未来へのツバサ - 2
魔導船の発着場から、イシュクールの残骸があるという『サンドリウセ台地』に続く旧街道入り口までは、併設された馬車乗り場で乗合馬車で向かうことになった。
僕たちは旅人だが、足以外の移動手段は今のところもっていない。
というのも、僕たちの旅は決して平坦な道だけではない。
凹凸の険しい岩山や鬱蒼と木々が生い茂る森林――そういった場所で乗り物に頼るのは場合によるが危険である。
僕のせいではない(と信じている)が、頼まれごとをされやすい性質上、馬などを連れていくのはあまり理にかなっていなかった。
旅の荷物も多いわけではないし、何よりまだミュウは12歳の少女だ。
小柄な身体を乗せながら野盗などに出会ってしまったら、暴走して振り落とされてしまう危険もある。
――などなど、色々な理由により、乗り物はもっていない。
地球のように、車でもあれば楽なんだけどな……。
乗合馬車の車窓から街道に隣接する草原を眺めながら、ふとそう考えていた。
乗合馬車には、僕とミュウ、イドニスの他に、商人のような風体の小太りの男性と、その護衛らしい戦士が同乗していた。
商人は戦士と次の目的地について話し合っていたようだが、ひと段落したようで、今度はたまたま目があった僕に話し掛けてきた。
「おや、そのお顔――どこかで見覚えのあるような気がしますぞ。確か……近頃話題の、不思議な魔法を使うという《風來少年》のカザキさんでは?」
顔をあわせた覚えはないけど、向こう方は随分と僕について詳しいらしい。
そのつもりはないのに、噂されるのも難儀なものだ。
「はあ……あなたは、商人さんですか?」
「ええ、私は『星ファリス大商会』に所属しております、"サイモン"と申します。以後お見知り置きを」
そう言って、彼は深々と僕とミュウ、イドニスにも頭を下げる。こちらも頭を下げないわけにはいかないので、渋々と礼をする。
ミュウはよくわからなそうな顔をしながらも頭を下げ、イドニスは興味がなさそうにそっぽを向く。
『星ファリス大商会』とは、リーフェンを股にかけて商業活動を行なっている世界的団体のことだろう。
食料品から生活用品、果ては武具や薬品、魔道具まで数多の商材を取り扱う、一般人も旅人も必ずお世話になる団体だ。
『星ファリス従樹教会』公認の団体ということもあって、所属するのもそう容易いものではない、日本基準でいえば公務員のようなものだろう。
彼は顔を上げると、にっこりと微笑んで話を続ける。
「あなたのお噂はお聞きしておりますよ。なんでも、あなたの魔法は願いを叶える力があるとか……」
「あはは……それは歪曲された噂ですよ。僕にはそんな力はありません」
この噂……本当にどうにかならないものだろうか。この能力をもっていて、唯一の痛手であると言っても過言ではないかもしれない。
「この馬車は『港町アドランタ』行き。海を渡って別の大陸へ赴くおつもりですかな?」
「あー……いえ、僕たちは道中の『サンドリウセ台地』に用がありまして……」
「『サンドリウセ台地』へ? それはそれは、あそこには確か魔導戦艦イシュクールの残骸が残っていましたな。何かお探しものでも?」
「ええ、まあ……」
そのような問答が続き、受け答えに困っていると、それを察したのか彼は人差し指を立てる。そして、サイモンは少しだけ声のトーンを落とし、話を続ける。
「では、お気をつけたほうがよろしいですぞ。あの辺りは野盗が多いと聞きますからな」
「ええ、話には聞いていますが……。あれほど立派な都市がありながら、どうして盗みを働こうってなるのか……」
「――いい着眼点です。もちろん職にあぶれてしまい、野盗へと墜ちた者も居るでしょう。それは仕方のないこと。いくら『稀代の名王』といえど、政は絶対ではありませんからな。しかし……それにしては野盗の数は多くなりました。ここ数年ほどの話です」
何やら含みのある言い方をする商人"サイモン"。しかし、話が本当だとすれば……。
「何者かが裏で手を引いて野盗を恣意的に増やしている……?」
想定に過ぎないが、やはりソラウスさんが亡くなった事件にグレゴール氏が関わってる。
証拠は見つからなかったのではなく、野盗を買収して証拠を隠滅しようとしていたのでは……と、嫌な予感が頭をよぎる。
「まあ、あくまで噂話に過ぎませんが、旧街道を行かれるのであれば、お気をつけください」
