第43話 魔法少女マジカルタイガー vs 巨大ネズミ軍団

 日光がまばらにしか差し込まない少女九龍城の薄暗い廊下を私は全力で駆けている。廊下の前方……角を曲がった先からは、住人少女たちの悲鳴が聞こえてきた。


「この先にやつらがいる。スバル、変身だ!」


 しゃべりながら私に併走しているのは、虎柄の猫……のぬいぐるみである。両腕で抱きかかえられるサイズのそれが人間の言葉をしゃべっているのだ。


「分かったよ、虎太郎!」


 私は右手に持っているピンク色のマジカルステッキを頭上に掲げる。

 それから、先端にふかふかの猫の手のついたそれをくるくると振り回した。


「私は虎だ! 虎になるのだ!」


 呪文を唱えた瞬間、マジカルステッキから光の粒子があふれ出す。

 光の粒子は私の全身を包み込むと、身につけていた学校指定の体操着をピンク色の虎柄アイドルコスチュームへ変身させた。ヘソ出しにミニスカートなので動きやすいが、ちょっと短すぎてスースーする。


 私は廊下の角から飛び出しざまに名乗りを上げた。


「魔法少女マジカルタイガー、ただいま見参っ!!」


 名乗っている場合じゃないとは自分でも思っているけど、ここまでやらないと魔法少女への変身が完了しないのだから仕方がない。


「虎谷さん、ここはあぶな……か、可愛いっ!」


 悲鳴の主は住人仲間にして大親友、結城アキラ(ゆうき あきら)ちゃんだった。


「そ、その格好、いつにもまして……じゃなくて! カイがっ!」

「わんわんっ! わんわんっ!」


 アキラちゃんの指さした先には、私の飼い犬であるカイが小さく丸まっていた。

 そうなるのも無理はない。

 カイは小熊ほどもあろうかという巨大なネズミ数匹に群がられていたのだ。


「こいつ、こんなときにハムを食べながら歩いたりするからーっ!」


 いつもは幽霊を眼力で追い払うアキラちゃんも、小熊ほどもある巨大なネズミたちには手も足も出ないらしい。

 カイの方もカイの方で、お中元に送られてきたロースハムを抱えて、意地でも手放そうとしないのだった。


「ネズミ、退散!」


 私はソフトボールクラブで鍛えた要領で、マジカルステッキのフルスイングを巨大ネズミの一匹に叩き込む。

 巨大ネズミは派手に吹き飛んで、天井と床を何度かバウンドすると、まるで魔法が解けたかのように手のひらサイズまで縮んでしまった。

 そして、小さなネズミはさっきまでの攻撃性が嘘のように大人しくなると、健康的な足取りでその場から立ち去った。

 痛めつけられて逃げ出したというより、憑き物が落ちたという表現が近いかもしれない。


 私はフルスイングで巨大ネズミを立て続けに追っ払った。

 早急に駆けつけられたおかげで、カイは着ている服をネズミにかじられて、お中元のロースハムを奪われただけで済んだ。


「やったな、スバル! だが、まだ安心できないぜ……」


 ぬいぐるみの虎太郎がやけにキリッとした顔でこちらを見上げる。

 私は額に浮かんだ汗を拭いながらうなずいた。


「うん……ネズミが巨大化した原因、早く見つけないとね」


 ×


 平凡な女の子である私、虎谷スバル(こたに すばる)が魔法少女になったのは一週間前の出来事がきっかけだった。

 すなわち、巨大ネズミ軍団の襲撃である。

 巨大ネズミたちが最初に狙ったのは食堂だった。彼らは食堂に残された昨日のおかずを食べ尽くし、その日の食事に使う野菜を食べ尽くし、さらには冷蔵庫をこじ開けてその週に使う食材を食べ尽くしてしまった。


 いつもは少女たちの集まる食堂が、小熊サイズのネズミで埋め尽くされている様子は、アクシデント慣れしている住人少女たちも悲鳴を上げるばかりで対処できなかった。あの管理人さんですら、爆竹を投げ込んで追い払うのが精一杯である。

 巨大ネズミたちが食堂から去って行ったとき、そこに残されたのは徹底的にかじられたテーブルと椅子、それからボロボロになったカーペットだけだった。


 このままでは少女九龍城の全てを巨大ネズミたちに乗っ取られかねない!

