YUI

寿山 かすみ

第1話

夢の話をしようと思う。


何度みたか知れない。

夢の中でわたしは、いつかの森の中をさまよっている。どこを見ても同じ風景だ。山の中というのは薄暗くなると何故こうも不気味なのか。どっちからわたしは歩いて来たんだっけ。左右の道を見比べるが、次第にどちらが右だったのか左だったのか、それすらもわからなくなる。ただ、そびえ立つ木々がわたしを冷たく見下ろしている。

汗が首元につたうのを感じながら、パニックを起こしそうになるのを必死でこらえる。


『だいじょうぶ』


声に出してみる。のどがからからで、自分の声じゃないみたい。

だけど、それが返って誰かが言ってくれたみたいな気がして、落ち着いていく。まずは前を向く。前と思える方を。そちらへ向かって歩き出す。


『だいじょうぶ』


今度は誰かが言う。そうか、一人じゃなかったんだ。この頃のわたしにはいつもそばにいてくれる友達がいたんだった。


ほら、下りだ。

このまままっすぐ行ってみよう。

うん。


雨が降り出しそうな夕暮れ時を、サクサクという足音と草葉の擦れる音だけが響いて聞こえてくる。

どれくらい歩いたろうか。時間の感覚はまばらで、長さがつかめない。すぐだったような気もするしとても歩いたような気もする。とにかくしばらく下って歩いた先に、小屋を見つける。


ほっとして泣き出しそうになったところで、

今日は目が覚めた。

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