六月 : 眠れない水無月

 「月下美人っていう花知ってる?」


 そろそろ寝ようかと、二人でベッドに入った途端、君は訊いてきた。


 「知ってるのは名前だけだよ」

 「私調べたの……」


 身体を寄せ、僕の肩に手を乗せて、君は囁くように耳元で話を続けた。


 環境さえ良ければ、年に一度しか咲かないわけではないこと。

 一晩しか咲かないのは本当だということ。

 受粉にコウモリを利用するから、夜に咲いて香りも強いこと。

 花の香りは、ジャスミンのような香りらしいこと。

 

 月下美人の説明をする君の声が、どんどん小さくなって安らかな寝息に変わった。


 ――そういや、もうじき誕生日だ。


 梅雨真っ盛りの六月が、水無月なんておかしいわよねと、誕生日を告げて君はいつか笑っていたね。

 旧暦なんて気にしたことが無かった僕は苦笑していただけだったな。


 君の言葉を思い出しながら、枕元に置いてあるタブレットを手に取り月下美人を調べる。


 鉢植えでも、育てるのはそう難しくないようだ。

 ……月下美人の花の艶やかさは君のようだな。

 白く線形の花弁が大きく開き、深夜でもはっきり判るだろう。

 七月以降に咲く品種を選べば、来月には一緒に開花を待ち望めそうだ。


 あ、開花には三年くらいかかるってあるな……まあいいや。

 だったらその日を待てば良いだけのこと。


 僕等はもうじき結婚するんだ。

 三年後もその先も一緒に過ごしているさ。


 ただ、香りが強いのかぁ……開花の日は君の髪や肌の優しく柔らかい香りを感じられないかもしれないんだな。

 でも、その日くらいはいいか……君の温もりは月下美人に邪魔されないだろうからね。


 君の静かな寝息と吐息を首筋に感じる。

 

 そう言えば、花を贈るなんて初めてだな。

 なんかちょっとキザっぽくて僕には似合わないように思うけど、きっと君は喜んでくれるだろう。


 君の髪を撫で、僕も眠るとしよう。

 

 君がおかしいという水無月の誕生日。

 月下美人のような華やかな君の顔が、笑顔で崩れる様子を想像すると嬉しくて眠れそうもない。



 ……これは困ったな。

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