第10話 運命を信じて
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ウォンスに大事な仕事があるのは、頭では理解していた。でも、「メールに返事を返したい」という、
『ウォンスさんへ おはようございます。朝早くごめんなさい。いただいたメールに早くお返事がしたくて。でも、私への返事はお仕事が一段落したときで結構です。無理はなさらないでください。
私はこの白い世界が現れたのが偶然だなんて思えません。私はこれまで幸せを感じたことはほとんどありませんでした。だから、今回振られた相手に対しては、すごく悩んだ末に「プライドを捨てて飛び込んで行こう」といった覚悟を決めました。幸せになりたかったからです。
でも、ひどい目にあって「もうこの世界では生きていけない」と思いました。そんな気持ちでお酒を飲んだら記憶がなくなりました。ただ、目が覚めたら良いことがありました。新しい世界が現れてウォンスさんとお友達になれました。この世界が存在する限り、ウォンスさんと楽しく過ごせそうな気がします。
あんなに恥ずかしいところを見せたのに、こうしてメールをいただけたこと、とても感謝しています。本当にありがとうございます。 さゆりより』
ウォンスにはすべてを包み隠さず話すべきだと思った。
彼はどんな私も受け入れてくれると思ったから。言い換えれば、二人の出会いが運命的なものであることを信じたかったから。
メールを送信してカップの底に残った紅茶を一気に飲み乾した。寝癖のついた髪を指で直しながら洗面所へと向かう。
ドライヤーのスイッチを入れた瞬間、テレビの音声はかき消され、無機質な機械音が室内を席巻する――が、その状態は十分も続かなかった。
なぜなら「あの曲」が部屋の空気を一変させたから。
「いくらなんでも早過ぎない!?」
思わずそんな言葉が飛び出した。髪の毛のブラッシングを中断してリビングへ向かった。いつものように深呼吸をしてテーブルの前に腰を下ろす。
『To小百合さん おはようございます。調子はどうですか? よく眠れましたか? メールありがとうございます。小百合さんの言ったとおり、僕は仕事中です。二十四時間働いているようなものです。
僕もこの世界は小百合さんが望むことで存在していると思います。この世界が続くことをずっと願っていてください。
それから、小百合さんのことを変な女性だなんて思ったことはありません。笑顔がとても素敵で、僕にチョコレートを食べさせてくれたときもすごく可愛いかったです。だからチョコレートもすごくおいしかったのかもしれません。
今日はそんなに忙しくはないので、メールにはすぐにお返事できます。こちらこそ付き合ってくれてありがとうございます。Fromウォンス』
胸の鼓動が大音響となって部屋の隅々にまで響き渡っている。自分の心臓なのに自分のものではないような気がする。
「どうしちゃったんだろう……胸が苦しい。でも、イヤじゃない……私のことカワイイなんて、そんなこと言われたの生まれて初めて。うれしい。このまま死んでもいいかも……」
喉の奥から声にならない声を絞り出しながら、再びウォンスのメールに目をやる。
「いやだ……死んじゃうなんていや! 私のこと、カワイイなんて言ってくれた人がいるんだもの。苦しくて、恥ずかしくて、死にそうだけれど、死んだら彼に会えなくなる!」
傍から見たら、私が何を言っているのか理解できなかっただろう。でも、それが私の正直な気持ち――言葉で表すのがとても難しい、飾らない気持ちだった。
窓の外に広がる、氷点下の世界が、なぜかとても温かく感じられた。
つづく
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