「お気遣いありがとうございます。その、またお会いしたら、ぜひ商店を利用させていただきますね」
「これはこれは、光栄の極みでございます。ご来店、お待ちしておりますよ」
話を終えると、そこでちょうど、旧街道への入り口が見えてくる。
馬車の引き手に降りる旨を伝え、ミュウたちと共に馬車を降りる。眼前にはボロボロに朽ち果てた枯れ草道が奥へと続いている。
「イドニス」
「――あのおっさんの話は臭い。ソラウスっつったか、そのおっさんは話を聞く限り、隊からの信頼は厚かった。全員が全員ではないだろうが金で手の平返そうってやつは少ないだろうな。だから野盗を雇ってごちゃごちゃやろうってのはよくある話だ」
「うん、推測が確かならこの先はグレゴールの手の平の上だ。慎重に行こう」
イドニスが先行して、僕とミュウが後に続いて枯れ草道へと足を踏み入れていく。
そのときはまだ、背後から迫る影に気付く事は出来なかった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
カザキたちが調査に発ってからすぐ、プエルタは祖父であるガレウスのもと、星霊魔法の訓練を受けていた。
『操舵士選定試験』まで4日、最早幾ばくの猶予も残されてはいなかった。
訓練用の中型魔導艇の甲板に、ガレウスの声が響く。
「いいか、
「……は、はい!」
その言葉と共に、プエルタは意識を魔導石に集中させる。
中級の星霊である
「悠久なる風を纏いし星霊よ。我が名、我が血を標に、契約のもと汝が姿を我の前に顕せ! "
彼女が契約の合言葉を言い放つと、雄大な風が辺りに吹き、星霊が姿を顕す。
顕れた星霊は、プエルタの周りを一通り翔びまわり、止まったかと思うと欠伸をする。
「お、おじいちゃん……大丈夫かな」
「弱気になんな、元々そいつは気まぐれな奴だ。そいつだけじゃなくて、風属性の星霊の連中は皆な。そいつを乗りこなせねえんじゃ、"風神の化身"は乗りこなせねえ。つまり――」
「わ、わかってる。私、やるよ! 乗りこなしてみせる!」
「フッ……」
ガレウスはプエルタの姿に、いつかのソラウスの姿を重ねていた。
星霊に対する彼の想いは、確かに目の前の孫娘に受け継がれていたのだと、確信する。
「うっし、そいじゃあ早速船を飛ばすぞ!」
「へえっ!? わ、私まだ船を飛ばした事なんて!?」
「あの長刀の坊主の言っていた事をもう忘れちまったのか? 星霊にお願いすりゃいいのさ、『この船を飛ばしてください』ってな!」
少しの間、プエルタは呆気にとられていたが、星霊に意識を集中し、星霊へと語りかける。
「お願い……船を動かして、あの蒼い空に私を連れて行って!」
彼女がそう語りかけると、風霊の魅獣はよしきたと言わんばかりに、船の周りに薄い魔力の膜を巡らせる。
膜で覆われた船に風が送り込まれ、中型魔導船は蒼い空に向かって動き出す――一筋の希望と共に。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
枯れ草道を抜け、いくつもの荒廃した丘陵が続く先に、巨大な機体と『門』の残骸が見えた。
無残に焼け焦げ、ひしゃげた鉄の塊は、最期の時の悲惨さを物語っているかのようだ。
奥から漂ってくる少し臭う冷たい風を受けて、マントで鼻を覆う。
「話は本当のようだな。血の臭いがする」
「獣の臭いもね……ミュウ、側を離れないで」
ミュウは少し怯えながらも、こくりと頷く。
サンドリウセ台地は台地の上に更にいくつもの丘陵が重なって出来ており、かなり見通しが悪い。
野盗や魔族の不意の襲撃に、十分に注意を払う必要があるだろう。
草陰を隠れ蓑にしながら、慎重に残骸へと近づいて行く。
しかし――
「ひゃっ!?」
不意にミュウの悲鳴が響く。
その声に、咄嗟にミュウの身体を抱えてその場から飛び退く。
「引っ掛かったか……《
「気付いてたのか?」
「ああ、だがどうせバレるもんだ。何年も前から準備してるんだから、この辺り一帯は
「それもそうか……ミュウはどうしたの?」
「……ビリっと、きた」
「そっか。ミュウも《探知》に気付いた……というか感じ取ったんだね。僕は感じなかったけど……あぁ」
《探知》の星文魔法はマナを感知する、とイドニスは言った。
