ドライブ
朝凪 凜
第1話
「さあ、先に行くよ!」
赤い4Cを纏ったフィオーレはそう言って一気に突っ走る。
4Cとは、アルファロメオのクルマだ。
240馬力、35kgmの直噴ターボのエンジンを載せ、重さ1トンを切る軽量ボディで駆る。
「待ってよ、こっちだって!」
追いすがるのは白いS2000。トルクこそNAで22kgmしかないもののVTECにより、8000回転を超える高回転エンジン、2000ccしかない排気量で250馬力という高出力エンジン。
それを操るのはリーナだ。
S2000は直線では4Cに劣るものの、コーナリングでは引けを取らない。それぞれMRとFRだ。
「直線でちょっと速いからって、油断しないことね」
車内から海を望むことができ、走る先は山。
二人はドライブに勤しんでいる。
4Cの丸いテールが点いたと思ったら前に重心がかかり、車体を横に向ける。
スキール音を鳴らしながらコーナーを次々と抜けていく。
それに合わせてS2000も4灯テールを点けてトレースしていく。
連続コーナーが続き、徐々にS2000が差を詰めていく。
「軽いクルマで振り回されてるんじゃない?」
「あなたと違ってバラストがないからトルクが伝わらないのよ」
会話は携帯電話を通話状態にしてハンズフリーにしているのである。
だから途中で「あっ!」とか「わっ!」とかいう感嘆詞が相手に筒抜けになるのである。
「そろそろその真っ赤なお尻が火を吹くんじゃない? トルク抜けしてぶつけられちゃあ
「それは私に勝ってから言いなさい」
高速コーナーでアクセルを離し、出口で一気にアクセルを開けて加速をする。ターボチャージャーならではの脱出方法だ。
対して、後続はアクセルを軽く緩め、脱出ポイントよりかなり手前からアクセルを開け始める。出口ではすでに加速が始まりパワーバンドから外さずにコントロールをする。高回転型NAエンジンの走り方は神経を使うことが多い。さらにFRなので一度滑ったら立て直すのが難しく、高速コーナーでバランスを崩したらそのまま壁とキスをしてしまう。
結局そのまま4Cが逃げ切りとなった。
「フィオーレの走り方はすごく危なっかしいよね。いつぶつかるか毎度ヒヤヒヤするよ」
海岸が見えるところまで戻ってきて、駐車スペースに二台並べて停めてある。4Cの方はエンジンを切っているのに小さくモーター音が鳴っている。エンジン冷却のための特別な機構が備わっているのだ。その赤と白。なんとなく目出度い色だ。もしくは薔薇と百合。薔薇はトゲがあり危険な雰囲気も醸し出している。百合はたおやかな雰囲気がそのまま走りにも出ている。
「ターボをしっかり使わないとあんたには勝てないのよ。適度にアクセル閉じて過給圧上げないと。たまにそれでスリップしちゃうから怖いんだけどね」
「そんな無茶して、危ないんだから」
「そういうあんただって走り方の違うクルマにぴったりくっついてきていつオカマ掘られるかヒヤヒヤしたわよ。あんたの方が絶対ヤバいって」
「そりゃあ、立ち上がりが少しでも遅れればフィオーレについていけなくなるんだから、多少は仕方ないじゃない」
「仕方ないで済ませちゃうところが馬鹿なところよね。まあ、馬鹿は死んでも治らないって言うし、怖い怖い」
「それは貴女も同類よ」
そうお互いに笑い合いながらあーだこーだと話をし続ける。
「そろそろ帰って明日に備えましょうか」
「何、まだなんか変えたりするの? 好きねぇ」
「NAがターボに勝つためには基礎能力を上げなきゃ無理なのよ。2リッターNAでエンジン変更なし。チューンもなし。インテークとエキゾーストくらいしかパワーアップできないからね」
「あたしなんかテンナナターボなのに随分ひどくない。そんなに変わんないわよ、うちの子とあなたの子」
「そういうフィオーレだって何気に色々いじってあるじゃない」
「あら、分かった?」
「音で分かるわ! どんだけ一緒にやってると思ってるのよ!」
「なんだ残念。まあでもそろそろ帰らなきゃね」
「分かった。じゃあいつものあれで、ね」
「えぇ」
そう言って二台のクルマが駐車場から出て、4Cは左に、S2000は右に曲がって行く。
そして低速で走りながらブレーキランプを5回点滅させる。
そう、『アイシテルのサイン』だ。この行動で別れるのがいつもの挨拶になっている。
そしていつまでもこの場所でこの二人でお互い走り続ける。
ドライブ 朝凪 凜 @rin7n
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