第6章 本日は傲慢になります

本日は傲慢になります①

 冬場の朝の空気は、鼻に刺さるのです。

 そんなときは、頭から布団にもぐってしまいます。

 間違っても、私の寝姿など想像しないで下さいな。



 寒くなってきますと、布団から出るのが億劫になります。

 もう11月も後半です。日の出も遅くなってきました。

 最近の起床時間は、6時。夏場よりも1時間遅くなりました。

 今日は仕事です。

 電気ヒーターで衣類を温める間に、洗濯と掃除をやります。

 6時半までに着替え、ベランダに洗濯物を干します。

 おとといから、切干大根もつくり始めました。

 瑞樹くんから頂いた大根が食べ切れないので、切干にして保存することにしました。

 切干専用のネットをホームセンターで買い、物干し竿に下げておきます。

 3日目となる切干大根は、とても小さくなっていました。

 でも、まだ干す必要があるのだそうです。

 我慢です。

 プランターのかぶは、ふくれてきましたが大きくはありません。

 我慢です。

 でも、この我慢は嫌ではありません。無理もしていません。

 私は、朝の冷えた空気をいっぱいに吸い込みます。

 切干大根も、かぶも、食べられるようになるのが楽しみです。



 今日のお弁当には、ブロッコリーとカリフラワーとロマネスコを茹でてサラダにします。

 いずれも、瑞樹くんから頂いたものです。

 茹でると鮮やかな緑色になるブロッコリー。

 雪のように白いカリフラワー。

 黄緑色の小さい木のようなロマネスコ。

 お鍋の中で内緒話をする野菜達を見つめていましたら、昨日のことを思い出してしまいました。



 昨日の17時頃のことです。

 彼が突然私を訪ねてきたのです。

 私の部屋は、とても彼を上げられる状態ではありません。

 彼から「ご飯をおごるから話がしたい」と言ってくれました。

 おごってもらうのは気が引けますが、部屋に上がらないのは助かりました。

 近くのオムライス屋さんで早めの夕食にします。8月に彼と訪ねた、デミグラスソースが美味しい老舗のオムライス屋さんです。

 料理が運ばれてくる前に、「ごめんなさい」と頭を下げられてしまいました。



「公務員になれなくて、本当にごめんなさい」



 彼は、富岡市役所の最終面接に不合格だったのです。

 全く以て、ごめんなさいではないです。

 彼はすごいです。恰好良いです。最終面接まで進めたのですから。

 でも、採用されなければ意味がないと思っているようです。

 私は、当たり障りのない言葉しかかけることができませんでした。



 私が悪いのです。

 採用試験の期間中に、彼に迷惑をかけてしまったから。



 ――もっと傲慢になっていいんだよ。自分は悪くないって、これだけ頑張ったって、潰されてたまるものかって、主張したって何も悪くないんだよ。



 彼は私を励ましてくれました。

 それなのに、私は彼を励ますことができませんでした。

 情けないです。

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