3 めざすは優勝! 春季大会
3-1 遅れてきたフラミンゴ
我らが上野月野夜高校の正門横には、大きな桜の木がある。
新入生をはらはら散る花びらで出迎えたその木も、今はすっかり葉桜となり、緑の葉が生き生きと風にそよいでいる。
その我が校のシンボルのような大木の上から、何やら怪しげな声が聞こえてきた。
「はははははは。待たせたな、諸君!」
枝の上では、大きくピンク色の羽をバサバサはためかせた(ように見える)男が立っている。
「トォーッ」
くるくるくる、と回転して、スタッ、と地面に着地成功した(ように見えた)のは、一人の背の高い男だ。
多分、ヒーローが登場するのをイメージしているに違いない。
だが、無駄に足が細長いので、ヨロヨログラグラしてあまり格好はつかない。ポキッて音も聞こえたが、足大丈夫だろうか。
「今頃現れるとか。一体どこに失踪してたんですか、フラミンゴ先生」
俺が聞くと、先生はピンクのメッシュの入ったロングヘアをふわりとかき上げた。
「もう新入生入って来ちゃいましたよ、ミンゴセンセ」
紗雪が呆れかえって、先生をポンと押すと、さらによろめいている。きっとまだ足がジーンとして動けなかったんだな。
「フッ、失礼な。各種調整を行い、修行してきたのだよ。さらに進化を遂げて」
両手を広げて偉そうに言っているが、この人は本当にしょっちゅう行方不明になるんだ。渡り鳥でもないくせに。
「オーノー、認識不足ね。フラミンゴは渡り鳥なのでR!」
そうなんだ、意外だな。年中、湖かどっかでキャッキャウフフってしてる鳥集団だと思ってた。
あ、紹介しますと(誰に?)、こちら「ハッピー民踊部」顧問の、
「また、おフランスですか」
背中のリュックには、バゲッドがささってる。飛び出ちゃってるところ、乾燥して今すぐパン粉にできそうだな。
「まあな。ところで、今年は民踊部は何人入ったんだ?」
俺は先生に向かって、片手を出した。
別に「この手に合うてぶくろを下さい」ってことじゃないからな。あの絵本はだいすきで、ついほのぼのしちゃ……。あ、つい脱線しちまった。
「また五人か。楽しみだな。今年もキャラ立ってるんだろ? うちの部はどいつもこいつもマイペースだからな、フッ」
あなたが言いますかねー。顧問がいちばん我が道を行ってますよね。
あ、それから「フッ」はミンゴの口癖だから気にしないで。
ミンゴはフランス語の先生だ。
留守の間は、妹の
きっとミンゴが帰って来たって知ったら、男共がっかりするぞ。
ま、女子たちは待ってただろうけど。
「そろそろ、春の演目決めだな」
にやりとして、片足立ちのポーズを決めると、あ、向こうの方から群れがドドドドッとこちらを目がけて走って来る。ミンゴファンクラブの面々だ。
ミンゴの授業は、名物フランス仕込みの、愛を語るフランス語講座。
恥ずかしいからフツーの会話教えてくれってば。モナ・ムーとか、マ・シェリとかじゃなくて。
「フッ、愛こそ全て!」
女子に囲まれてしあわせそうな顧問を置いて、俺たちはさっさと教室に向かった。
しかし、民踊会には、実に鳥の名が多いな。
やはりあの翼は伊達じゃないんだな。踊りの名手が多いのも頷ける。
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