 住人少女たちはねずみ取りを仕掛ける、毒入り団子をばらまくなど対策を取ったが、巨大ネズミたちはかなり賢いらしく一匹も罠に引っかからなかった。


 アキラちゃんの眼力も通用しないし、カイが吠えても追い払えないし、かといって私にできることがあるとは思えないし……。

 そんな風に私が頭を悩ませながら、学校から帰ってきたときのことである。


 自室のドアを押し開けた瞬間、


「おう、帰ってきたか」


 野太いおじさんの声が聞こえてきた。


 私の部屋には大量のぬいぐるみが住んでいる。そのほとんどは家族や友達からの誕生日プレゼントだ。赤ん坊の頃からプレゼントされたものを手放せず、少女九龍城まで全て持ってきてしまった次第である。

 そんなお気に入りの一つ……虎柄の猫のぬいぐるみが二本足で立ち上がっていた。


「虎谷スバル、俺はあんたに頼みが――」

「かーわーいーいーっ!!!」


 私はヘッドスライディングで飛び込み、ぬいぐるみを抱き上げてほおずりする。

 あぁ、午後のお日様に照らされていたからすごくいいにおい……。


「虎太郎、いつからしゃべれるようになったの?」

「こ、虎太郎っ!?」


 ぬいぐるみの虎太郎が野太い声で驚いた。


「悪いんだけどよ、俺はその虎太郎じゃねえ。体を借りてるだけさ」

「えっ……もしかして、幽霊が取り憑いてるの?」

「俺はそんなんじゃない。言うなれば少女九龍城の化身の一部だ」

「けしん?」


 私の脳内で宇宙が渦巻き始める。

 生命はどうして生まれたのか……人類はどこに向かっていくのか……。


「む、無理に理解しようとしなくていいからな?」

「はい……」

「ともかく、俺は巨大ネズミの大発生を止めるために遣わされたんだ。しかし、俺自身はぬいぐるみの体なんで戦うことができないからな。あんたにネズミたちをやっつけてもらおうとお願いしに来たわけさ」


 虎太郎がどこからともなくピンク色のステッキを取り出す。

 先端に柔らかそうな肉球がついていることを除けば、それは幼稚園児のとき両親にねだって買ってもらった魔法の杖(マジカルステッキ)にそっくりだ。女児向けアニメに出てくる女の子なら誰もが欲しがったアレである。


「こいつをつかえば、あんたは巨大ネズミを大人しくさせる力を得る。あのネズミは真っ当な手段で巨大化したものじゃない。あいつらの暴走を止めてやれるのは、特別な力を持つこのマジカルステッキ……そして、これを操ることのできる――」

「やるよ!」


 私は話を聞き終える間もなくマジカルステッキを受け取っていた。

 跳び上がるように立ち上がって、心の導かれるままにマジカルステッキを振る。


「私は虎だ! 虎になるのだ!」


 知らないはずの呪文が胸の奥からあふれてきた。

 マジカルステッキからほとばしった光の粒子に全身を包まれる。


「魔法少女マジカルタイガー、ただいま見参っ!!」


 名乗りを上げたとき、私はピンクタイガーの魔法少女に変身していた。

 ヘソ出しにミニスカート、ふわふわした手袋に膝まであるブーツ。

 頭の虎耳はコスプレ用の偽物ではなく、しっかり頭から生えているようだった。


 私は自分のコスチュームを姿見でまじまじと観察する。

 すると、顔が急に熱くなってきた。


「こ、これって、どうなのかな……私、もう15歳だし……」

「問題ない。最近は子持ちでも、こんな格好をしてる人はざらにいる」

「そういう問題じゃ――」

「期待してるぜ、スバル。この問題を解決した暁には、ちょっとくらいなら魔法の力を自分のために使ってもいいんだぜ?」

「うーん、考えとく……」


 とにもかくにも、私はこうして魔法少女として活動することになった。

 魔法というご褒美に若干釣られる形で……。


 ×


 アキラちゃんとカイを助けたあと、私と虎太郎は巨大ネズミを探し続けていた。


 巨大ネズミの出現は虎太郎がある程度察知できる。そのため、余程大量に出現したりしなければ、巨大ネズミの被害は抑えられるようになってきたが、それでも大量出現や夜間の出現には対処のしようがなかった。

