不思議な国と、友達のアリス

橋結

第1話

「卯月〜、パスだぁー!!」

サッカーボールが、青空を切るようにして、俺の方に真っ先に飛んでくる。

「オケオケー」

俺は、ボールを胸で受けようとした……その瞬間。

「残念だったな、玲生!」

俺とボールの間に、大きな影が現れた。

「やっぱりすげぇな、有栖川の大ジャンプ」

よくよく見ると、それは、俺の親友、有栖川利也だった。

「利也、邪魔しないでくれる?」

思い切り睨んでやると、利也の目が、銀縁メガネの奥でキラリと光った。

「いくら親友の玲生だとしても、このボールは守り抜く!」

利也は、何人ものプレイヤーを抜き、そのままゴールにボールを収めた。

「うぉぉぉー!!!有栖川、やべぇ!!」

利也は、すぐに大勢のクラスメイトに囲まれた。

「有栖川ってさ、真面目そうに見えるのに、運動神経が良いし、面白いし、最高だよな!」

利也は、楽しそうにクラスメイトと話している。

俺は一人、その場に立ち竦んでいた。


有栖川利也は、俺と違って、完璧な人間。

成績優秀、容姿端麗。完璧主義者で、それに見合った能力を兼ね備える。そして、うちの高校の生徒会長。

皆から頼られる存在。

俺は、何も出来ない、ただの人間。

そんな俺が、利也のそばにいれば、俺はただの引き立て役だ。

俺は、虚しくなって、その場から離れた。


俺、有栖川利也は、遠ざかって行く親友の背中を、ただ見つめていた。

何故、玲生は離れていくのだろうか。アイツ、サッカー超好きだろうが。

「有栖川ー?どしたん?」

クラスメイトが、不思議そうに俺を見ていた。

「んー?いや、何でもねぇよ」

明るく笑いかけると、クラスメイトも明るく笑い出す。

もう一度、玲生のいた方角を見てみる。

そこにはもう、玲生は居なかった。

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