱ぐという馬鹿騒ぎをやらかしたのだ。あのときは私も初めての徹夜でどうかしていた……。


「チズちゃん、お願いします」

「はーい」


 チズちゃんが用意してくれた古びたラジカセのスイッチを入れる。

 すると、ラジカセからマドンナの『Like A Virgin』が流れ始めた。

 これは椿さんのリクエストらしい。選曲シブいなぁ……。


 洞窟の入口を閉ざされた巨岩の前には、住人仲間たちの手によって、ご丁寧にもお立ち台が用意されていた。しかも、ピンク色のライトで下からライトアップしている手の込みよだ。ここの住人たちのお祭り好き加減と一致団結っぷりには舌を巻く。


 わたしがお立ち台に上がると、観客の住人仲間たちが一気にヒートアップした。


 ここまで来たらやりきるしかない!


 わたしは観客たちに背中を向けて、スーツのジャケットをするりと脱いだ。

 そのまま指でつまんだジャケットを放り投げる。


 くるりとターンして観客たちの方に向き直ると、お酒やらバーベキューやらを片手に大盛り上がりしている少女たちの視線が突き刺さってきた。いくらお祭りのテンションとはいえ、これは流石に恥ずかしい!


 私はお立ち台の上から、傍らで見守っているチズちゃんに呼びかける。


「チズちゃん、お酒をお願いします! なんか強いやつ!」

「お酒ですか!?」

「礼子ちゃん、ほれっ!」


 チズちゃんの隣にいた椿さんが日本酒の一升瓶を差し出してくれる。


 祭祀に御神酒はつきもの!


 私はそれを受け取ると、よく冷えたそれをラッパ飲みであおった。

 すると、喉の奥からカァーッと熱がのぼってくる。

 気持ちがふわふわしてきたのに任せて、プリーツスカートを一気に脱いだ。


 露わになった生足を目の当たりにして、観客たちから「おぉーっ!!」とスケベ丸出しの歓声が上がる。


 私は盛り上がる観客たちから顔を背けつつ、ブラウスのボタンを一つずつ外していった。


 ボタンを外すごとに歓声が大きくなっていく。

 最後のボタンを外して、すとんとブラウスを足下に落とした瞬間、観客たちがガッツポーズを決めるほどの勢いで歓声を上げた。


「おぉ、アメリカンサイズ……!」

「す、すごいですね、これは……」


 椿さんとチズちゃんが目を丸くしている。


 どうやら私は着やせするタイプというやつらしく、お風呂やらプールやらで服を脱ぐと、いつも一緒にいる人に驚かれていた。私はそれがちょっとしたコンプレックスだったが、この隠れ巨乳で世界の危機を救えるなら安いものだ。


 でも、アメノウズメは確か下半身もすっぽんぽんで踊ってたよなぁ……。


 私はさらに日本酒を飲んで気合いを入れる。


「こ、こ……これ以上を期待してるなら……お、お前らも脱げ――っ!!」


 勢いに任せて観客たちを煽ると、彼女たちはノリノリで服を脱ぎだした。


 脱ぎ捨てられた服と下着が宙を舞う。

 甘酸っぱい汗のにおいを振りまきながら、少女たちは賑やかに踊り始めた。


 言い出しっぺである私も下着を脱ぎ捨てて舞い踊る。

 汗に濡れた私のおっぱいがぷよんぷよんと跳ねた。


「チズちゃん、あのおっぱいめっちゃでかい! しかも絶対柔らかい!」

「椿さん、なんだか私も興奮してきました」


 どうも妖しい雰囲気になっているチズちゃんと椿さん。

 ああもう、好きなだけ盛り上がっちゃってください!


 私は全身をくねらせてセクシーダンスを踊りながら、洞窟の入口にふたをしている巨石に向かって言い放った。


「火の鳥よーっ! 乙女の舞を奉るーっ! お姿を現したまえーっ!」


 精一杯の訴えが熱狂の渦を巻く野原に響き渡る。


 果たして訴えが通ったのか否か。

 洞窟の入口を閉ざしている平らな巨石が、少しずつ横にスライドし始めた。


 隙間からまばゆい光があふれ出し、私は思わず目を細める。

 突然の閃光に目が慣れてくると、後光の中を歩む火の鳥(女の子モード)の姿を見ることができた。


 それと同時に日食で見えなくなっていた太陽が空に現れ始める。

 そこからは始まってしまえばあっという間だった。

 私たちの頭上に雲一つない青空が広がり、そして野原には暖かな日差しが降り注いできた。


 晴れ渡る青空の下、真っ裸の少女たちが恥ずかしげもなく笑い合っている。

 ここは知恵の実を食べる前のエデンの園か?


「素晴らしい舞を見せていただいたわ」


 ぱちぱちと拍手しながら近づいてくる火の鳥。

 私はドッと疲れを感じて、崩れ落ちるように立ち台から下りた。


「世界の滅亡を回避しなくちゃいけないですからね……というか、私が素っ裸で踊らなかったらどうするつもりだったんですか? これが天岩戸伝説の通りだったら、太陽が隠れたせいで世界中に災厄があふれ出しちゃう流れですよね?」

「ホホホ。そうなったら歴史を一回転させて、また生命の誕生からやり直すわ……なんてね」


 火の鳥が屈託のない笑みを浮かべる。


 こいつ……本当に火の鳥なのか?

