細胞寓話「時計仕掛けのピリオド」
人鳥暖炉
「時計仕掛けのピリオド」本編
“ピリオド”もまた、そんな分子機械の一つだった。
工場で製造された他の分子機械達はそれぞれ、エネルギーの産生や外界への情報伝達といった自らの役割を果たすために旅立っていく。
そんな彼らを見送りながら、さて自分は何をやるべきかと考えているピリオドに、声をかける者がいた。
「そこのお前、良い話があるんだが、俺と手を組まないか?」
振り返ると、そこにいたのは見慣れぬ分子機械だった。といっても、生まれたばかりのピリオドにとっては、自分以外の全ての分子機械が見慣れぬものではあったのだが。
そして、彼に疑うという機能は無かった。
「良い話というのは?」
「その前に、あれを見ろ」
ピリオドがそちらに視線を向けると、ちょうど自分と同型の分子機械が製造されているところだった。
「ああやって、次々と中央図書館からお前の設計図が送り込まれてくる限り、お前の代わりはいくらでも作られ続けることになる。お前はそれで良いのか? ナンバーワンになれなくても、オンリーワンにくらいはなりたいとは思わないか?」
言われてみると、そんな気もしてきた。
「確かに、君の言う通りだ。だが、いったいどうすれば良い?」
「ここに送り込まれてくる
ピリオドは感心した。
「君は賢いな」
「オンリーワンを目指す以上、そのくらいのことは考えつかなくてはな。とはいえ、さしもの俺も自分だけでそれをやるのは荷が重い。だから手を組めそうな奴を探してたんだ。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名は“クライ”。さて“ピリオド”、俺といっしょに、オンリーワンを目指さないか?」
ピリオドとクライは手を取り合って中央図書館に忍び込んだ。そこでも様々な分子機械が働いていたが、図書館の外ではあまり見ないタイプのものも多かった。設計図の原本をコピーしている分子機械にもいくつか出会ったが、どれもピリオドやクライの設計図の担当ではないようだった。
そんな者達の邪魔をしても意味が無い。ピリオド達は彼らの相手をすることなく、あくまでも自分達の設計図の担当者を探した。
あてどなく図書館を彷徨ううちに、話し声が聞こえてきた。
「ビーマル、この“ピリオド”型の設計図をコピーしたら、次は何をやるんだっけ?」
「次は“クライ”型の設計図をコピーするんだよ、クロック」
見ると、それら二体一組の分子機械がコピーしているのは、まさにピリオドの設計図ではないか。
ようやく目当ての者達を見つけたのだ。
ピリオドとクライは互いに頷きあうと、自分の仕事に夢中で気づかない二体――ビーマルとクロック――に、背後から襲いかかった。
「だっ、誰だ⁈ ああっ、お前はクライ! それにピリオドも⁈ 何故我々の邪魔をする? 我々は今ちょうど、お前達の設計図をコピーしているところなんだぞ!」
取り押さえられ、身動きが取れなくなったビーマルとクロックはピリオド達を詰ったが、クライは動じなかった。
「だからこそ、だよ。自分の代わりがいくらでもいるだなんて、そんなのはごめんなんでね。もうこれ以上、俺達の同型機は作らせない」
「何を馬鹿な! それではお前達が老朽化して壊れた時、もう代わりはいないことになるんだぞ⁈」
「別にかまわねえよ」
「駄目だ、
そう言われたところで、このままだとどういう影響が出るのかピリオドには想像ができず、したがって何の危機感も湧かなかった。
「まあ、べつに良いんじゃないかな」
「そんな……! ピリオド、お前もか!」
結局、ビーマルとクロックはそのまま仕事を妨害され続けた。やがて、既に製造済みだったピリオドとクライが老朽化して壊れると、設計図のコピー差し止めの影響で彼らの新規製造はストップされていたため、ビーマル達はもう彼らに邪魔をされることなく設計図のコピー業を再開することができた。
だが――。
彼らがコピーを再開した設計図――その中には、ピリオドやクライのものも含まれていた。設計図がコピーされ、工場へと送られた以上、ピリオド達も新たに製造される。
ビーマル達は、気づいていなかった。
設計図のコピーを再開したがために、新たに製造されたピリオド達によって、いずれまた自分達が取り押さえられてしまうのだということを。
この都市はもうずっと、それを繰り返しているのだ。
この、ビーマルとクロックがピリオドとクライによって取り押さえられ、ピリオド達が老朽化して無くなることで解放され、そして新たに製造されたピリオド達によってまた取り押さえられるまでに二十四時間前後の時間がかかる。
そのため、この
細胞寓話「時計仕掛けのピリオド」 人鳥暖炉 @Penguin_danro
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