第5話 誰でもない、私という人間

「私がそうですけど。」

「あら、良かった。伝言を頼まれたの。 もう、病院には来ないでほしいと。」

「え、なんで?私はあの人に会わなければならないの。私の思いを伝えるために。」

「さぁ、私は知らない。先生がそう言っただけよ。伝えたからね。」

「ねぇ、待って。行かないで。」


聞こえたはず。でも、来たときよりも傲慢に、その人は姿を消した。

許せない。圭介くんと引き離すなんて許せない。

でも、力が無い。どうすれば良いのかわからない。だから、待とう。


「誰か来てたの?」

「ううん、来てないよ。」

「そう、話し声が聞こえたもんだから。」

「気のせいよ。私、少し寝るね。」


愛ちゃんは嘘つきだ。

誰か来た。

愛ちゃんになにか伝えるために。

その結果愛ちゃんは、傷ついた。

だから許せない。

でも、待とう。

愛ちゃんが待とうというなら。


病院では、あいつが寝ている。

愛ちゃんの事を忘れて。

それが一番許せない。

だって、愛ちゃんはこんなにも傷つきながらも、あいつの事を思ってる。

許せない。


少しだけ、待とう。

力が戻ったら、会いにいこう。

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バラ事件、その後僕らは サクニジ @sakusaku0510

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