第23話


 そうちゃんのことが諦めきれなくて、女を磨いてそうちゃんを振り向かせようと決めた。

 女を磨くと言っても、一体なにをどうすればいいのかよくわからなくて、男みたいな言動をやめることしか思いつかなかった。

 やめてみると案の定、男子たちから今まで以上にからかわれるようになってしまった。でもこれも女を磨いてそうちゃんを振り向かせるために、耐えなきゃいけないことなんだと思って、頑張って耐える日々が続いている。

 いつまで耐えればいいのかわからない。耐えた先に、そうちゃんがあたしに振り向いてくれる保障なんてどこにもない。

 お昼ごはん一緒に食べようって誘ったら断られてしまった。あたしみたいな大女が女っぽい言動してるのが気持ち悪くて、そうちゃんはあたしと一緒にお昼ごはんを食べることを嫌がったのかもしれない。もしかしたら男っぽい言動をやめることは逆効果だったのかもしれない。だったら余計にからかわれるようになったことに耐えてる意味がない。じゃあ女っぽい言動をやめて、また男っぽい言動に戻すんだったら、どうやって女を磨けばいいのかさっぱりわからない。それに最近のそうちゃん、なんだか機嫌悪いし。一体あたしどうすればいいの?

 泣いてしまいそうになる。

 泣くなあたし。こんなことで泣いてたら、女を磨いてそうちゃんを振り向かせるなんて無理だ。だから堪えるんだ。

 そんなことわかってる。でも辛いものは辛いよ。

 あたしの瞳から涙が零れ落ちそうになる。

「小鳥!」

 声に後ろを振り向く。

 肩で息をするそうちゃんがそこに立っていた。

「虫がいい話なのはわかってる。でも聞いて欲しい」

 そうちゃんは息が整うまで少し待ってから言った。

「おれはお前が好きだ。だから、もし良かったら、おれと付き合ってくれ」

「あたしが、好き? なんで?」

「お前が可愛いから」

「嘘だ! あたしなんかのどこが可愛いっていうの?」

「お化け屋敷に一緒に入った時に、おれの服を掴んでいいのかどうか迷ってたのが可愛かった。キーホルダーをあげただけであんなに大袈裟に喜ぶ笑顔が可愛かった。お前が作ったサンドウィッチをおれが食べようとした時に、おれの反応を窺って、じっと見つめてきたのも可愛かった。おいしいって言っただけで、あんなに嬉しそうな笑顔を浮かべてたのも可愛かった。お前の可愛さが眩しすぎて、すぐに目を逸らしてしまうほどにお前は可愛いんだ。足も綺麗だし、おれの好きなポニーテール似合ってるし、笑った時に八重歯が覗くお前の笑顔はいつだって可愛くて、おれ、昔からお前の笑顔が大好きなんだ。この前おれに告白してくれた時、顔真っ赤になって、体と声が震えてて、おれに告白するために、あんなに一生懸命になってた姿がめちゃくちゃ可愛かった!」

 あたしの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

「本当に、あたし可愛い?」

「ああ、お前は可愛い」

「もっかい言って」

「お前は可愛い」

「もっかい!」

「お前は可愛い女の子だ!」

「嬉しい……」

 両の瞳から、止めどなく涙が溢れ出す。

「……あたしが、ほんとに可愛い?」

「ああ」

「ほんとにほんと?」

「しつこい」

 そうちゃんがあたしに歩み寄ってきて、あたしの肩に両手を置く。そして顔を近づけ、唇を重ねてきた。

 暫く唇を重ねた後、どちらからともなくそっと離す。そうちゃんの顔が目の前にあった。

「これで信じてくれたか?」

「うん!」

 目と鼻の先から、そうちゃんがあたしを見つめてくる。

「恋をすることで、周りが見えなくなってしまうかもしれないって不安はまだあるけど、それでも、おれはお前と恋がしたい」

「もしそうなったとしたら、あたしがひっぱたいて目を覚ましてあげるよ」

 そうちゃんの顔が少し緩む。

「なら安心だ。親に捨てられて、自分は誰からも必要とされてないんだと思うようになって、生きる意味を見失ってたけど、おれは小鳥の笑顔を見るために生まれてきたんだと思う」

 胸が甘く締めつけられる感覚。

「だったらこれからいっぱい笑顔にしてよ」

「そのつもりだ。一緒に恋しよう小鳥」

「うん!」

 あたしは満面の笑顔になって頷いた。

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