我々は(不本意ながら)選ばれし勇者である

細胞

1 プロローグ

ふわりと前髪を撫でる、少し冷たくなった風に、思わず目を伏せた。

道行く人も、防寒具を身につけている人が見受けられるようになった。


「…風、冷たくなったな」


チラリと黒板に目をやると、見覚えのない数式が書き出されている。


机の上のノートは真っ白で、教科書には落書きが施されている。

ポケ〇ンの何かだろう。

昨日あたりに自分で書いた筈だが、全くわからない。


「なんだろ、ギャラ〇ス?」

教科書をじっと見ていると、先生が感心した様に頷きながら横を通った。


真っ白のノートを見られなくて良かったと思うと同時に、落書きを見ていただなのにと、少しだけ良心が痛んだ。


小さなため息をついて、再度窓の外に目をやる。


その瞬間、ぶわっとカーテンを膨らませて、強めの風が教室に乱入してきた。

髪とノートを勢い良く舞い上がらせる。


女子が「やだー、窓閉めてー!」と、髪を押さえながら言っている。


「…さむっ」


ふわふわ揺れるカーテンを制しながら、窓を閉めて鍵をかける。


先生は、何事もなかったかの様に授業を再開する。




ふと、電柱にとまっていた大きなカラスと、目が合った。

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我々は(不本意ながら)選ばれし勇者である 細胞 @saibou_0617

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