 しかも、巨大ネズミは数を減らしている様子がない。新しい巨大ネズミが生まれ続けているのか、それとも元のサイズに戻したネズミが改めて巨大化したのか……どちらにせよ、このまま後手に回らされたままではじり貧である。


「どうにかして、巨大ネズミの発生源を見つけねえとな……」


 隣を走っている虎太郎が呟いた。

 私の歩幅に合わせるため、彼はいつでも全力疾走である。


「だよね。でも、どうすれば……」


 私と虎太郎の意見は一致していた。

 巨大ネズミの後手に回っているだけではつまらない。

 どうせ尻に火がついているのなら、全身に火が回る前に全ての原因を突き止めるのだ。


「俺だってスバルの尻を追いかけてただけじゃないんだぜ」


 虎太郎がふっとほくそ笑んだ。


「スバルの攻撃から逃れた巨大ネズミ……その一匹に俺の意識の断片をつけておいた」

「宇宙の端っこってどうなってるんだろう……無なのか、それとも――」

「発信器だよ、発信器! 巨大ネズミに発信器をつけたんだ!」


 意識が吸い込まれそうになったのを呼び戻される。

 難しい話は小さい頃からどうにも苦手だ。


「何匹かの気配を追えるところまで追ってみたが、やつらは決まって同じ場所に集まった。つまり、巨大ネズミには巣があるんだ。そこまで行ってみれば、やつらが巨大化した理由が見つかるかもしれねえぜ」

「その場所って……あと、どれくらい?」

「ここだぜ」


 虎太郎にそう言われて、私はとっさに足を止める。

 私たちの自室が集まる居住区から、さほど離れていない場所にそれはあった。


 見上げるような廃材の山である。

 木造も鉄筋もごちゃ混ぜにして、それは地上五階ほどの高さまで積み上げられていた。

 しかし、それだけの高さに積まれながらも、不思議と不安定には感じられない。石を匠に積み上げるロック・バランシングのような、アートの域に達する安定性が存在していた。


「こんなの……少し前まではなかった」

「だろうな。あったら地図の姉ちゃんが情報をくれたはずだ」


 廃材の山……いや、廃材の城とでも呼ぶべきか、それにはよくよく見てみると電線と水道管まで引かれている。ここで誰かが暮らしているのは間違いない。しかも、これだけの城を建てられるだけの力の持ち主だ。


 廃材の城にはご丁寧に出入り口が設けられていた。

 私は腰ほどにしかない、やけに小さなドアをくぐる。


「気をつけろよ。罠かもしれん」


 虎太郎の注意を聞きながら、私は廃材の城に足を踏み入れた。

 廃材で作られた建物の割には空気がほこりっぽくない。

 立ち上がってみると天井に頭がぶつかるすれすれで窮屈に感じられる。

 小学生のときに遊んだ秘密基地ごっこを思い出す空間だ。


「ここは単なる玄関みたいだな」


 虎太郎の視線の先には二階に続いている階段がある。

 私たちはその細くて急な階段を這うようにのぼると、その先で見つけた二階の部屋のドアをゆっくりと押し開けた。


 二階の部屋には見たこともない電子機器が並び、配線が縦横無尽に駆け巡っている。電子機器のモニターがぼんやりと輝き、冷却するファンの回転音が絶えず鳴り響く様子は、アニメに出てくる秘密組織の研究所を連想させた。


