Middle 6 立ち向かう理由

 三度、速人が目覚めたのは煤けた天井の医務室。

 身体を起こすと、真剣な顔つきの泉と響真がいた。


「そうか、僕は、また…。」


 我を忘れて、暴走して、気を失った。

 辛うじてそれだけは認識できた。


「氷見川君…。」

「その様子だと、自我はまだあるらしいな。手間が省ける。」


 泉が戦いの顛末を語る。

“ディアボロス”の攻撃を受けた後、速人が黒い炎を纏って反撃したこと。

 その形態すがたは“ディアボロス”の能力に酷似していたこと。


「おそらく氷見川君のシンドロームは炎熱操作サラマンダーと…『ウロボロス』。影を操り、能力のの模倣を得意とする、まだ未知の要素が多いシンドロームです。」

“インジェクター”あのマッドサイエンティストの狙いはこれだった訳だ。これだけ派手な行動に出るとは思わなかったがな。」

「派手な…?」


 首をかしげる速人に、泉が抑揚の少ない口調で告げる。


「15分ほど前、“インジェクター”が白矢高校を占拠しました。」

「…え?」

「要求は氷見川君の身柄。教室に生徒数十名…具体的にはわたしたちのクラスの生徒が集められています。」


 それは、速人をおびき出すために、クラスメイトを人質に取ったということ。

 動悸と吐き気に襲われ、思わずベッドにへたり込む。


「…ごめんなさい。」


 泉が沈痛な面持ちで口を開く。


「先生…“インジェクター”の狙いは、私だったはずなんです。私がいたせいで、氷見川君が目を付けられ、皆まで巻き込んでしまった…私の責任です。」

「責任どうこうは今は関係ない。オレ達は支部長が戻り次第、学校に突入する。氷見川速人オマエ支部ここに隠れていろ。」

「…!」


 どうして。といいかけて口籠る。

 見ただろう、“ディアボロス”の怪物的な力を。

 感じただろう、痛みを、恐怖を、死を。

 何よりも…


「オマエは戦闘経験なぞないし、また暴走されても迷惑だ。解ったらおとなしくそこにいろ」


 これから彼らが向かうのは試合でも、交渉でもない。戦いだ。


「それでも…。」


 暴走する速人は、足手まといどころか邪魔になるだろう。

 手のひらを見つめる速人。

 自分に力があっても、自由に動かせず、暴れてしまう。

 自分には使いこなせない力。


「それでも、何かできないかな?!囮でも、身代わりでもなんでもいい!拓海が、飯島さんが、皆が僕のせいで危険な目に遭ってる…じっとしてるなんてできないんだ!」

「違います。元を辿れば私が…!」

皆が人質になってるのは!…僕を捕まえるためだ。

 身勝手だけど、戦って傷つくよりも…僕のせいで誰かが…のが、怖いんだ。」


 響真が速人を睨みながら、静かに歩み寄る。


「オレも…で仲間を奪われた。

 だが自分のせいで奪われたものは、自分で取り返す。そのために来た。…オマエにも、その覚悟はあるか?」


 無言で頷く速人。

 響真は表情を変えずに、鞘に納めたコンバットナイフを突き渡した。


「…持っていろ。丸腰で着いて来られるよりマシだ。」

「ありが…とう。」


 響真と共に、医務室を後にする速人。

 囚われた友のため、「取り戻すための戦い」に赴く2人を、泉は無言で見送っていた。


 >>SCENE END


 氷見川 速人

 泉の応急手当を受け、響真から「ナイフ」を渡され、戦いに臨む

 HP:22/34

 侵蝕率:76%


瞬く間に背後へフラッシュ・バック”一条 響真

 ナイフを「ナックルダスター」に持ち替え、戦闘準備

 HP:25/30

 侵蝕率:78%


“シルキィウェブ”坂木 泉

 外傷は治ったが、疲労が濃い

 HP:5/26

 侵蝕率:84%

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ダブルクロス・ストーリー:スターダスト たこ貧民 @tako-hinmin

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