第五章 samāne vṛkṣe puruṣo nimagno ’nīśayā śocati muhyamānaḥ

UFD08003-0302

「おおくの禁忌がありましたが、陽にあたることと地をふむこと、マヘーシュヴァラ以外と口をきくことは特にかたく禁じられていました。それらにより、神妃の力がそこなわれてしまうのだそうです。いまとなってはどうしようもありませんが。

 力を保ちつづけることがなにより重要なのだと、そうきかされてそだちました。ですからわたしにとって世界とは、あの部屋がすべてだったのです。

 神妃としてのわたしの務めは、あの部屋でマヘーシュヴァラ――彼をまち、受けいれ、みえたものをつたえることでした。そしてある日、わたしはみてしまったのです。わたしを扉のむこうへと連れだすものの訪れを。ですがわたしは、それをつたえませんでした。勤めをおこたることも、そとにでて神妃の力をうしなうことも、言いつけにそむくことも、すべて罪だとしっていながら。

 わたしは咎人です。それらの罪とひきかえにしても、そとにでることをえらんだのですから」

 事件一意識別子IUID:f61aa261-9a93-4ebb-98e5-0a261e405bb3 通称「マハー・アヴァター・サマージ事件」捜査資料、統一連邦文書UFD08003-0302より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る