ブレザーを着ていた頃の自分達は (d)

 料理は苦手です。何をつくっても「気持ち悪くて食べられたものじゃない」と言われます。

 今朝も厚焼き卵の味を認めてもらえず、3回つくり直し、4度ともわずかにつまんで破棄されました。

 今日は、家庭科の時間に調理実習があります。ハンバーグをつくります。

 皆さんの邪魔にならないように頑張ります。



 努力は常に報われません。

 報われないのだから、努力ですらないのかもしれません。

「花村さん、なぜなの?」

 同じグループの長谷川泰花やすかさんに怒られてしまいました。

「なぜいつも皆と違う行動をとるの? はい、花村さんは玉ねぎのみじん切りをして」

 怒りながらも、しかるべき行動を指示してくれます。ありがたいです。

 長谷川さんは、私なんかと違って可愛くて優しくて強い人です。

 顔は整っていて可愛いですし、笑うと夏の花のように明るい雰囲気になります。

 間違っていることには毅然として異を唱え、具合の悪い人がいたらすぐに気づいて何とかしようとします。

 長谷川さんは、私が目標としている人です。

 だからこそ、長谷川さんの邪魔にならないように気を配り、機嫌を損ねたくありません。

「花村さん、みじん切り上手だね。おうちで料理しているの?」

 手元を覗き込む長谷川さんに訊かれます。

 私は首を横に振りました。

 しかし、私が嘘をついたことはすぐに見破られてしまいます。

「すごく上手いよ。手際もいいし」

 ハンバーグの空気を抜く作業も、火の加減も、長谷川さんはしっかり見てくれていたのです。

 私は謙遜のつもりで自分を否定しました。

「でも、祖父母も母も私の料理は嫌いなんだって。私の料理は、気持ち悪くて食べられたものじゃないって、いつも言われる」

 私は知らず知らずのうちに、「そんなことないよ」と言われたい欲があったのだと思います。浅はかでした。

「うん、そうだよね」

 長谷川さんの返事は、私のたいして大きくない胸に突き刺さりました。

「料理してるのに、してないって平気で嘘をつく人の料理なんて、気持ち悪くて食べられたものじゃないよね」



 ハンバーグは、中までしっかり火が通り、焦げ目もほどほどです。

 長谷川さんも、同じグループの根岸結音ゆねさんも、ひとくちつまんだだけで箸を置いてしまいました。

「花村さんの料理なんて、気持ち悪くて食べられたものじゃないね」

「うちも泰花に同意」

「結音は私に便乗しているだけでしょ」

「本心だもん」

 それはひどいよ、と反撃したのは、別のグループの青柳さんと内海さんでした。

 長谷川さんと根岸さんの食べ残しを口にして「うちらのよりおいしい!」と言ってくれました。



 そのときから、青柳さんと内海さんは私なんかを気にかけてくれます。

 そのうち、あだ名で呼び合うようになりました。

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