G線上のアリア――死のストリング

壺中天

ハロウィンの夜に或る事件


「服を脱ぐとこみられるの恥ずかしいから、後ろ向いててね――」

 黒いワンピースの少女は上目遣いの小さな声でいった。

 男は背中を耳のようにして衣擦れの音に気を取られる。

 それは、新宿にあるラブホテルの一室でのことだった。


 少女はそっとスカートをたくし上げると白い紐パンを解いた。

 男は向こうの近付く気配を感じる。甘えるように首へ腕が絡められた。

 巻き付けた紐をぼんくぼの辺りで交差させると、背中合わせへと少女はターンして前に屈む。

 男の体が背負い投げを掛けられたような恰好に吊り上がる。手は背中の少女に届かず、藻掻く足は床に届かない。頸動脈を圧迫されていたため、ほどなくぐったりとなった。

 横たわる男の股間には失禁の滲みが拡がっている。少女は一応物取りにみせかけるために財布の中身を抜いて捨てる。

 少女は白いパンツの紐を結んでから部屋を後にした。



「トリックオアトリート!!お菓子をくれなきゃ悪戯いたずらしちゃうぞ?」

 少女は仮面と付けて笑いながら、踊るようにくるくるとターンする。

 ハロウィンで街中が賑わっている。少女は雑踏に紛れるように、歌舞伎町の闇へ消えていった。


 ***



 恋は幻想、愛は狂気。

 そして紐パンは凶器。


 人は殺し屋の少女のことを、G線上のアリアと呼んでいる。

 ちなみに、Gストリングとは紐パンのことをいうのである。


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G線上のアリア――死のストリング 壺中天 @kotyuuten

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