三月 : 置き去りの弥生
学校の校庭に一本だけある
花弁が肉厚の大きめの白い花で、花が満開なときは木が雪をかぶっているように見えるらしい。
その花びらが、春先のまだ堅い地面にたくさん散らばっている。
咲いていたときの華やかさが名残として白さに残っているけれど、香りとまとまりを失ったそれはきっと誰にも気付かれぬうちに土に帰っていくのだろう。
――まるで、伝えられなかった気持ちみたいだな……
そういや、この学校に通っていた三年間ずっとあったはずだけど、僕は咲いている様子を覚えていない。地面に落ちた花びらですら初めて見た気がする。見てはいたのかもしれないけれど意識していたことがないんだろうな。だから覚えていないんだ。
――気付かれない想いってきっとこんな感じなんだ……
暖かく感じる日も出てきた。
四月になれば、僕は遠く離れた土地の大学へ通う。
慌ただしい毎日が始まり、過去は忘れられ、現在に四苦八苦する。
他人とも自分とも向き合える余裕はしばらく無い気がするな。
この校庭を去ったら、
これから新たに生まれる気持ちが
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