「ついに見つかってしまったか……」


 城の主はこちらに背を向けて、電子機器の前に立っていた。

 灰色の毛並み、丸っこい耳、つぶらな瞳、大きな前歯、ちょろんとした尻尾。

 どこからどう見てもネズミなのだが、そいつはこれまで見たことのある巨大ネズミとは違って、まるで人間のように二本足で立っていた。それにおしゃれが分かるのだろうか、ボーイスカウトのように黄色いスカーフを首に巻いている。


 謎の巨大ネズミがこちらに気づいて振り返り――


「二本足で立ってるーっ! かわいいーっ!」


 私は我慢できずにその子に抱きついてしまった。

 これは……想像の三倍は柔らかいっ! 体がぷにぷにしているだけじゃなくて、毛並みがふさふさ&ふわふわしているのだ。ちゃんとお風呂に入って、石鹸で体毛を洗い、温風で丁寧に乾かし、最後にくしでとかさなければこうはならない。


「あなた、他の巨大ネズミとは違うね。ちゃんと清潔にしてるもん!」

「お、お嬢さん……こんなことはおやめなさい……」


 二足歩行の巨大ネズミが私の体を押しはがす。

 それを見た虎太郎が低くうなった。


「随分と紳士的じゃねえか。あんた、何者だ?」

「私の名前はアルジャーノン……見ての通りのハツカネズミだ」

「全然、見ての通りじゃねえぞ」


 アルジャーノンと名乗った巨大ネズミは堂々とした立ち姿である。

 背丈は幼稚園児くらいしかないが、背筋がしゃんと伸びていて大きく見えた。

 私はしゃがんで視線の高さを合わせる。


「あなたがネズミたちを巨大化させたの?」

「……あぁ、その通りだ」

「それなら、あなたは一体……」


 ネズミから進化した動物? それとも魔法の力で変身している?

 そんな私のふわふわした想像は即座に打ち砕かれることになった。


「私は……動物実験で生み出された存在なんだ」


 アルジャーノンさんが青年を思わせる若々しくも芯のある声で言った。


「私の生まれた研究所では、生物の知能を高める研究が行われていた。元々は人間の知能を高めるのが目的だが、その前段階としてネズミを動物実験にしていたんだ。唯一の成功例である私は、研究所で知能テストを受ける日々を送っていたのだが……ある日、その研究が中止されることになった」

「そ、そんな大変なことが……」


 研究の良し悪しや善悪は分からない。

 でも、私は中止になったと聞いて少しホッとした。


「それでアルジャーノンさんは自由に――」

「自由にはなれなかった。殺処分されることになったからね」

「さっ、殺処分!?」

「研究の記録を全て抹消するためだろう。無論、私は殺されるつもりなどなかった。隙を突いて研究所から脱走し、こうして少女九龍城に逃げ込んだわけだ。ここなら安全だろうとネズミの本能が教えてくれたよ」


 アルジャーノンさんが不思議な電子機器を手のひらでなでる。


「私はここに居城を築き、少女九龍城に住まうネズミたちを集めた。そして、研究所で自ら体験した実験を参考にして、ネズミたちを私と同じ存在にしようと試みたんだ。しかし、彼らは体こそ大きくなったが、私の話し相手になってくれるものはいなかった……」

「寂しかったんだね」

「あぁ……でも、もうやめるよ。きみに全てを打ち明けたことでようやく冷静になれた。少女九龍城の住人たちにも迷惑をかけたし、それに今の私が仲間していることは、研究所で人間たちが私にしていたことと同じように思える」

「やめてしまってどうするの?」


 私の問いかけに対して、アルジャーノンさんは無言で首を横に振った。

 どうにかして彼を励ましたい。

 そんな気持ちが胸の内を渦巻くも、私はどうすればいいのか分からなかった。


「そ、そうだ! 私ならアルジャーノンさんと会えるし話せるよ!」

「無茶を言うなよ、スバル」


 虎太郎が穏やかな声で言った。


「そいつが欲しがっているのは自分と同じ存在だ。あんたが話し相手になったところで、根本的な問題は解決されない」

「そんなぁ……」


 私はうつむき、マジカルロッドをぎゅっと握りしめる。

 ここまで話を聞かせてもらって、何も手助けできないなんて悔しい!


