お好きな羽数を承ります⑥

 青柳さんから連絡があったのは、旅行の翌日のことでした。

 仕事の休憩中にスマートフォンにメッセージが来たのです。



『はなちゃん、こんにちは(^^)

 昨日はありがとうございました。

 紅茶のお礼を伝えるのを忘れていました。

 運転席は暑かったから、冷たいのをもらえて嬉しかった。

 写真はお礼です↓』



 メッセージの後に、写真のデータが貼られていました。

 彼の写真です。高校の制服を着た彼が、どや顔で千羽鶴を持っています。

 何これ、と口に出しそうになりましたが、この写真には心当たりがあります。



 ――3年生のときかな。田沢くんが、千羽鶴を嬉しそうに持ってきたことがあって、『はなちゃんからもらった』なんて、見せびらかしていたの。



 青柳さんが旅行中に話してくれた、あのことでしょう。

 まさか写真まで撮っていたとは。

 私はすぐに返信しました。



『あおちゃん、こんにちは。

 旅行中は大変お世話になりました。

 紅茶はほんの気持ちです。

 例の写真、ありがとうございます( ´艸`)』



 私はどういうわけか、文面が全て敬語になってしまいます。

 もっとソフトに伝えられるようになりたいです。



 彼に送信した忍野八海の写真は、既読になっていません。

 公務員試験の勉強が大変なのでしょう。

 失礼なことをしてしまいました。



 16時に仕事が終わると、寄り道をせずにアパートへ帰りました。

 この前、瑞樹くんからもらった野菜を使って、ラタトュイユをつくろうと思い立ったのです。

 スマートフォンとは、便利なものです。すぐにウェブサイトを検索できるのですから。

 料理の投稿サイトに載っていた「超簡単☆ラタトュイユのレシピ」に沿ってつくります。

 すっかり料理をしなくなってしまったので、貴重な体験です。

 料理は苦手です。

 私のつくる料理は、気持ち悪くて食べられたものじゃないそうです。

 レシピ通りにつくっても、大変がその評価です。



 18時に、私宛ての荷物が届きました。

 新潟県のNPO法人からです。荷物の内容は「折鶴」。

 荷物の箱を開けると、7.5cm四方の折り紙でつくられた折鶴が大量に入っていました。

 NPO法人からは、折鶴が送られることをすでにメールで教えてもらっています。

 ばらばらの折鶴を綴ることが、私のボランティアでの仕事なのです。

 約半年前、このNPO法人のブログをたまたま見つけたことが、ボランティアを始めるきっかけでした。

 このNPO法人は、難病支援の一環として千羽鶴の寄付を行っているそうです。

 当時の最新記事には、住宅環境に因って千羽鶴が置けない人もいるため100羽に綴る方針にしたこと、綴っていない折鶴の在庫があふれそうなのでなるべく100羽に綴ってほしい、という内容でした。

 当時は農協を辞めて無気力状態であった私ですが、背中を押されるようにNPO法人に電話をかけ、折鶴を綴らせてほしい、とお願いしました。

 その後、不定期的ですが、NPO法人から折鶴が送られるようになり、私が100羽に綴って送り返すという流れが続いています。

 ボランティアなのでお金にはなりませんが、楽しいです。

 折鶴を糸に通している間、嫌なことを忘れて集中できます。

 鶴を折った人達の思いが届いてほしい……時折、そんなことを考えます。

 夕食にラタトュイユを食べたら、早速作業を開始しました。



 それから数日後のことです。平日ですが、私は休みの日です。

 相変わらず、彼に送信した写真は「既読」になりません。

 冷凍保存しておいたラタトュイユの残りを解凍して昼食を摂っていたら、青柳さんからメッセージが来ていました。



『はなちゃん、千羽鶴のまとめ方教えて!』

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