 巫女に守られた閉鎖空間という状況を利用して、火の鳥を語っている悪神か淫魔とかじゃないのか?


 いぶかしんでいる私の両肩に火の鳥がぽんと手をのせた。


「……で、なんでもしてくれるのよね?」

「え、ええ……ですので、アメノウズメの舞をやらせていただきましたが……」

「そうじゃなくて、青空百合ックスの方よ」

「そっちもやらなくちゃダメですか!?」


 火の鳥がうきうきと期待の眼差しを向けてくる。

 その微笑みからは一切の邪気が感じられず、混じりっけのない「可愛らしいあなたと楽しく交わりたい!」という好意と欲求だけが伝わってきた。世界の滅亡を天秤にかけて肉体関係を迫ってくるあたり、かなりのサイコパス感を覚えるのだが……。


「……う、うぐぐ」


 私は思わず女神とあがめたくなるような火の鳥の美貌から目をそらす。


 ああもう、顔のいい女っていうのはこれだから困る!


 昔話とか神話とかに登場する『人にあらざる美女に一目惚れしちゃった人たち』は、きっと今の私のような気分だったのかもしれない。


「わ、分かりました……青空百合ックス、承ります。でも、するのはせめて岩屋の裏手にしませんか? 人目のあるところでするのは、なんの経験もない私には難易度が高すぎます。というか普通に恥ずかしい!」

「大丈夫、大丈夫。周りのことなんか気にならないくらい乱れさせてあげるわ」

「あ、あと……変に寿命が延びたりとかないですよね?」

「不老不死は無理でしょうけど、十年くらいは延びるでしょうね」

「わーい、ほどよく長生きできそう!」


 私はやけくそになって日本酒をあおる。

 そして、一升瓶から口を離した瞬間――


「では、いただきますね」

「むぐっ!?」


 私の体を抱きしめるなり、火の鳥がおもむろに唇を重ねてきた。

 しかも、いきなり舌まで入れてくる。

 人体の中で最も敏感であろう場所をかき乱されて、頭のぽわぽわが一気に加速した。


 太陽神の使いであり、鳥モードでは常に炎をまとっているからなのか、火の鳥は体温も高ければ舌まで温かい。彼女に抱きしめられていると、まるで温泉に入っているかのように心地にさせられる。口の中に至ってはホットの紅茶を常に注がれているかのように温かく……それでいて、唾液は果実の蜜のように甘かった。


 私は気持ちがふわふわして、野原に膝をついてしまう。


「ひ、人のいないところでしてって言ったじゃないですかぁ……」

「はいはい、これから天国に連れて行ってあげますよ」

「それってマジの常世の国とかじゃないですよねぇ……」

「ホホホ、それはどうでしょう?」


 火の鳥に手を引かれて、私は巨岩の裏手へ連れて行かれる。

 気分はすっかり人身御供に差し出された生け贄だ。


 これは神域を犯そうとした私に対する太陽神の罰なのか、それとも火の鳥を名乗る何者かの策略なのか……。

 無力な人の子である私には、もはやなんの抵抗もできないのだった。



 ×



 その後のことについて話すと、私が意識を取り戻したのは翌日のことだった。


 いつの間にかパジャマに着替えさせられて、自室の布団で寝かされていた私は、すぐさま住人仲間たちにことの顛末を聞いて回った。


 というのも、酔っ払ったせいなのか超常的な力が働いたのか、私は火の鳥に連れて行かれてからの記憶をほとんどなくしてしまっていたのである。


 しかし、住人仲間たちに対する聞き込みもむなしく、巨岩の向こうに隠れたあとの私と火の鳥がどうなったのか知るものはいなかった。


 ただ一つ覚えているのは、とにかくめっちゃ気持ちよかったということだけだ。

 とりあえず、天国に連れて行くと豪語するだけのテクニシャンだったのは間違いない。


 神(?)に抱かれた人間なんて、最近はそうそういないだろうし、アレはアレで貴重な経験だった……のかもしれない。


 そしてさらに後日、私は再び火の鳥の住処に向かった。


 けれども、火の鳥の住処があった場所にはだだっ広い野原があるばかりで、見上げるほどの巨岩や、古代の日時計とおぼしきストーンサークルも、跡形もなく消えてしまっていた。


 自分の存在を大勢の人間に知られてしまったからか、それとも青空百合ックスに満足したのか、それとも単なる気まぐれか……。

 私はなんとも釈然としないまま、火の鳥の住処があった場所をあとにした。




 さらに後日、チズちゃんと椿さんの二人がご馳走してくれるというので、私は彼女たちと夜の食堂でテーブルを囲んでいた。


「さあさあ、一杯どうぞじゃよ」

「あ、どうもどうも……」


 椿さんに熱燗を注いでもらい、私はそれをちびちびと飲む。


 天岩戸伝説を再現するときに日本酒をしこたま飲んで以来、すっかりお酒の魅力にはまってしまった。お酒は二十歳になってから、という日本の法律を気にしていた私はどこへやら……この少女九龍城が現世と常世の境目にある別の国だからセーフ、ということにしてこう。