そして僕の身体にはこの世界のマナが流れていない。つまり、《探知》の魔法に引っ掛からないということだ。
この状況を逆手にとって、奇襲を仕掛けてくるであろう野盗たちを逆に奇襲するということも出来るだろう。
「この先どうするかはお前に任せる」
「……よし、ここで野盗を一気に片付ける。今から作戦を言うよ」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
一度ミュウとイドニスとは別れ、付近の一番高い丘から台地全体の偵察を行なう。
目を凝らして死角になりそうな場所を覗くと、予想通り何人かの野盗たちがミュウたちの元へと向かっていた。
そして、その中に見慣れた服装の魔導師の姿もあった。
「『雷神の神槌』……グレゴールの手下か」
即座に人工魔道具『
有事に備えて、アルマドンの魔道具店で購入しておいたものだ。
『敵は何人だ』
「5人……うち1人は『雷神の神槌』の魔導師みたいだ。多分その魔導師が《探知》の使い手だと思う」
『正確な位置は魔導師にしか分からねえからな。しかし、それにしたって前に出てくるなんざ余裕があるか馬鹿のどっちかだ』
「配属されてる魔導師は1人とは限らないし、油断はできない。ミュウを頼んだよ」
『わかってる』
その言葉を聞くと、向かっていった野盗たちの死角を使いながら丘を下っていき、背後まで忍び寄っていく。
あと少しで、奇襲をかけられる――といったところで、僕の肩を何者かが掴む。
驚いて振り返ると、そこには藍色の奇抜な格好に濃い化粧を施した独特な雰囲気の男性が立っていた。
魔導船の発着場で見かけた、警備兵を説き伏せていたあの男性だ。
――なんの気配もしなかったのに、いつの間に背後をとられていたんだ!?
「こんにちは、坊や。安心しなさいな、敵じゃないわ」
「一体いつから……あなたは?」
「そうねえ。通りすがりの正義の味方、かしら」
「……?」
男の言葉に呆気にとられていると、男は人差し指を野盗の方へと向ける。
そして、銃を撃つような動作をしたあとに、言葉を続ける。
「今はあちらを片付けるのが先じゃなくて? あたしも一緒にやったげる」
そう言うと男は肩に下げていた魔導銃を構える。
なんだか腑に落ちないが、この人の言う通りではある。まずは野盗たちを倒さなければ。
野盗たちは今にもイドニスたちに接敵するところだった。
そこに、一発の銃声が鳴り響き、『雷神の神槌』の魔導師が膝をつく。
「今よ、行きなさい!」
その言葉と共に僕は駆け出し、残り4人の懐に一気に入り込む。
「なっ、いつの間に――ぐぁっ!?」
身体を回転させながら飛び上がり、創造した雌雄の剣で野盗たちを薙ぎ払う。
剣圧で上空へ吹き飛んだ野盗たちは、次々に地面へと衝突していき、意識を手放す。
その辺りで、イドニスたちもこの場にやってきた。イドニスは抜いていた剣を納め、ミュウはイドニスの側で隠れるようにこちらを見ている。
魔導銃使いの男性も、岩山に姿を隠していたようだが、その姿を表す。
「見事な手際ね。『風來少年』ちゃんは」
僕は着地した後、残った膝をついている魔導師に剣の切っ先を向ける。
「『雷神の神槌』の魔導師、ですね。お話を伺っても?」
「ぐっ……何者だ、貴様ら……は……!?」
魔導師は魔導銃使いの男性を視界に捉えると、呆然とする。
「馬鹿な……貴様は、『星ファリス従樹教会』の『紫電の
観念したらしい魔導師は、杖を放り投げる。
彼は『星ファリス従樹教会』の人間だったのか……てっきり、アルマドン国の関係者と思っていたのだけど。
だけど今は彼の詮索よりも、目の前の魔導師についてだ。
「それで、あなたは誰の命令で、こんなところで何をしていたんです?」
「そ……それは……私は、グレゴール様の指示で『門』に変化が無いか監視を行なっていただけだ! そ、そこの者たちも、協力者に過ぎん!」
「……彼と彼女に何をしようとしたんです? 警告をしようと言うには、装備も動きも物騒な気がしますが?」
「うぐっ……」
シラをきるつもりだったらしい魔導師は、更に肩を落とし、ポロポロと白状しだす。
「――お前たちがどこまで知っているのかはわからんが、ここには先の大戦で墜落した魔導戦艦の残骸がある。グレゴール様は、魔導戦艦を誰にも近づけさせるなと命令を下された……」
「なぜです?」
