刈られる花①

 日の出がだいぶ遅くなってきました。

 もう10月なのですね。朝は布団から出られなくて困ります。

 最近の起床は、5時半。

 着替えて、化粧をして、カーテンを開けます。

 さて、新しい一日の始まりです。



 春から育てていたミックスレタスは、先月中に役目を終えました。

 ベランダのプランターは今、かぶの芽が出ています。ちっちゃくて可愛いです。

 本葉が出てくれば、何本かは間引きをしなくてはなりません。

 もったいないのですが、葉はスープに入れて無駄なく食べるつもりです。



 瑞樹くんから頂いたキャベツを千切りにして、軽く茹でます。

 にんじんは、クッキーの型で花の形にくり抜いて、しっかり茹でます。

 季節が変わると、サラダの内容も変わってきます。

 おとといスーパーで買ったりんごも切って、お弁当に持って行きます。

 秋映あきばえという品種です。兄の名前・秋瑛あきひでに似ています。

 赤いりんごを見つめていると、昨日のことを思い出してしまいました。



 ――好きです。



 ――一緒にいる時間が幸せなんです。そういう時間を、これからもつくりたいんです。



 ――花村さんさえ良ければ、つき合って頂けませんか?



 少女漫画みたいな甘い言葉のオンパレード。

 私に向けられた言葉でした。

 返事は決まっています。しかし、即答できませんでした。

 私は情けないです。



 今日の仕事の休憩は、先輩の恩地おんち由佳ゆかさんと同じ時間でした。

 藪から棒に、恩地さんに訊いてしまいました。

「恩地さんは、おつき合いしているかたとか、いらっしゃいますか?」

 恩地さんは、こともなげに「いるよ」と答えてくれました。

 同い年の彼氏さんと同棲しているのだそうです。

「同棲……」

 思わず声に出してしまいました。私の中にはなかった言葉です。

「珍しいね。花村さんからそういう話をするなんて」

 恩地さんは私の話を聞きたいようです。

 しかし、むやみに話すことはできません。彼だって、知られたくないかもしれませんから。

 助け船のように、スマートフォンにメッセージがありました。

 堀越店長からです。



『千羽鶴の依頼あり。本日17時に来られる?』



 私は返信をします。



『お伺いします。』



 仕事は16時までなので、店長の喫茶店には余裕を持って行くことができます。

 休憩時間は残っていましたが、早めに売り場に戻ります。



 無心にご飯を頬張る彼を、微笑ましく思ってしまいました。

 私なんかの料理を、おいしそうに食べてくれました。

 こんな私なんかを好きだと言ってくれました。

 一緒にいたいと言ってくれました。

 彼に真剣に見つめられたら、自分がヒロインだと錯覚してしまいました。

 つき合ってほしい、とはっきり言われました。

 私の返事を待ってくれています。



 私は馬鹿です。

 返事は決まっています。

 それなのに、即答できませんでした。

 返事の代わりに、彼に抱きついてしまいました。

 みっともないです。

 もしかしたら彼は、私なんかに愛想を尽かすかもしれません。

 今はそれが怖いのです。

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