「きみが思い詰めることではないよ」


 そう言ったアルジャーノンさんの足下に一匹のネズミが駆け寄ってくる。

 彼はそのネズミを優しい手つきで拾い上げた。


「アルジャーノンさん、その子は?」

「以前、巨大ネズミにしてしまった女の子です。普通、巨大化したのが元に戻ったら、そのまま私の元を離れていくのですが……なぜか、この女の子だけは私の元に帰ってきたんです。ここでの暮らしが余程気に入ったようで――」

「……虎太郎!」


 そこまで話を聞いて、私はとっさに振り返る。


「私、魔法少女なんでしょっ!? だから、魔法が使えるんだよねっ!?」

「あ、あぁ……できないことはない」


 虎太郎がぬいぐるみの体に汗をかきながら答えた。


「基本的にできるのは巨大化したネズミを元に戻すことだけだが、全ての魔力を注ぎ込めばなんとかなるだろう。それは元々、この事件を解決したスバルに対するご褒美のつもりだったんだが……」


 そりゃあ、魔法少女を仕事として生きていくなら、お給料くらいもらわないと生きていけない。でも、今回の魔法少女は今このとき限りなのだ。それならここは一つ、ご褒美も何もいらない正義の味方をやってみるのも面白い。


「虎には肉を……犬には骨を……人には心の栄養を!!」


 私は呪文を唱えながらマジカルステッキを高らかに掲げる。

 胸の奥にある心臓が高鳴り、そこから力が絞り出されていくのを感じた。


「今宵のマジカルタイガーは血に飢えているっ!!」


 私はマジカルステッキをネズミの女の子に向かって振り下ろす。

 瞬間、光の粒子が奔流となって部屋中に溢れかえった。

 あまりのまばゆさに私たちは目を閉じる。


 光の奔流が収まって、チカチカする目を恐る恐る開いてみると、アルジャーノンさんの傍らには小学校低学年くらいのバニーガール……ならぬマウスガールが立っていた。ウサミミをそのちょうどネズミの耳に取り替えた感じである。


 アルジャーノンさんはというと、その光景を目の当たりにして目を点にしていた。


「あ、あの……これだと少し人間に近すぎるような……」

「ご、ごめんなさい! もう一回……えいっ!」


 私は再びマジカルステッキを振り下ろす。

 すると、マウスガールはアルジャーノンと同じ二足歩行の巨大ネズミになった。

 ネズミの女の子は自分の姿を確認するなり、アルジャーノンに抱きついてしまう。


「アルジャーノンさん、私をそばに置いてください!」

「ええっ!? こ、困ったな……いきなりそんな……」


 言葉とは裏腹にアルジャーノンさんの顔は嬉しそうに見える。

 私は彼の気恥ずかしそうな表情に、可愛い女の子と出会えた普通の男の子らしい感情を見つけるのだった。


「おつかれさん、スバル。格好良かったぜ」


 虎太郎がぬいぐるみの手で私の足をぽふんと叩いた。

 私は清々しい気持ちでニカッと笑い、この柔らかい相棒と握手を交わした。


 ×


 あのとき、本当に全ての魔力を使い果たしてしまったようで、私は魔法少女に変身することができなくなった。


 虎太郎とも話せなくなってしまって、それは少し寂しいのだけど……でも、彼とはまたいつか話せるような気がする。

 魔法少女の力が必要な機会は、これからの少女九龍城での生活にはごまんとあることだろう。


 アルジャーノンと彼の恋人とはたまに会っている。あの廃材の城でラブラブ同居生活をしているようだ。


 私の方はといえば、たまに「あの魔法少女の格好はもうしないの?」と(主にアキラちゃんから)聞かれることがある。

 そういうときは「そのうちにね」とほくそ笑み、魔法少女をやり遂げたという大切な思い出をこっそりと胸の内にしまい込んでおくのだった。


(おしまい)

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