第27話 『人豚小戚、厠生活をやめアイドルを目指す。』

 小説を完結させたい。

 そしてあとがきを書きたい。

 

 本を読むときもまずあとがきから読むし、小説を書くようになってからは嬉しがってこんな風にあとがき専用のエッセイまで用意してしまうくらいにあとがきが好きだ。だからあとがきが書きたい。

 しかし、あとがきの性質上、あたり前だけどまず主となる小説をかき上げねばならない。

 そして今連載中のやたら長い小説は、しばらく完結の見込みは無い。さりとて短い話の案は無い。さてどうしよう。


 うーん、連載作が完結してから登場人物たちにスポットをあてたスピンオフ短編シリーズをやろうと思ってたけど、それを前倒しでやってみるかな……? ちょうど主要人物を主役にしたストーリーの案がバタバタ固まってしまったし。短編というには長めになっちゃうけど、やろうかな? やっちゃおっかな? 小説の複数流連載はやらない主義だったけど、同一世界で登場人物も共通してる物語だし、本編の前日譚にする予定だから話の着地点も見えてるからそんなに難しくない筈。やっちゃおうかー。


 ――このような軽はずみな動機で始めたこの小説、終盤で地獄のような生みの苦しみを味わう羽目になるとはその時の私は想像だにしていなかったのだった――。



 長い前置き、失礼しました。

 そんなわけで『ハーレムリポート フロム ゴシップガール』のスピンオフにあたる本作がようやく完結いたしました。

 本編に登場します、陰険で純情で凶暴でメンタルはヘロヘロな美少女・メジロリリイを主役にした物語でございます。


 初登場時には知性らしきものがまだあったのに登場回数を重ねるごとに呆れるほどバカになっていったポリガミー気質のパートナー・メジロタイガとのなれそめをメインに、本編に思わせぶりに名前だけ登場する怪しい組織・目白児童保護育成会、本編中では都市伝説にしか存在しないことになってるけれどそんなわけねえよなあ……と当事者たちは薄々感づいてる人造ワルキューレの都市伝説に関する補完の意味でも書く予定だったのですが、こんなに長くなるとは予想もしてなかったよ! カクヨムコン開催直前にコンテストに出したところで通るはずのないスピンオフで十万字こえるってバカじゃねえの! つうか一話二万字オーバーしでかしたあげく三万字近くなるとかもはや読め読めハラスメントだよ! 

 と、逆ギレめいた気持ちが湧いてしまう作品となりました。


 まあ、そんなムチャクチャな作品になったのはどうしても自分の好きなものを好きなように入れた話を作りたくなったからですね……。公衆便所で暮らしている元浮浪児の美少女がのし上がるというところを含めて、動画屋や本屋という未来社会の妙な裏稼業やサブタイトルに起用している往年のアイドル歌謡のタイトル含めて、「このバカバカしいネタをてんこもりにしたい!」という欲には抗えませんでしたとさ。


 その欲に負けた結果、自分で自分の首を盛大にしめる羽目になったわけですが、とりあえずまず「なんでサブタイトルがアイドル歌謡のタイトルやねん」という点から語りたいと思います。



【なぜこんなサブタイトルなのか?】


 本作のサブタイトルに起用した名曲の歌手は皆デュオ、二人組です。

 女子二人組の話、そして後にアイドルになる女の子が主役だから……という趣向です。この辺りまでは、ある程度昭和のカルチャーなどに興味や関心のある方にはピンと来られるでしょう。

 しかし、#9の「うたかた」とボーナストラック以外は、モーニング娘。卒業後の加護亜依さんと辻希美さんが十代のころに組んでいたユニット・Wダブルユー がリリースしたカバーアルバム「デュオU&U 」の収録曲だと気づいた方はいまい……。いたらびっくりします。

 

 実を言いますと、好きだったんですよ。辻ちゃんと加護ちゃんの二人が……。  

 モー娘。在籍時のMVで二人が対になった振り付けを担当してる所とかもう、「対になってる女子二人」というモチーフにやたら弱い勢の心臓を撃ちぬく完璧さといいますか。「ザ☆ピ~ス」でちょいちょい二人セットになる所とか、ああ~コレコレ! というツボを突かれるものがありました。

 そんな二人が卒業後にとWダブルユーして活動を開始してから往年のアイドルデュオの名曲をカバーしたアルバムを出されたわけですよ。個人的に昔から昭和の歌謡曲好きなところがありましたので、完全に俺得なアルバムだったわけですよ。オリジナル曲にはあまり魅力を感じなかったこともあったので、嬉しいものでした……。


 しかしまあ、ある程度お年を召した方ならご存じの通り、加護ちゃんはあんなことになり、辻ちゃんは辻ちゃんでそんなことになり、ユニットとして存続しづらい形になってしまってから二十年近く経っちゃいましたよ。年月の経つの早すぎて怖いよ!

