投身するスキアポデス

ナイロンロープの首吊り男

投身するスキアポデス

遂に来てしまった…エーゲ海の東尋坊…


エーゲ海なのに東尋坊とはまた可笑しな話だが、要するにメッカである。

何の?自殺の。


疲れ果てた。マイノリティーとして生きるコトは大変だ。

自分で選択したのであれば覚悟も出来るから強く生きるコトも出来るだろう。

しかし、最初からそうであったモノにとっては話が違う。


どうして私はそう生まれついたのだろう?

どうして私はマジョリティーで無かったのだろう?

どうして…


どうして - 私の親は私を産んで育ててしまったのだろう?


私の人生は周囲からの好奇の目と嘲笑に耐え続けるモノだった。


周りと違うというコトが武器になるのは、それが許容される範囲に収まっているか、突き抜けすぎているかのどちらかだ。


私の場合は…突き抜けてはいたがチカラがなかった…


力なき異形は迫害の対象にしかならない。


教養と常識と道徳を学ぶ場所で、私は非常識の象徴として扱われ、教養によって普通であるコトの有り難みを知り、道徳という建前を知った。


誰が悪いのか?力の無い私だ。弱いから悪い。

悪が弱さから生ずる一切を言うのであれば、私は悪である。

弱さから親を恨み、弱さから親を悲しませる自分になるコトを忌避し、結果として悪として堕ちていく。

滑落する私は、いつか地の底に辿り着き平穏になるコトを願った。

だが、悪の願いは成就するコトは無かった。


底の無い無間地獄


落ちきるコトの出来ない奈落


浮遊感の無い…或いは浮いていたのか?途切れることなく続くソレに何の感情も浮かばなくなった頃、私は漸く社会という荒野へと出るコトが出来た。

コレで思う通りに生きていける。その考えは即座に打ち棄てられた。


社会は残酷だった。ドコまでも続く真っ白な氷結地獄の様に。


生きていく力、何かを為す力、創造する力、それらを持たないモノは健常者だろうと容赦なく廃棄される。


当然それは力なき異形にも適用される。それを逃れられるのは見世物として生きる力を持った異形のみ。


学校という狭い世界ですら上手く生きられなかった私には当然そんな力もなかった。


心は既に擦り切れていた。が、それでも親への申し訳無さからピリオドを打つコトは躊躇っていた。


が、終わりはやってくる。長い長い道をやってくる。


ある年の初め。実家に帰省した折に、酩酊し饒舌になった両親がふと漏らした言葉は私にあっさりと決断をさせた。


「おまえが普通に生まれてきていたら…」


そうして今私は美しい景色を眺めながら一歩ずつ自由への道程を辿っている。


あと数歩。もう少し。願わくば、最後の瞬間は幸せな気分でありたいなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

投身するスキアポデス ナイロンロープの首吊り男 @sink13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る