本日は傲慢になります④

 起床は5時。まだ外は暗く、夜中のような雰囲気です。

 夏場はこの時間に起きていたというのに、今の時期は起きるのがつらいです。

 電波時計が示す室温は、10.5度。外はもっと寒いはずです。

 日中の予想最高気温は、17度。寒暖差が大きい一日になりそうです。

 ハンドメイドのノンホールピアスを久々につけようか、と迷いました。

 “水に強い折り紙”で折った、薔薇の花のノンホールピアスです。

 ぎりぎりまで迷って、つけることにしました。

 朝食は摂らず、6時に出発します。



 早朝の道路は、とても空いています。

 途中のコンビニで朝食を買い、彼のアパートへ向かいます。

 目標到着時間は、7時。

 きっと彼は、まだ寝ているでしょう。



 彼の住所は知っていますが、訪ねるのは初めてです。

 今は6時40分。東の空に日が昇り始めました。

 ふと西を見ると、浅間山が群青色のように見えました。

 西の空は、紅色をかなり薄くしたようなピンク色です。その中に佇む浅間山は、絵画のように幻想的です。

 こう言っては語弊があるかもしれませんが、浅間山は綺麗な稜線を描いている山です。私は勝手に、富士山のように綺麗なフォルムだと思っています。

 西の空と浅間山を写真に収めようとしましたが、カメラのピントが合わず、断念しました。

 話がそれました。

 まだ朝は早いので、近所迷惑にならないように彼を穏便に連れ出したいです。

 彼はしっかりしているから、きっと施錠しているのでしょう……そんな想像とは裏腹に、ドアノブをまわすとドアが開いてしまいました。

「……おはようございます」

 とりあえず挨拶をして、中に入らせて頂きます。

 電気つけっぱなし。暖房はついていません。

 ローテーブルには、伏せられたノートパソコンと何冊もの本やプリント。

 カラーボックスには、大学のテキストと思しき本が大きさを揃えて入れられています。

 壁には、キーボードが立てかけてありました。

 ローテーブルの下に、タオルケットをかけて眠っているのは、紛れもなく彼です。

 お昼寝ゴールデンレトリバーのごとく、無防備に寝顔をさらしてくれます。

 相変わらず、綺麗な顔です。

「田沢くん……洋也ひろなりくん」

 名前を呼ぶと、「ん?」と訊き返されました、眠りは浅いようです。

 夜更けまで卒論を書いていたのでしょうか。タオルケット1枚では寒いでしょう。

 疲れたでしょうから、寝てもらいたいです。でも今日は、この時間には彼と出かけたいのです。

 ごめんなさい、と心の中で呟いてから、かじかんだ指で彼の頬に触れてみました。

 彼は、もぞもぞと体を動かします。

「冷たい……あっ、気持ちいい……もっと、もっと……」

 彼は一体どんな夢を見ているのでしょう。何を想像しているのでしょう。

 ごめんなさい。起こします。

「起きて。起きて」

 まるで、子どものような起こし方です。これでは幼稚です。

 彼は、むくっと起き上がりました。

「何? はなちゃん? ……いやいやいや、俺は3時くらいまでひとりで卒論を書いていたから、誰も連れ込んでいないはず……」

 ぶつぶつ呟く彼に、もう一度朝の挨拶です。

「おはようございます」



 7時20分。

 彼に助手席に乗ってもらい、出発です。

 コンビニで買ったサンドイッチとコーヒーを渡して。

「どこに行くの?」

 彼に訊かれます。

 私は答えます。

「“クラブエアー”です」

「FM上州じょうしゅうの?」

「そうです」

「本当に? やった! 早起きした甲斐があった!」

 眠いところを起こされて彼は怒っているのか、と思いましたが、そうでなくて安心しました。

 「クラブエアー」とは、ラジオ局・FM上州のスタジオの愛称です。

 今から、ラジオを行きます。



 7時半になりますと、前橋市へ向かう道は通勤ラッシュで渋滞し始めました。

 カーラジオの音量を上げます。

 「おはようございまーす!」とラジオDJの陽気に挨拶をしてくれます。



 ――伊東いとうさとるが生放送でお届けします! FM上州から――



 DJと一緒にタイトルコールをする彼。

 サンドイッチをもぐもぐしながら、すでにテンションが高いのです。

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