本日は傲慢になります②

 ハロウィンが終わり、世間はクリスマスに向けて動いています。

 私の職場「chouchouシュシュ」も、入口付近を中心にクリスマス関連の商品をディスプレイしています。

 それらの邪魔をしないように、来年のカレンダーや手帳、ぽち袋がおかしこまりしています。クリスマスの後の、自分達のスタートまで待機しているようです。

 私はクリスマスに思い入れはありませんが、店内に静かに流れるクリスマスソングが耳に入りますと、年の瀬を実感します。

 激動の1年でした。

 ままならないことも少なくありませんでしたが、良かったと思えることが多い年でした。

 でも、今は落ち込んでいます。

 自分のふがいなさに落ち込んでいます。



 お昼休憩のとき、同じタイミングで休憩していた恩地さんに「何かあった?」と訊かれました。

 先月に入院と欠勤をして以来、恩地さんは今まで以上に私を気にかけて下さいます。「花村さん、妹みたいだから、ついお世話したくなっちゃうの」だそうです。

 私だけもらってばかりですが、先輩の厚意に甘えることにしました。

「恩地さんは、彼氏さんが落ち込んだとき、どうしていますか?」

 恩地さんは宙を見て少し考え、思い出すようにぽつりぽつりと話してくれます。

「いつもと違う料理をつくったり、気分転換に出かけたり……彼は自分から何も言わないから、こっちが気づいても、普段と変わらないように接するかな。彼から相談されたことは一度もないなあ……なんか、ごめんね。良いこと言えなくて」

「いえ、彼氏さん、かたくななかたなのですね」

「うん。同い年なのに、昭和のおやじみたい。でも、理学療法士なんだよ」

「頭が良いんですね」

「そうなの! 自分からはひけらかさないけど、ちょっとしたタイミングで『頭良いな』と思わせてくれる」

 恩地さんは、頬がピンク色を帯びて、瞳がきらきらしています。

 本当に、彼氏さんのことが好きなのですね。

 好きな人に対する気持ちは、私も負けていない……と思いたいです。

 張り合うなど身の程知らずですが、恩地さんが彼氏さんのことを好きなように、私は彼のことが好きなのです。

 彼の支えになりたいのです。



 休憩を終えて売り場に戻ろうとしたとき、恩地さんに呼び止められました。

「今夜、空いてる?」

 予定はありませんが。

「飲みに行こう! ふたりで!」

 私は「是非」と答えましたが、頭の中は変な感じです。



 そろそろ22歳になる自分ですが、お店でお酒を飲んだことは一度もありません。

 最初の職場での飲み会は、当時未成年であったことを理由に参加を断られました。成人してからも、職場の空気を悪くする原因が私であったため、参加できませんでした。

 実家にいたときは、高校生のときから軽く飲まされていました。

 「今から飲めねんじゃあ、大人になってから苦労するぞ」と祖父に言われ、親戚の集まりなどで飲んでいました。お酌の合間にですが。

 父も兄もそうやって育ったようですが、そういうのは一般的ではないようですね。

 未成年の頃から実家でお酒を飲んでいたことは、誰にも話していません。



 話が逸れました。

 今夜18時、富岡市内のレストラン「鞠菜マリナ」で恩地さんと飲み会です。

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