第9話

さて話が逸れましたが、次の課題は子牛でした。あははは、この時の生徒達の顔を着たら、世界が終わったみたいな顔をしているでしょう? 佐々木君と篠崎君は頭を抱えていました。もう一度、自分の手の中で生き物を死んでいく様を、殺した手で肉をさばいていく感触を味わわなければならないと。

 ああ、怒鳴りながら扉を蹴飛ばしているのは佐々木君ですよ。出せ!出してくれ!って聞こえるでしょう?

 ご安心を。対策はしっかり取ってあります。ああいう子は結構いるんです。怒鳴ったり半狂乱になったり。扉は耐熱金庫があるでしょう、分厚くで丈夫な。あれと同じ素材でしてね、厚さは三十センチはあります、蹴破れませんよ。


 結果、子牛も中々てこずりましたけどね、子豚ができた後ですから、時間がかかっても皆なんとかやりました。さばく時にはやはり盛大に吐いている子がほとんどでしたけどね。それでも最後の鶏の時には皆たくましくなりましたよ。大物になれたから対象物が急に小さくなって抵抗感が薄れるんです。慣れって奴ですね。佐々木君は入れた途端、鶏の首根っこをつかんで一気に包丁を振り下ろしました。真っ白い壁に血しぶきが盛大に飛んでねぇ。まあ鶏のしめ方なんて今時大人でも知らないから仕方がないです。篠崎君は暗い目をしてしばらく鶏を見ていましたが、それでもその日のうちに枕で鶏の頭を押し付けて包丁で頭と胴を分断させていました。彼にしたら上等です。

 それから調理する方には皆苦戦してましたけどね。羽をどうやってむしれるのか、とか。それでもこの頃には皆淡々として吐く子はいませんでした。

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