「そ、そこまでは知らん。本当に私はそう命じられただけなのだ。お前たちこそ、こんなところまで何をしに来た?」
「その大戦で命を落とし、戦犯として扱われたソラウスさんの汚名を返上するため、その証拠を探しに来ました」
そう言うと、魔導師はくくっと笑う。そして、魔導戦艦の残骸へと視線を向ける。
「ああ……あの『元
「……」
「ソラウスは望んで戦犯になったんだよ。証拠も何もありはしない。お前たちが探し求めるものなど何も――」
「それはお前の決めることじゃない。僕がこの目で確かめる」
頭にきたので刀背打ちで魔導師の首をうち、気絶させる。
イドニスが用意していた縄で、倒れている野盗たちと魔導師を縛り上げたあと、僕たちは改めて紫髪の男性へと顔を向ける。
「あら、そんな熱い視線を向けないで。私、クラクラしちゃうわ」
「おい……なんだこいつは。気持ちが悪いぞ」
「ストレートに言わないの……ええと、『星ファリス従樹教会』の方だと、さっきの魔導師は言ってましたが……」
「ええ、私の名前は"ジェーン"。彼が言った通り、『
『異端刈り』とは、『星ファリス従樹教会』が保有する、地球で言う特殊部隊のようなものだ。
この世界における異端……魔族や、魔族に心頭した人間たちに制裁を下す者たちをそう呼んでいる。
「しかし、なんでここに? この事件は『異端』が絡んでいるのですか?」
「いーえ、それはまだ分からないわ。そうじゃなくて――東の森の一帯をなぎ倒したのは、あなた?」
そう言われて、僕は頭を抱える。先日、野盗と遭遇したときにやったことを言っているのだろう。
隣でイドニスもため息をついている。こればかりは反論しようがないので、殴る気も起きない。
「えーと……そう、ですね。なぎ倒したのは僕です……」
「素直でよろしい。森は大切な資源なんだから、今後は無茶なことはしないように」
「は、はい……反省します……しかし、僕は『異端』では……」
ジェーンさんはカラカラと笑い、僕の唇を人差し指で塞ぐ。
指先からは香水を使っているのだろうが、ツンとしたキツい匂いが漂ってくる。
「大丈夫よ。最初は確かに『異端』の仕業かと思ってあなた達を尾けていたのだけど、一部始終は全部見させてもらったから」
「そ、そうですか……誤解が解けたようで何よりです……」
「まだ疑ってないわけではないけどね。あなたの使っているその力――」
やはりそう簡単にはいかないか……しかし、そう説明したらいいものか。
答え方に戸惑っていたが、ジェーンさんはフフと笑い、指先を僕の口元から離す。
「ま、今は不問としといてあげる。あなた達にはやるべきことがあるのでしょう? お邪魔でなければ、協力したげる」
「えっ……『異端』が関わっているかどうかも分からないのに……いいのですか?」
「その時はその時よ。それに、『異端狩り』の仕事が『異端』を狩るだけとは限らないわ。この星に住む民を守る……『星ファリス従樹教会』の本分を遂行するのは私たちも変わらないもの」
どうやら、ジェーンさんは思ったよりもいい人のようだった。
かなり戦闘にも慣れているようだし、戦力になってもらえるのはありがたい。
「そういうことなら……どうかな、イドニス、ミュウ」
「お前が良いなら良い。いちいち聞くな」
「む……本当にいちいち一言多いやつだな。ミュウは?」
「ん……優しい感じ、する。ミュウ、よろしく、お願いします」
ミュウはイドニスの側から離れて、深々とジェーンさんにお辞儀をする。
まったく、育ちが云々と言っていたやつも見習って欲しいものだ。
ジェーンさんは、ミュウへと歩み寄っていくと、軽々と持ち上げて抱きしめる。
「あ"ら"~~~~~かわいい星療術師ちゃんね~~~~~よしよしよしよし~~~~~」
ミュウは突然のことで慌て、ジタバタと抵抗するが、ジェーンさんはお構いなしにミュウの頭を高速でなでなでする。
ミュウも途中で抵抗を諦め、なでなでを許容し始めたようだ。
それからジェーンさんは、イドニスの方を向く。
「あなたは……ま、あなたもとりあえずは不問にしといたげる。イドニスちゃん」
「チッ……」
「……?」
どうやら、ジェーンさんは僕たちの知らないイドニスの何かを知っているようだった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
