恋と音楽の、関わる者をみな狂わせる凶暴な魔力が、強烈な圧力の文章で描かれます。執拗に語られる、人間の負の部分。人間はみんな身勝手だ。人間はみんな傷ついてる。それでも、生きていてよかったと思える瞬間がある。しかし、それもまた「呪い」でしかないのかもしれず……読んでいて、何度も息を呑みました。
格闘技と音楽と平等なセクシャル指向の世界観の中で、リバーブの音が聞こえた気がしました。文章内容ともに重厚。休み休み、読みました。作者の音楽と格闘への造詣の深さと細かいリアルさが、物語に複雑な味わいと和音や不協和音などの「幻肢痛」のような感覚をもたらします。昔に書かれた物語とのことですが、作者は、未来に生きぬ主人公に何らかのかける言葉を持っているのではないかと密かに思っています。