第4話 幸せの予感
★
電話の向こうから、フーっと息を吐く音が聞こえた。
「……小百合ちゃんは、今回の失恋のことを『振られたことより自分自身を偽ったことが悲しい』と言った。その言葉が引き金となったみたいに、大粒の涙を流し始めたんだ。『自分を安売りして好きでもない男に
僕は雰囲気を変えようと二人に近づこうとした。すると、彼が僕の目を見て首を横に振った。それは『来なくても大丈夫』っていう合図に見えた。その後、彼は初めて自分から小百合ちゃんに話し掛けたんだ」
『小百合さん、あなたはとても運が良かったです。もしこのままいっていたら、大変なことになっていました。神様が小百合さんのことを助けてくれたのです。泣かないでください。必ず良いことがあります。幸せになりたいという気持ちをもって自分に正直に生きれば、きっと幸せになれます。僕が保証します』
「小百合ちゃんは下を向いて黙って彼の話を聞いていた。たどたどしい日本語だったけど、その言葉には温くて優しい響きがあった。
しばらくして、小百合ちゃんは顔をあげた。どこか吹っ切れた様子が見て取れた。ここに来たときの
小百合ちゃんは思い出したようにカバンの中からチョコレートを取り出すと、すぐに包みを開けて彼に手渡した。最初は遠慮していた彼も、小百合ちゃんがあまりにも一生懸命に勧めるものだから『一つだけ』なんて言って食べたんだ。そうしたら、彼は目を丸くして『これがチョコレートですか? こんなに美味しいものは食べたことがありません!』と大袈裟な言い方をした。
小百合ちゃんは気を良くした様子で『あ~ん』なんて言いながら彼にチョコレートを食べさせていた。小百合ちゃんもいっしょになって食べていたかな。僕が出る幕はなかったよ。
彼が帰ろうとしたとき、小百合ちゃんは、名刺の裏に自分の電話番号とメールアドレスを書いて彼に渡した。勘定も小百合ちゃんが払った。『今日のお礼』とか言ってね。そして、彼の姿が見えなくなった瞬間、電源が切れたスマホみたいに動かなくなって、その場で眠っちゃったんだ。だから、家内に連絡して車で家まで送らせた。ちょうどそのときかな。雪が降り出したのは――」
そこまで話すと、マスターは「ごめん。もう行かないと」と言って電話を切った。
メールの受信ボックスを開いて、改めてウォンスのメールに目を通してみた。会ってはいるけれど、私にとっては「まだ見ぬ
暮れなずむ東京の街には、相変わらず白い雪が舞っていた。
つづく
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