「今回は本当にお疲れさまでした」


 椿さんの隣にいるチズちゃんがニコッと微笑む。


 ビールを飲んでいる椿さんとは違って、チズちゃんは体によさそうな炭酸水を飲んでいる。椿さんが昼間からお酒を飲んでだらだらしている一方、チズちゃんは朝早くからフィールドワークに勤しんでいるし、前々から思ってはいたが随分と正反対のカップルだ。


「稗田さんが世界を救ってくれて助かりました。世界が滅亡しちゃったら、私も少女九龍城の地図が作れなくなっちゃいますからね」

「チズちゃん、本当に地図が好きですねえ……」


 ちなみに丸一日にわたって日食が続いた異常現象については、すでに世間の話題として風化しつつある。世界中の学者はすっかりお手上げだし、世界滅亡を謳っていた自称預言者たちは知らんぷりしているし、そもそも世間を賑わす事件には事欠かない毎日である。


 まあ、私は椿さんとチズちゃんの二人から感謝してもらえるだけで十分だ。

 世界を救ったヒーローになったらプライベートは完全崩壊だろう。

 というか、世界が滅亡しかけた原因の一端は(不本意ながら)私にもあるし……。


「そろそろ大丈夫そうじゃな、ほれ」


 テーブルの上には七輪が置かれており、椿さんがそこでエイヒレを炙ってくれていた。


「いただきます……あちち」


 私は美味しそうに反り返ったエイヒレをつまんで口に運ぶ。

 お、美味しい……明らかに中年的な趣味嗜好に向かっている気がするけど!


「そういえば、稗田さんは火の鳥のことを世間に発表するんですか?」


 チズちゃんが素朴な疑問を投げかけてくる。

 私は反射的に首を横に振った。


「いやいや、しませんよ! 女子寮で出会った火の鳥のせいで日食が起こり、それを解決するためにストリップを踊った上に青空百合ックスまでしたとか、何一つ学会で発表できる要素ないですからね」

「そ、それもそうですね」

「今回は自分の知的好奇心が満たされただけで満足です。実際のところ、アレが本当に火の鳥かどうかは分かりませんでしたし、むしろ謎が増えてしまった感じでしたが……」

「……それについては考えがあるぞい」


 新たにあぶったスルメをかじりながら椿さんが言った。


「これはわっちの勘じゃけと、あれは少女九龍城の守護神的なものが、お主の火の鳥に会いたいという望みを感じ取って形を得たものじゃないかのう?」

「ふむ、火の鳥を生み出したのは私の願いだったと……しかし、少女九龍城の守護神とは一体何者です?」

「いや、それはわっちが適当に考えた。でも、もしも少女九龍城に守護神的な何かがいるとしたら、そいつは間違いなく女の子が大好きじゃろうな。ここに気の合うやつらしか集まってこないのも、守護神的な何かの導きなのかもしれないのう」


 となると、今回は火の鳥となって私と青空百合ックスした守護神的な何かは、また別の少女の前に理想的姿となって現れる……ということだろうか? そう考えると、あの火の鳥と一夜を共にした住人仲間は意外と多いのかもしれない。


「調査を続けてさえいれば、あの火の鳥と再会することもあるかもしれませんね」


 私は熱燗をちびりと飲む。

 すると、チズちゃんが驚いたのか目を丸くした。


「このあとも調査を続けるんですか? てっきり、火の鳥もどこかに行っちゃいましたし、これが送別会になっちゃうものかと……」

「いやいや、むしろこれからですよ」


 私は常に持ち歩いている研究ノートを開き、それを二人に見せつけた。


「すでに住人仲間たちから、少女九龍城の超常現象についてわんさかと情報をいただいています。その中には古代の神話に通じそうなものもちらほら……。次こそは歴史的な新事実を発見して、この胸の奥からあふれ出てくる好奇心を満たしてみせます」

「私が言うのもなんですけど、稗田さんも自分の欲求に素直ですよね……」


 そのあたりはお互い様といったところである。

 自分の欲求に素直なものたちが集まるのも、この少女九龍城の特徴なのかもしれない。


 そのとき、椿さんが赤ら顔をして言った。


「わっちとしては、礼子ちゃんが火の鳥とどんなプレイをしたのか気になるのう!」

「えっ!? いや、そのときの記憶は完全になくしてまして――」

「またまたぁ! どんなスケベプレイをしたのかは知らんが、少女九龍城では恥ずかしがって隠す必要はないぞい? なんなら、このあとわっちの部屋で……うぐっ!?」


 椿さんの脇腹を肘で小突くチズちゃん。


 私は微笑ましい気持ちになりながら、力関係が如実に感じ取れるやりとりを見守る。

 オカルト目的で訪れたこの場所だが、これから毎日楽しく過ごせそうだ。


(おしまい)

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