刈られる花④

 多胡さんから頂いた折り紙がなくなると、兄も私も家に帰ることにしました。

 兄は「心配だから」と私のアパートまでついてきてくれました。

 車は市役所の駐車場に置いたままだそうで、市役所の方へ向かいました。



 私はカレーの臭いが気になって、すぐに歯を磨きました。

 それから、折鶴を数えます。

 白、黒、紺色、いずれも70羽くらいあります。トータルすると、210羽。

 紺色は普段の千羽鶴でも使うので、50羽くらいストックがあります。

 少々困ったのは、白と黒のストックが全く無いことです。

 折り紙はたいてい、単色100枚入りを購入しています。

 紺色は折り紙の残りもたくさんありますが、白と黒は百均折り紙数枚しか持っていません。

 現在の時刻は、19時。夜はまだ浅いので、買ってくることにします。



 時間の余裕のあるときは、ネットショッピングで折り紙を購入します。

 今回も2週間の猶予がありますが、何となく嫌な感じがします。

 早く完成させた方が良い気がするのです。



 単色折り紙を扱っているお店は、富岡市内にはありません。

 高崎のハンドメイド専門店まで車で向かいます。

 「DAYSデイズ」というお店です。どの駅からも遠いのです。

 白と黒の折り紙を買い物かごに入れた後、他の商品にも目移りしてしまいます。

 スイーツデコにも興味があります。レジンもやってみたいです。

 着物を仕立てたりとか、ビーズアクセサリーとか、クラフトバンドで籠を編んだりとか……。

 売り場を一周し、最後に刺繍糸のコーナーに着きました。

 折鶴と同じ色の糸を買います。念のためです。



 お店を出て車に乗り込む頃には20時半近くになっていました。

 車のエンジンをかける前に、何となくスマートフォンを出し、無意識のうちに無料通信アプリを開いてしまいました。

 無意識とは怖いものです。彼とのメッセージ履歴を開いてしまいました。

 4日前に私が送ったメッセージで止まっています。

 彼の「筆記試験合格しました」に対し、私は「おめでとうございます。(*^_^*) やっぱり、田沢くんは恰好良いです」と送信していたのです。

 可愛い子ぶって顔文字なんか使って、恰好良いなんて恥ずかしいことを書いて、自分が身勝手で馬鹿みたいです。

 でも、公務員試験合格に向けて頑張る彼は、恰好良いと思います。

 彼は恰好良いです。

 そんな彼が好きです。



「あっ!」



 自分の声で、鼓膜がうわんとなりました。

 アプリを閉じたつもりが、通話のマークをタップしてしまったのです。

 切断するより早く、相手が出てしまいます。



『はい、田沢です』



 いつもよりワントーン高い彼の声。

 電話の向こうは騒がしいです。



『花村さん?』



 いつものトーンに戻りました。

 私の大きくない胸は、急にざわざわしてきました。

 一方的に電話を切るのは失礼ですし、話したいけど話題は……ないわけではありません。

 彼には、お返事をしなくてはなりませんから。

 私は唾をのんで、声を出します。



「田沢くん、今お話してもよろしいですか?」

 彼の返事は「大丈夫だよ」でした。静かなところへ移動したようです。

「お返事、したいと思って」

 彼は何秒か黙していました。「もしもし?」と訊くと「ああ、ごめん」と返してくれます。

『今、どこにいる?』

「『DAYS』というお店……の駐車場だけど……」

『近くにってお店があるよね? そこで会える?』

「『Dum & Deeダムアンドディー』? 近くにあるよ」

『うん、そこ! 今、高関たかぜきで大学の人達とご飯食べているんだ。5分で着くから、そこで待ってて!』

 通話は切断されてしまいました。

 高関町という地区は、ここから近いです。車を使えば、所要時間は5分で済みます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る