 とはいえ年月が経つのは悪いことだけはないようで、今年の前半で加護ちゃんが元ハロプロメンバーと一緒にライブするというニュースが飛び込んできた時はこちらまで目の前が開けるような思いがしたものです。

 残念ながら辻ちゃんのご懐妊で二人そろってのパフォーマンスは実現しなかったようですが、私は待ってますよ……。いつかやってくれる筈だと信じてるよ……。大体、スキャンダルでトップアイドルの座から芸能界の辛酸舐めつくしてきた女の子と、ブログが炎上しまくるアンチの多い現ママタレの女の子の二人組って最強じゃないか。


 という、ノスタルジーやら思い入れやらが高まった時に動画サイトで「デュオU&U 」を聴いちゃったりした結果、書きたい物語にしっくりきてしまう要素があまりにも多くインスパイアされまくってしまった結果、「よし、サブタイトルはこのアルバムの収録曲から引用しよう!」ということになったのでした。


 まあ、要はテンションの作用ですね。


 それにしても、十代でこの歌唱力ですよ。このハモリっぷりですよ。聴けば聴くほど二人がアイドルデュオとして十二分には活躍できなかった歴史を恨みたくなる出来ですよ……本当にもう。



【本作主人公と戚夫人】

 本作のモチーフの一つ、戚夫人ですが詳しいことはウィキペディアさんなどにお尋ねください。

 この人のことを知ったきっかけは、小学生時代に通っていた学習塾の先生に歴史雑学として教えられたことなのですが、冗談抜きでその後三日ほど凹みました。

 基本的に私は自分のトラウマになった物語や逸話、人物のエピソードから話を作ることが多いです。だから本作もそのパターンの一つとなります。


 メジロリリイの生い立ちはそんなに幸せなものじゃなかった……というのは本編でもうっすら明かしております通り連載初期からあった設定ではあったのですが、その時点では設定を深く煮詰めておりませんでした(どちらかというと本編に必要なのはタイガのほうでリリイはオマケとして用意した子だったのです(※1))。

 それがここまで荒唐無稽にすさまじいものになったのは、本編#25で極道な一面をのぞかせてみた結果、自分の中でピースでカチカチとピースがはまってゆく手応えを感じた結果、いずれ何かの話でモチーフにしたいと思っていた戚夫人と頭の中で化学反応でも起こした結果、気が付けば本作の核にあたる生い立ちに関するストーリーが立ち上がっていたという次第です。

 なぜ戚夫人が出てきたのか。おそらく本編で本人が、汚くて誰からも顧みられない子供だった旨を吐露している章との兼ね合いから発展して出てきた発想でしょう。


 そのあたりから始まり、リリイという女の子を書くにあたって「美貌の持ち主であるが故に、幸せをつかみ取ろうとすると妨害される子」をモチーフにしたいと思いました。この辺はハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』とエレナ・フェッランテ『リラとわたし』からの着想です。どちらも、美貌が自分の人生の助けになるどころか、しがらみとなって要らぬ苦労を背負わされた挙句危険や不幸を招き寄せることもあるという辛すぎる状況が書かれており、考えこまされてしまったのです(なお、美女なのに不運で不幸な人を描いた作品に東村アキコ『主に泣いています』がありますが、そっちからの影響は特に……。前記二作に登場する少女のように逆境に負けない強い子を書きたかったので)。


 元々最初からリリイは東アジア系と中央アジア系の血を引く女の子という設定ではあったのですが、ロシア語圏出身になったのは本編に登場する他キャラクターとの兼ね合いです。ロシア人という設定でいこうと思っていた本編のキャラクターの設定を変更したので、空いた枠をこの子に据えました(本編の舞台は「環太平洋圏の女の子がやってくる学校」という設定なのでどうしてもユーラシア東北部枠は欲しかった)。

 本編では激昂した時に同時翻訳機能が対応しないスラングを使うということになっておりましたが、本作で明かした通り「母語がロシア語ベースに近隣諸国のスラングが入り混じったクレオール言語だから」という理由になります。本編では母語の他に旧日本語、特殊業界でのみ使用される言語のトライリンガルでしたが、本作の最終時点では英語と広東語くらいは使えるようになっているのではないでしょうか。


 なお、私の書いた別作品で主人公を務めるキャラクターに、リリイと同様「自分にとって自分の好きな子が一番だし、その子以外の人間にどう思われたって一向にかまわない」という気構えで生きている清々しく根性の悪いマルガリタ・アメジストという女子がいます。

 そのため、リリイを描くにあたってその子との違いを出さなきゃならないというの課題が自分の中にありました。ちゃんと別個のキャラクターとしてかけているかどうかは両作品読んだ方に判断をゆだねるしかありませんが……。

