実験結果
これで実習は終わりです。ははは、野菜も食わせなきゃいけませんからねぇ。今回も実りある物でした。
佐々木君、いいですよねぇ。彼が出てきた時はね、こう、落ち窪んだ目が爛々と光っていて、体全体から怒気って言うんですか、湧き出していまして。すごかったですよ。「お前ら殺してやる!」って。「皆殺せたんだ、人だっていける!」ってわめいて暴れまして。__ああ、大丈夫ですよ。言うだけです、足元はかなりふらついていましたからね、すぐ取り押さえられました。いや、でも若いうちはあれくらい反抗心がないと。元気があって学生らしくていいじゃないですか。
その点、篠崎君はねぇ。扉を開けても三角座りの体勢でじっと動かないんですよ。覇気がなくてねぇ。仕方がないから大人二人がかりで引きずり出しましたよ。直接手を下したショックをずっと引きずってるんじゃないですか? そんなの今までだってやってきてたのに、ねぇ。誰かが代わりにしてくれていただけなのに何を今更。最近は彼みたいなタイプの方が多いんですよ。全く甘いですよねぇ。親父の世代なんか戦時中蛇でも雑草でも食べたって言うのに。まあ、ああいうタイプは従順で使いやすい大人になりますが、全く嘆かわしい。あっちの方がぞっとしましたな。いえ、何もありませんでしたよ。だって何もしようとしないんですから。
そこでビデオは終わり、国の特殊機関「食育推進委員会」代表と握手した教師達は視察を終え、満足そうに帰って行った。
翌日からはまた別の高校の生徒がこの白い監獄にぶち込められる。
窓のない真っ白な正方形の空間、天井四隅に監視カメラが備え付けられ、銀色に冷たく美しく光るキッチンには炊飯器と袋に入った1合の米が置いてある。
部屋に戸惑い気味に入った生徒へ、コンピューター音声の無機質なアナウンスが告げるのだ。
__食育の時間です。食べてください。
了
食育 浅野新 @a_rata
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