本日は傲慢になります⑦

 工芸体験施設「日野の里」には、売店とレストランもあります。

 陶芸体験が終了しますと、正午をまわっていました。

 それなので、ここでランチにします。

 彼も私も、釜飯定食を注文。横川の釜飯ではなく、家庭的な釜飯です。

 注文を受けてから炊くそうなので、食べられるまで25分かかります。

 テーブルに置かれたのは、旅館の夕食で見るような、一人前の釜。

 良い匂いがしてきます。空腹時にはきっと、苦行でしょう。



 売店を見てみようか、と彼に誘われ、貴重品だけ持ってテーブルを離れます。

 売店とレストランは同じ建物内で、会計レジも一緒のようです。

 売店では、昔ながらのお菓子や、地元の名産品、工芸品などが売られています。

 カルメ焼き、金平糖、甘納豆、かた焼きせんべい、ドライトマト、漬物……うう、お腹が空いてきました。早く釜飯が食べたいです。

 彼は店員さんの目を盗み、売り物の竹とんぼをまわしてくれます。

 天井に飛んで行ってしまうのかとひやりとしましたが、竹とんぼ彼の目の高さまで上がると勢いを失ってしまいました。

 彼は力の入れ方が上手です。

 それに比べ、私は下手くそです。



「恰好良かったよ」

 唐突に彼が言い出します。

「はなちゃん、陶芸の職人みたいで、恰好良かった」

 私がですか。力が入らなくて、粘土をがんがん練っていただけなのですが。

 それに対して、彼はすぐに要領を覚えて、滑らかな手つきで粘土を練っていました。思わず注視してしまい、私の手が止まってしまうくらいです。

「俺、中学生のときに社会科見学みたいな行事で陶芸を体験したことがあるんだ。ここじゃなくて、秩父の方で」

「だから上手なんだね」

「そうか? 久しぶりで楽しかったけど」

 その言葉が聞けて、単純な私は安堵してしまいました。



 陶芸作品の引き渡しは、約一か月後だということです。

 彼の作品も私のも、私の住所に送ってもらうことにしました。

 マグカップが完成して届いたら。

 また一緒にコーヒーを飲みたいです。

 そんな思い上がりは口に出せず、心の内に秘めておきます。

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