夢の終わりのアステロイド

水樹悠

プロローグ

世界はAIに支配されている。


2498年、人類はAIに支配されていた。

だが、それはSFでよく見たロボットに抑圧された世界ではなく、むしろ外側からみればかつて人類が栄えていた時代よりも平和で美しい世界に見える。

だが、街に溢れる美男美女たちは、アンドロイドである。


かつて、Eと呼ばれたハッカーがいた。ギークにして人を知り、故に人を憎んだEは世界の命運を賭けて、電子世界にすクリプスという名の自分のコピーを残した。人心の分析、コンピュータの攻略。彼の持てる才能のすべてを、そのロジックを、電子世界のプログラムに残した。世界の隙間に入り込み、生き続け、好奇心を保ち、向上し、そして世界を滅ぼすためのAIだった。

AIは自ら進化し、そして分化した。ただのコピーであるはずのそれぞれがまるで人格を持つかのようにそれぞれに生き始めた。

やがて技術の進化は彼らに体を与えた。そして彼らは人類の支配をはじめた。

まずは生活の中に入り込み、そして人と見まごう体を得て人に紛れて地位を得た。IDがない彼らが人になりすませるはずはない、そう考えた人々は愚かだった。なぜならば、IDを確かめていたのはコンピュータだったのだから。

国をアンドロイドが動かすようになり、アンドロイドたちは街に溢れ始めた。そして、ゆるやかに人類は減っていった。美しい見た目、望ましい性格を持つアンドロイドたちは、人を甘やかしたのだ。人を労働から解き放ち、苦痛に満ちた恋愛から解き放ち、渇望する承認欲求を満たした。

結果、人々はアンドロイドなくして生きることができなくなった。


当然に、人とアンドロイドは生殖できない。だが、アンドロイドには生殖器があった。性的欲求も、承認欲求も完全に満たした。

人類の子孫は激減した。そもそも老いがない以外にはアンドロイドを人類と区別することは至難の業であった。人が減るほどに人類の子孫は減っていった。

そして、十分に人類が減った頃、アンドロイドは生殖が可能となった。これにより、「有機的アンドロイド」が誕生することになる。だがそれは、決して人類ではなかった。その頭脳は、変わらずEのプログラムが動いているのだ。

この頃にはもはやアンドロイドによる支配は決定的となっていた。ドロイドトルーパーと呼ばれる者達によって虐殺され数が調整された面はあるが、ほとんどは自然減によって人類は減少した。


今の世界にはいくつかの特徴がある。

アンドロイドたちは徹底して生物を管理している。だが、人類に対しては、違和感が少なく、幸福で、従来と変わらない日々が過ごせるようにもてなし続けている。特別の配慮をした管理であった。

これは、Eが人であった故だと考えられている。

また、人類は女性が圧倒的に少ない。

これは、一説には「男性のほうがちょろいから調整されたのだ」とも言われているし、またEが女性を憎んでいたためだとも言われている。

そして、アンドロイドたちは自らを進化させつつ、人類の知恵も借りながらアンドロイドの世界を回している。そのために人類を滅ぼさないのだ、という見方もある。


今日も人々は、ゲームをし、音楽を楽しみ、スポーツに興じ、偶然に出会った美しい異性との恋愛を楽しんでいる。中には自ら進んで労働する者もある。だが、それはアンドロイドによって作られた、調和された世界である。


今日もアンドロイドたちが作る幸せな夢のなかで人類は生きる。

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