ショタコンは世界を救う。

 「ファンタニシア王国へようこそ!もうこれで信じてもらえたかな?あっ、甘ったるいのはなんかファンタジー感を出すための演出だから嫌いでも我慢してね!」

ひとまず、甘ったるいのはどうでもいい。まさか、ファンタニシア王国というのが本当にあるとは…。新手の詐欺じゃなかったんだ。

 「ははっ…。驚きだよ。うち海外にも行ったことないのに、それよりも先に異世界に連れてかれちゃうなんてな…。」

動揺を隠せず、呆笑しながらクウに目線でSOS助けを求める。

 でもクウはそんな私なんか横目に、お菓子の家から出てくる動くぬいぐるみのようなもの達に「元気?」「魔法少女(仮)連れてきたよ~!」などと話しかけている。

 すると、

「ねぇ、君って魔法少女なの?」

と、小さな可愛らしい猫のぬいぐるみのようなものが話しかけてきた。

「えっ、あっ、いや、私は魔法少女じゃなくて…。」

「えっ!?魔法少女じゃないの?ニャナは魔法少女さんだと思って話しかけたのに…違うならいいよ…。」

私が魔法少女じゃないと分かった瞬間、あからさまにしょんぼりする姿が胸をきつく締める。


 「ニャナちゃん、泣かないで!大好きな魔法少女はすぐ近くにいるからね~。」

そうクウが猫の子の頭を優しく撫でて、こちらに近づき、

「貴方は可愛い女の子一人の笑顔も守れないんですかぁ?最悪ですねぇ。」

っと耳元でボソッと呟いた。

 「ったく、あーもう!ニャナちゃんだっけ?こっちおいで。大丈夫、うち……いや私はちゃんと魔法少女だよ!」

クウの言葉と少しの罪悪感で、ニャナちゃんに嘘をつき、魔法少女だと伝えた。

「本当に!?君は魔法少女なの?やったぁ!魔法少女だぁ!!」

ニャナちゃんはとても喜んでくれたが、その言葉を言った直後、ニャナちゃんからモクモクと某ね〇ねるねるねみたいな煙が立ち昇り、煙がなくなった時には、ニャナちゃんはそこに居らず、代わりに綺麗なドレスの美人な女性が立っていた。


 「どうも、この姿では初めまして。」

優しく微笑みながら話しかけてきた美人に、

「あっ、えっ、どうも。どちらさまでせうか?」

とよく分からない挙動不審な日本語で返事をし、一方後ろへ下がる。


 「「キャー!!プリンセスよ!ニナストリア王女がいるわ!」」

私に微笑んだ人が現れて数秒ほどで、この美人の周りはなにかファンのようなひとが集まってきた。

 「ちょっとみんなごめんね。私はそこの女の子に話があるからお時間を頂戴。」

とても丁寧な言葉遣いで、ファンたちを静ませる。本当はこんな人が沢山いるところで、近付いてほしくないのだが、そんな気持ちも知らずこの美人は私の方へ歩み寄って来る。

 「ねぇ、井原さん。いいえ、優花ちゃん。」

 「はっ、はい!」

馬鹿みたいな美人が目の前に来て更に名前にちゃん付けで呼ばれるなんて、ギャルゲーの主人公か私は。

 「私、ファンタニシア王国王女で、全世界魔法少女組合のトップをしています。ニナストリア・クレーベルです。さっきのニャナちゃんは変身した姿なの。」

 「そうだったんですね…。」

淡々と説明をする王女様の話をちゃんと聞きたいのだが、王女様の声に驚きを覚えて話の内容がきれいに入ってこない。

 「あ、あの…つかぬことをお聞きしますが、その少し低めの声、女性にしては高い身長、まな板のようなお胸…。王女様は男の娘ですか…?」

私の失礼極まりない質問に王女様は、

「あら。」

そう一言言って、優しく微笑んだのだが、その笑みからどうしても殺気が感じられてどうしようにも、どうにもならない。

 「そんなことどうでもいいのよ。それよりさっき、ニャナちゃんに自分は魔法少女だと言ったわね?」

 「はい…。」

 「だから今からあなたは魔法少女よ!」


……。


 「はい?」

強制的なことに戸惑いをあらわにする私をよそに、この王女様は私の右手になにやらステッキのようなものを握らせてきた。

 「これは魔法のステッキよ!このステッキで変身と攻撃ができるわ!」

そのステッキはまるで女児向けの玩具おもちゃのようで、赤・ピンク・黄色・緑・青のハート型のボタンがそれぞれ一つずつ付いており、更に大きな黒の丸いボタンが一つ付いている。

 「このハートのボタンは押せば、それぞれ炎・回復・雷・風・氷の魔法が使えるの。そしてこの丸いボタンは、変身のボタンよ。そのボタンを押して、「マジカルプリティメタモルフォーゼ!萌え萌えキュン♡っとI LOVE YOU♡」と叫んだら、変身出来るわ。」

詳しい説明ご苦労様です。

 ステッキについてはまだいいんだ。問題は変身の呪文。ちょっと叫ぶには勇気がいるような気が。

 「あのー…変身の呪文ってどうにかならないんですかね…。」

そう言うと、

 「どうにもなるわけないじゃない!仕方ないでしょ!作者さんが深夜テンションで作った呪文なんだから!」

と、一蹴されてしまった。


 「てか根本的に、魔法少女になるとは言ってませんけど。」

そうだ、私は魔法少女になるなんか一言も言っていない。危うく、流されてそのまま魔法少女になってしまうところだった。

 「えっ、でもニャナちゃんには私は魔法少女だよって言ってくれたのに…。」

そう言って、王女はニャナちゃんの姿に変身した。

 「うっ…。その姿は反則ですよ。でもニャナちゃんにお願いされてもやりませんからね。」

私がそう言うと、王女様は、

「なんなら元の姿に戻ってやる!!」

と叫んで、また煙を立ち昇らせた。

 その煙の中から出てきたのは、猫耳のショタ男の娘だった。

「マジカルプリティメタモルフォーゼ!萌え萌えキュン♡っとI LOVE YOU♡ 僕、お姉ちゃんに魔法少女になってほしいよぉ…。」

王女様、いいえ猫耳ショタ男の娘さん。それは反則です。


 「猫耳、男の娘、上目遣い、涙目、そしてショタ!」

 「いいでしょう、可愛いショタに免じて魔法少女になりますよ!だけど王女様、あなたはずっとそのままの姿でいてください。それが条件です。飲み込んでくれるなら魔法少女になりましょう。」


 「うん!魔法少女になってくれるんだったら、僕ずっとこのままでいる!」







 「なります。魔法少女。」


この時、私の顔は何かを決意し、吹っ切れた表情かおをしていたらしい。(後日談)

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「井原さんは魔法少女」 黛 栫ヰ @22soy

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