『ふるさと納税』の何が気持ち悪いのか。
阿井上夫
『ふるさと納税』の何が気持ち悪いのか。
最近真面目に仕事をしているため、小説の更新作業が滞っている阿井上夫でございます。
いやいや、昔はサボっていたというわけではなく、仕事が楽しいもので。
お陰で読者が微妙に目減りしているわけですが、そんなことは気にせず、今回もまったく小説とは関係のない、仕事関係で気になったことの話をします。
*
『ふるさと納税』という国の制度があります。
利用されている方も多いとは思いますが、まだまだ「何それ、美味しいの?」という人も多いと思いますので、まずはこの制度の説明から入りたいと思います。
ふるさと納税の仕組みを説明しているサイトは多数ありますが、正しく説明しようとするあまり、分かりにくい話になっております。
私はもっと簡単に、その基本的な構造を、
「ふるさと納税は、二千円の手数料を払って好きな市区町村に住民税を前払い出来る制度である」
と理解しております。
例えば、あなたが東京都世田谷区に住んでいて、住民税を毎年世田谷区に払っているとしましょう。
住民税は前年の年収から計算して、当年六月以降に支払う仕組みになっていますが、その納税先を二千円の自己負担(いわば「事務手数料」のようなもの)で前年十二月までに自分の好きなところ――例えば、宮城県仙台市に変更できるのです。
結局は払わなければならない住民税を、他の市区町村に前払いするわけですから、個人負担は事務手数料以上には増えていません。
ただの支払先変更です。
これだけですと、普通の方はこう考えるはずです。
「なんで二千円の事務手数料を払って、住民税の支払先を変更するの? その分は損じゃないの?」
それがそうではないのです。
納税された先の市区町村(前の例でいけば宮城県仙台市)は、
「わーい、住民税を払ってくれて有り難う。お礼に何か送りますね!」
と、返礼品なるものを送ってくれます。
それは、笹かまぼこであったり、ササニシキであったりするわけですが、ともかく支払先を変更した住民税の二~四割相当の品物をお礼に送ってくれます。
仮に十万円の住民税を東京都世田谷区から宮城県仙台市に支払先変更した場合、事務手数料が二千円かかった上で、二万円~四万円相当の品物を手に入れることができる訳です。
ここでまた、普通の方はこう考えるのではないでしょうか。
「え? それはお得じゃない!」
その通り、単純にお得です。
事務手数料である「二千円」は支払先が複数であっても変わりませんから、日本全国の市区町村に分割納税すれば、そこからの返礼品があなたの手元に届きます。
デメリットと言えば、五ヶ所以上の支払先に分割すると確定申告が必要になるという点ですが、その手間を惜しんでメリットを放棄する意味が私には分かりません。
正確な計算をするとこの通りにならないのですが、あえて簡単に整理するとこうなります。
・翌年支払うはずだった十万円を、別な支払先に変更する。
・手数料が二千円かかる。(それ以上の個人負担はなし)
・支払先から三万円程度の返礼品がもらえる。
それが、ふるさと納税です。
そして、この「ふるさと納税の仕組み」が、私には気持ち悪くて仕方がありません。
*
個人的には、ふるさと納税の利用限度枠を最大限利用し、確定申告まで自力でやっておりますが、その過程でどうしても気持ち悪さを覚えてしまいます。
それに対して、多くの方はこう考えるかもしれません。
「えっ、得しているんだからいいんじゃないの?」
それはどうでしょうか。
東京都世田谷区にとっては、単純に住民税が十万円目減りしたことになります。
それは世田谷区の住民サービスに使われるはずの費用ですから、この仕組みが最大限に利用されたとしたら、人気のない市区町村は住民税が目減りして、サービス品質が下がることになります。
こう考える人もいるでしょう。
「いいんじゃないの? 頑張っている市区町村にお金が集まるのだから?」
それはどうでしょうか。
支払変更先の仙台市は、十万円のうちの三万円を返礼品にあててしまいました。
それは本来の税金の用途とは違っております。
社会全体からすれば、公共サービスに使われるはずだった資金が、一般企業や小売店の売り上げに転化されたことになりませんでしょうか。
それに対して、こういう人もいるでしょう。
「事務手数料分は個人負担しているんだから、固く考える必要はないのでは」
いや、それこそが最大の違和感の源泉です。
ちょっと実名を出すと差し障りがあるので伏せますが、大手の通販サイトでは「ふるさと納税」の仲介をおこなっております。
私自身もそこからふるさと納税を行っているのですが、その金額に応じたポイントがもらえます。
重要なことなので繰り返します。
「ふるさと納税でポイントがもらえます」
*
ここまで読んでもこう考える人がいるかもしれません。
「普通じゃないの? それって?」
いやいや、それは普通ではないと思います。
ふるさと納税の本質は、なんども繰り返しておりますが「住民税の支払先変更」です。
本人の負担が増加しているわけではありませんから、それに対するポイント付与は「住民税の還付金」という意味でしかないはずです。
そんなことを市区町村ではないサイトが行っていいわけがありません。
しかも、通販サイトのスーパーセールになると、そのポイント還元率が最大で三十パーセント近くになります。
ということは、
「ふるさと納税で、支払額の三十パーセントのポイントがもらえる」
ことになります。
十万円ならば、三万円相当です。
もっとはっきり書きます。
・翌年支払うはずだった十万円を、別な支払先に変更する。
・手数料が二千円かかる。(それ以上の個人負担はなし)
・支払先から三万円程度の返礼品がもらえる。
・通販サイトで三万円相当のポイントがもらえる。
実際に私はそれに近いメリットを受けたことがあるわけですが、逆にこう思いました。
「なんだかこれって、間違っていない?」
*
個人が得をするということは、その分のしわ寄せが必ずどこかに出ているはずです。
前例の場合、支払先を変更した十万円から「返礼品三万円+ポイント三万円」相当の住民税が、本来の趣旨とは異なるところに消えてしまったように思えます。
これを全体的なサービスの低下ととらえるのは、考えすぎでしょうか。
それがどのような形の矛盾として現れてくるのか――私の「気持ち悪い」という感覚は、そこからとめどなく流れ出してくるのでした。
それに対して、こうツッコむ人が大量発生するはずです。
「でも、あんた結局得しているんじゃないの?」
はあ、そのとおりですが、何か問題でも?
( 終わり )
『ふるさと納税』の何が気持ち悪いのか。 阿井上夫 @Aiueo
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