魔導戦艦イシュクールの残骸は、遠目で見ても大きかったが、近くで見ると更にそのスケールの壮大さに驚かされた。
地球のもので例えるなら、東京タワーの先端にいかないくらいまでの高さはあるだろう。
そして周りには、衝突時の影響であろう飛散した機体や『門』の残骸があちらこちらに転がっている。
ミュウは戦艦の残骸を見上げ、「おー」と声を漏らしている。
イドニスは周囲を警戒しながら、戦艦の残骸を登るための手段を探しているようだ。
僕もそれにならって、戦艦内部に侵入するための穴を探す。
その時、ジェーンさんが声をあげる。
「っ、上! 狙われているわよ!」
上を見上げると、弓を構えた野盗の集団が戦艦内部から矢を放とうとしていた。
ジェーンさんはすかさず、構えていた魔導銃でひとりを撃ち抜く。
僕はミュウを抱えて、イドニスと共に近場の岩に身を潜める。
ジェーンさんも何発か牽制射撃を行なった後、別の岩に身を潜める。
「そっちは大丈夫!?」
「ええ、なんとか! ありがとうございます!」
「安心するのはまだ早いわ、中は野盗たちの吹き溜まりになってるようね!」
確かに、先程の5人だけとは思っていなかったが、ジェーンさんの口ぶりからすると集団の規模はかなりのようだ。
剣を創り出しながら、岩陰から戦艦を覗き見る。
目視で確認できるのは先程の倍の数、10人ほど。ジェーンさんが撃ったひとりはすでに回収されたようで、その姿はなかった。
「15か16人ってところか……」
「さっさと乗り込んで切り崩したほうがはえーんじゃねえのか」
「今姿を晒したら、入り込んだことがバレちゃうからそれは却下。できるだけ見つからずに攻めたいところだけど……」
「もうバレてんだろ」
「そうだけど……ひとつだけ方法がある」
それは、《探知》の魔法に引っ掛からず、かつ身を隠す手段がある僕にしかできないことだ。
僕の『
もうひとりの自分を創り出し、少しの時間の間、分身として活動させることが出来る魔法だ。
弱点としては、発動に時間がかかるため戦闘には不向きの魔法だが、今だったら撹乱に使えるはず。
ジェーンさんの牽制射撃があれば、撹乱はまず成功するだろう。
しかし、この作戦は姿がバレていて、かつ《探知》に引っ掛かってしまうミュウやイドニスにもここに残ってもらう必要がある。
つまり僕は、単独で内部に侵入して速やかに規模の詳細が不明の連中を、軒並み伸す必要があるということだ。
野盗相手とはいえ、危険な作戦になるだろう。
僕の考えを察したのか、ミュウは僕の袖を引く。
「また、危険なこと、しようとしてる」
「はは……キミは本当によく見てるな。でも大丈夫だよ、ミュウやジェーンさんもいてくれるから」
僕の言葉に、ミュウは納得がいかなそうな顔をするが、しばらくの沈黙の後に渋々うなずく。
「ありがとう、信じてくれて。よし、イドニス。お前とジェーンさんにはもうひとりの僕と一緒に陽動をしてもらう」
「あ……? ああ、なるほどな」
「ジェーンさん!! 僕が合図したら、牽制射撃をお願いします!!」
ジェーンさんは親指をぐっと立てて、こちらに合図を送る。
その合図を見て、僕は合言葉を言い放つ。
「――自己投影完了、『
合言葉と共に、もうひとりの自分が形成されていく。
少しサイズは小さいが、瓜二つの見た目をしたもうひとりのカザキだ。
もうひとりのカザキはアンタレスを投影し、更に《夢幻改竄》を行なって弓を形成する。
そうして表に躍り出て、集団に向かって螺旋状の炎の矢を放つ。
「今だ! 頼む!」
もうひとりの僕の言葉に、イドニスとジェーンさんも岩から飛び出て、それぞれ魔導銃と星霊魔法で牽制射撃を始める。
残った僕は、ミュウの頭を撫でて、立ち上がる。
「ここで待っててね。すぐに片付けてくる」
ミュウは心配そうな眼差しを向けながら、またこくりとうなずく。
それを見届けた後、僕は草陰に潜って戦艦内部へと潜入する――。
風來少年の夢幻魔法<ドリームワークス> ほしくん @star-momizi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。風來少年の夢幻魔法<ドリームワークス>の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます