第4章 刈られる花

ブレザーを着ていた頃の自分達は (i)

 朝は4時に起きます。

 制服で家の中をうろうろすると家族を不快にさせてしまうので、トレーナーとジーンズを着てエプロンをつけます。

 祖父は「女のくせに化粧もしねえなんて」と怒りますが、祖母は「今は素のままが一番なのよ」と祖父を止めてくれます。

 お化粧は校則で禁止されているので、祖母には感謝です。



 まずは、ご飯を炊きます。

 祖父母も母も、タイマーをセットして炊いたご飯が嫌いなので、朝一番にお米を研いで、5時に起きる祖父母に合わせて炊き上がるようにします。

 みそ汁もつくります。しいたけを入れてだしをとります。具は、じゃがいもと玉ねぎにします。

 厚焼き卵もつくります。朝食兼お弁当用です。

 前日に仕込んでおいた、かぶの浅漬けと、ラディッシュの甘酢漬けを出します。

 お弁当のおかずに、ベーコンのアスパラ巻きをつくります。

 なるべく不快な思いをされないように頑張ります。



 朝食とお弁当をつくり終えると、掃除をします。

 皆寝ているので、ほうきで掃くだけです。

 玄関を開けると、空はどんよりと曇っていました。

 まるで、水をたくさん含んで滴りそうな、雑巾みたいです。

 そのようなことを言うと、「意味がわからない」と怒られます。

 怒らないのは、父と兄と、隣の家の瑞樹くんと、青柳さんと内海さんと、新田先生……意外といました。



 新聞は、食卓の祖父のところに置きます。

 5時に祖父母が起きて、朝食を摂ります。

「しいたけを使う馬鹿がいるか! にぼしとか、かつおぶしとか、あるだろうが!」

 祖父に怒られてしまいました。

「卵焼きの味が変よ。どうしたらいいか、わかるでしょう?」

 祖母が席を立ち、生ゴミ入れに厚焼き卵を捨てます。お弁当箱に詰めた分も、箸で出して捨ててしまいました。

 確かに、焼き色がつく前に火から下ろしてしまったかもしれません。

 今度はしっかり焼きました。

「油っこくて、食べられたものじゃないわ。気持ち悪い」

 またつくり直し。油をキッチンペーパーで取りながら、中まで火を通します。

「何これ。ぱさぱさしてる。やり直したらどうかしら」

 3度目のつくり直し。それも捨てられてしまいます。

「こんな簡単なこともできねえのか。本当にくずだな」

「おじいさんの仰る通りね。普通の人じゃないみたい」

 祖父母は食事にほとんど箸をつけず、席を立ちます。

 卵は使い切ってしまいました。

 お弁当の空いた部分は、冷凍の唐揚げを解凍して入れることにします。

 この前と同じです。また祖父母の機嫌を損ねてしまいました。



 祖父母は軽トラックに乗って畑仕事に行きます。

 軽トラックをカーポートから玄関前に出すのは、私の役目です。

 敷地内だから運転免許証を持たなくても良いのだそうです。



 祖父母を見送ると、両親が起きてきました。

「なに手を抜いているの。冷凍食品を使うなんて、怠惰の極みね。本当に役に立たないわ。傲慢にも程があるでしょう」

 母の言う通りです。

 父が「それは違う」と反対しましたが、私は「大変申し訳ありません。仰る通りです」と思ったことをそのまま述べました。

 母は正しいのです。私がいつも間違っているのです。

 だから、父は私なんかに合わせなくて良いのに、と思ってしまいます。



 慌ただしく洗濯機をまわして、その間に制服に着替え、洗濯物を干します。

 洗濯物を干すとき、兄が手伝ってくれました。

 6時15分。自転車をこいで、最寄り駅である上州福島駅へ向かいます。

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