Middle 5 貸し借り

 気絶した速人を泉と響真に託し、炭井は“ディアボロス”春日恭二との取引に臨んでいた。


「さて、それでは…」

「待て、貴様がその有様では気が散る。これを使え。」


 携帯型の応急手当キットを投げて寄こす春日恭二。

 一言礼を言った炭井が鎮痛剤と特殊カルシウム錠を飲み込むのを見届け、話し始める。


「私が提供するのは大きく2つ、

 『洗脳能力の解除法』の情報と、『対“インジェクター”』の戦力だ」


 後者について曰く、“インジェクター”配下のジャームの足止め、露払いを買って出るという。


「生粋のエージェントばかりの貴様らと肩を並べる訳にもいかんだろう?必要なら監視でも何でも付けて構わん。

 さて、これで貴様から出せる見返りは何だ?」

「そうですね…

 “インジェクター”撃破から12時間、お互いに敵対行動を禁止したうえで、“ディアボロス”あなたのあらゆる行動を黙認する。

 という感じでは?」


 “インジェクター”はFHにとっては危険な裏切り者ダブルクロス

 そのを黙認する、というものだ。


「悪くない。変わらないな、“スター・シューター”。」

「恐縮です。見て見ぬフリは、あくまで東区内だけ。

 別支部の管轄まではどうにもできませんが、よろしいですか?」

「良いだろう。」


 所詮は口約束の取引。しかし互いに相手を敵に回したくないからこそ成立する。


「…まず、あの洗脳能力は“インジェクター”が生成した『洗脳因子』…ウィルスのようなものだが、それを相手に打ち込んで全身に巡らせている。

 洗脳因子を中継して相手の精神に強く干渉し、命令のままに操っているのだ。」

「精神干渉ですか…。“ディアボロス”ほどの実力があっても抵抗は難しいと?」


 苦々しい表情で睨み付け、平静を装って話を続ける春日。


「…アレに精神力だけで抵抗するのは至難だ。マスターエージェント級の実力が必要だろう。

 あるいは、自己増殖する洗脳因子を一度に排除すれば良い。」

「体内の異質なレネゲイドを、一度に排除する…?」


 怪訝な顔の炭井に対し、春日恭二は得意気に話し出す。


「《リザレクト》だ。

 急激に活性化する本人のレネゲイドが、体内にバラ撒かれたを駆逐する。

 もっとも…奴もそれを把握しているから、にはαトランスを過剰投与しておく。」

「なるほど、レネゲイドの侵蝕がある程度進むと、《リザレクト》の効果が弱まりますからねぇ。とても全身に作用するほどの活性化は望めない…。」


 ボクらも油断はできませんね、と笑う炭井に、春日は挑発するような笑みで返す。


「それでもUGNお得意の『絆の力』なら、あるいはが起こるかもしれんぞ?」


 それに複雑な笑みで返した炭井のスマートフォンが、震え始めた。


「はい、私です。」

『支部長!先ほど“インジェクター”の犯行声明が!…』

「…わかりました。3人は支部で待機させてください。すぐに戻ります。」


 支部のエージェントからの緊急連絡。それを聞く炭井の表情が見る間に険しくなる。


「奴が動いたか?」

「ええ、白矢しらや学園高校を占拠し、氷見川クンの身柄を要求してきました。

 支部の細かい場所まで分からなかったらしく、原始的に校舎からの放送で。」


 既にスピーカーを狙撃して中断させたというが、機械操作ブラックドッグ能力で市内に中継などしていた日には、巡り巡って世界がひっくり返る。

 FHの春日にとってもそれはまだ避けるべきことであり、吐き捨てるように小声で罵る。


「オーヴァードの存在を露呈させかねないこの愚行…。よく解っただろう、奴はもう壊れている。

 FHわれわれにとってもUGNきさまらにとっても野放しにはできん。奴を『先生』と呼んだ小娘にも、よく言っておくことだ。」

「…そうですねぇ。ご進言、ありがとうございます。」


 そうして去っていく春日と、支部を目指す炭井。

“インジェクター”討伐に向け、共同戦線が動き出していた。


 >>SCENE END


“バレルマイスター”炭井 六郎

 HP:14/27

 侵蝕率:73%

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