千羽鶴、承ります⑤
“富田さん”が店を出ると、彼女はカウンター席まで移動してくれた。
「お待たせしました」
「とんでもないです」
高校生のときのイメージが抜けていないせいか、大人っぽくなったフェイスラインを目の当たりにしたら、急に言葉が出なくなってしまった。
苦し紛れに出たのは、「さっきのは、千羽鶴だよね」だ。
彼女は「うん」と頷き、スマートフォンの写真を見せてくれた。
「ボランティアで制作しているの。NPOにも寄付しているけれど、先程の富田さんみたいに直接注文を
配色がびしっと決まった千羽鶴の写真。一番下が濃い紫色である。上に向かって、青、水色、緑色、黄緑、黄色、オレンジ色、赤、ピンク色、とグラデーションになっている。背景の白い壁は、彼女の部屋の壁紙だろうか。
「今回はこう」
スワイプして次の写真へ。
配色がばらばらの千羽鶴。先程の作品であるらしい。
「自分がつくったようにしてほしい、と言われたから、おしりをビーズでなくて短く切ったストローで止めて、配色をばらばらにして、糸も白一色で、三つ編みにして、リングは使わずに編んだ糸を輪にして……」
“富田さん”にした説明を俺にもしてくれる。
色の違い以外見なかったから、前の写真に戻ってもらった。
彼女の「普通」の千羽鶴は、ビーズは見えないがカラフルな糸をミサンガのように編んでいる。
単語帳用のリングを糸に編み込み、そこから細い編み方。
「三つ編み?」と訊いたら、「四つ編み」と返された。
彼女はハイスペックさんらしい。
彼女は珍しくよく喋る。よほど千羽鶴が好きなようだ。
あんなに酷いことをされたのに。
俺も酷いことをしたのに。
彼女と俺はそこまで仲が良かったわけではない。
だから、冗談を言うことも本音を聞くことも、ためらってしまう。
「そろそろ行く?」
俺が訊ねると、彼女は綻ぶように微笑んで「うん」と頷いた。
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