ランカー

     ★☆★☆★


 はてしない虚無が支配する空間にみちた濃密なやみは、向きあってうかぶ三枚の紗幕しゃまくのおくからこぼれた光を飲みこむことで、貪欲どんよくに密度をましているようであった。

 インドラジットからの報告をうけたラーヴァナが口をひらいた。威圧的な声が漆黒をゆるがす。

ひなの信用を得つつある、か。上出来だ。そろそろ頃合ころあいだな。にえどもをたいらげてくれたおかげで、我らの敵を陽のしたに引きずりだすこともできた」

 クンバカルナが肩をすくめ、ため息をついた。たるみきった肉体をつたう波が、紗幕ごしに映しだされる。

「なあ、ラーヴァナの旦那だんな。なんだってこんなまどろっこしいことをしてるんだ? 雛は所詮しょせん雛だ。ころすなんてたやすいだろう。なんだったらおれにやらせてくれないか? 腹がへってしょうがないんだ、あの綺麗きれいな声をきいてると」

「雛をかごからだしたのも、贄どもをあたえたのも、そとの世界でしんでもらうためだ。夢中で羽ばたいている最中にな。それを実現するには、インドラジットの魔術がちょうどいい」

「じゃあオレはなにをすればいい?」

「インドラジットを手助けしてやれ」

「わかったよ。でも、ちょっとはたのしんでもいいよな?」

「すきにすればいい。インドラジット、お前が雛を誘いだして仕留めろ」

 うなずいた幽鬼のごとき姿がきえた。おくれてクンバカルナの紗幕も暗転する。

「クンバカルナは強欲がすぎるな。少々かんがえねばならんか、我らの足手まといになるようであれば必要ない」

 独りごちたラーヴァナの紗幕の明かりがきえると、世界は暗黒にとざされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る