第2話

一人で、フラフラと歩いていた。

気付けば、いつも一人。切ないよな、ホント。

一人で歩いていると、必ず此処にたどり着く。此処は、三階にある音楽室。

こっそり入り、俺は、いつものようにピアノに触れる。


ポン♪

柔らかい音が、教室内に響き渡る。

この音を聴くと、いつも落ち着く。一人でも、別に、大丈夫だよな。そんな気になれる。

「相変わらず、お前ってさ、音楽室好き、だよな」

背後から、聞き慣れた声が響いた。

俺の背筋が、無意識に伸びた。

「…何の用だよ、利也」

無愛想に聞くと、乾いた笑い声が聞こえた。

「ったく、親友に声、掛けたらダメなのか?」

「…別に」

「何かお前、今日は機嫌が悪いな?」

「…ンなことないって!」

思い切り腕を振ると、近くにあったオルゴールが床に叩き付けられる。

その瞬間、真っ白な光が、俺らを包む。

「な、何だよ、この光…!?」

俺の意識は、そこからもう、無い。


『登録番号1895、卯月玲生。彼を今から、 【白ウサギ】に任命する』

『登録番号1896、有栖川利也。彼を今から、 【アリス】に任命する』

『登録番号0564を、 【シャム猫】に転生される』

ピー……


機械音が、頭の中に響いている。

頭に激痛が走る。

「っぐぁぁ!って、アレ…?」

見渡しても、何処も真っ白な部屋。

俺は、ゆっくりと立ち上がり、壁を探し歩く。

しかし、何処まで進んでも、壁は無い。

「…何なんだ、此処」

歩き疲れて、俺は、ゆっくりと座った。

「おい、1895号。今から、転送機に行くぞ」

「アンタ、誰だよ。ってか、転送機って?1895号って?」

「いいから来い!」

強引に腕を引かれ、俺は、何処かへ連れていかれる。


「この中に入っていろ!」

腕を思い切り振りほどかれて、俺は、床に思い切り尻餅をつく。

そこは、檻の中だった。そして、そこには見慣れた背中が一つ。

「…玲生?」

聞き慣れた声に、思わず反応してしまった。

「…何で、お前が此処に?」

「それ、俺も言いたいよ」

利也は、小さく丸まっていた。

「…此処、何処なんだよ」

利也は、震えながら、言葉を発していた。

「分かんねぇよ、俺にだって」

俺は、利也から少し離れた位置に座り込む。

気まずい無音が、俺らの間に流れる。

「登録番号1895、早く来い」

堅苦しい制服を着た男が、俺らの前に現れた。

「…どっちの事ですか?」

利也が、男を見つめて尋ねた。

「卯月玲生の方だ」

コチラを指されて、俺は、ゆっくりと立った。

「卯月玲生。今からお前は、 【白ウサギ】として、物語に迷い込んでもらう」

「白、ウサギ?」

「あぁ、そうだ。さぁ、転送機に入れ」

俺は、無理やり箱の中に押し込まされた。

「さぁ、始めるぞ」

男がボタンを思い切り押す。

体が、急に重くなる。

そして、瞼も重くなっていった。

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不思議な国と、友達のアリス 橋結 @hashi-yu

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