四月 : 期待する卯月
白やピンク、薄紫、色とりどりのスイートピーがたくさん咲く花壇の前で、彼女は大勢の新入生が歩く中サークル勧誘している。
――彼女と出会ったのは一年前の今頃だった。
新人の勧誘活動していた僕は、校内にあるベンチに座り、いろんなサークルから渡されたビラを一枚一枚真剣に一人で読んでいた彼女に声をかけたんだ。
あの時の彼女の表情は可愛らしかったな。
僕の声にキョトンとした反応で、これからまだまだ増えるだろうビラを、僕の手から受け取ったんだ。
そしてビラにちょっとだけ目を落とし、顔を再び上げて彼女は訊いてきたんだよね。
「先輩のサークルは、バイトなどで参加できないこと多くても構いませんか? 」
サークルには興味あるけれど、たくさんバイトする必要があって、活動機会が少なくなりそうなことを心配していた。僕はもちろん即答したさ。
「なかなか参加できない人はたくさん居るから心配しなくていいよ」
「本当ですか? 」
僕のサークル以外だって、そんな理由でダメだなんて言わないだろう。
でも……
「うちは全然大丈夫だから、入りたいって思ってくれたなら大歓迎さ」
彼女はそうして僕のところに参加することになった。
新歓……ゴールデンウィークのピクニック……そして僕がバイトしていたレストランで彼女も働くようになり、月に何度かあるサークル活動も楽しんでくれた。
活動といったって、皆でカラオケ行ったり、ボーリングしたり、たまに観劇に行く程度。
そして、夏に企画した旅行で、僕は彼女に告白し付き合うことになったんだ。
少しだけ茶がかった髪、笑うと目尻にたくさん皺が寄るクリクリとした黒い瞳、そして細く小さな手。小鳥のような声で僕のことをまだ名字で呼ぶ彼女。
身長百五十センチない彼女はとても愛らしくていつも守りたくなる。必要なときには必ず守れるよう、僕のそばから離れて欲しくない。
白いブラウスに、薄いピンクの長めのスカート。
僕のジージャンを羽織ってるのだけど、ジージャンがハーフコートのようになっている。袖をめくって、動きずらそうには見えない。でもダフダフなのは間違いない。
それもまた可愛いからいいんだけどね。
彼女も気にしていないようだし。
そんな彼女が新入生を見かけては、明るめの茶色のブーツでトコトコと近寄り笑顔で勧誘ビラを渡してる。自分より大きい新入生にビラを渡し、元気よく身振り手振りで説明している。
――うわぁ、可愛いなあ……ギュッと抱きしめたくなる。
僕の可愛い彼女から勧誘されてるんだ。
そこの新入生、光栄に思えよな。
そして、君達も彼女のような可愛い女性と出会い、この卯月の穏やかな日が素敵な一日として良い思い出になるといいな。
来年の卯月も、再来年の卯月も、彼女とこうしてスイートピー咲く花壇の前で、今のような優しい気持ちで勧誘していられたら、僕はどんなに幸せなことだろうか……。
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