 一応、「リリイは性的なことには潔癖でひ弱なメンタルを防御するためにガチガチに鎧を着こんで攻撃に備える外骨格型の気質。マルガリタ・アメジストは必要があればハニートラップだろうがなんだろうが厭わないし、泣いたり拗ねたり甘えたりいじけたりしやすい分ちょっとやそっとのことではへこたれないプラナリアなメンタルの持ち主」という点は意識してました。


 本作の世界とマルガリタ・アメジストが活躍する世界には接点がないので二人が出くわすことは無いという設定にはなっておりますが、万一そういう事態になるとお互い激しい近親憎悪をぶつけあう仲になるんじゃないかなと推測しております。



 以下、本作はやたらと小ネタが多いので各章にそって説明するライナーノーツ方式で語ってみたいと思います。



【#1 恋のバカンス】

 サブタイトルはザ・ピーナッツの名曲です。

 旧ソ連圏だと知らない人はいないというほど今日に至るまで愛唱されている歌として有名。一応、ロシアっぽい所から始まる話なんだからこの曲を外すわけにはいくまいて……という心境になりますでしょう。そりゃあ。


 舞台になっている所のモデルは一応ウラジオストクっぽいところですが、本当はハバロフスクっぽい所を予定しておりました。が、調べてみると緯度が高すぎて公衆便所が少ないらしいということが判明し、こりゃヤベエ! という理由で急遽緯度を低くしたという事情があったりします。


 本作の時代では、港と鉄道の発着駅もあり、近隣から出稼ぎその他移り住んできた人が多く、様々な文化が入り混じっている一帯があるということになってるようです。

 本作に時々出てくる造語「漢韓圏」というのは、漢字やハングルを使う一帯の出身者という意味でつかわれているスラングであるという設定で数は少なくても旧日本人も含まれています。

 なんにせよ、ある種のおとぎ話の舞台として好き放題に大嘘を突きまくっております。まさかあの街の様子をうのみにされる方はいらっしゃらない筈ですが、実在する街とはかけ離れていることを断っておきます。なんだか妙なことになってる変な物語の舞台にしちゃってゴメンなさいと謝っておきます。本当にすみません。


 リリイが「るろうに剣心」の斎藤一に熱をあげている理由、そして動画屋という謎のアウトロー商売は何からの着想であるかについてはこちらで説明しておりますのでご参照ください。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883122/episodes/1177354054887143078 

 そもそも、「キュン・即・斬」も完全なるアドリブでしたし、仕込み傘使いという設定も「この子にはなんとなく日傘持たせてるしいっちょ暴れさせてみるかなあ」というアドリブから生まれた設定になります。本当にアドリブで出来上がったキャラクターですよ、この子は……。


 このような事情があってリリイは黄金期のジャンプ作品にやたら詳しいという設定があるのですが、なかなか使いどころがない死に設定になってます。

 一応、本作の時代では1980年代末期から2000年代初期の娯楽作品に強いというのは、今でいうならば歌舞伎の演目や戦前の邦画、落語の名人について詳しすぎるようなものだと思っていただければ。リリイが駆け出しの女優業をやるときに「ほほう、若いお嬢さんにしては珍しい趣味の子だな」という所から業界の重鎮に気に入られ、キャリアを構築する際に十分役立ったということになっています。



【#2 白い色は恋人の色】

 ベッツィ&クリスのヒットソングがサブタイトルです。「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」挿入曲としても有名ですね。

 百合にちなんだ名前を持つ主人公が登場する話で「なつかしい白百合は恋人の色」という歌詞があれば、そりゃ書かいでか……! と、なるわけですよ。

 

 元ネタの可憐で涼やかな歌に反して、私の戚夫人トラウマを炸裂させつつ一番派手に大嘘つきまくった章となります。

 

 リリイの父親であるセルゲイは高麗人ということになっていますが、昔々に姜信子『追放の高麗人』というノンフィクションを読んだ影響が今になって現れたのだと思います。いわゆる塩顔の美男子だった設定です。リリイは父親の元の顔をみた覚えが無いはずなにもかかわらず、父親を彷彿とさせる塩顔の男性の容貌を気に入る所があるという設定です。ファザコン気味な子なんですよ。



【#3 海参崴ラプソディー】

 サブタイトルの元ネタは、海原千里・万里の「大阪ラプソディー」ですが、大阪が欠片も関係ない話でこのタイトルはちょっとな……という理由により、ウラジオストクの中国語表記であるらしい海参崴に変えました。

 突っ込まれたらイヤだという大変ヘタレた理由により作中舞台に関する固有名詞を出さずに極力ボカしたい主義なのですが、この場合は止むを得ずこういう仕様となったのはネオンがきらめくような宵の街を二人でそぞろ歩かせたかったからですよ……。小さなことまで二人ですごした大事な夜のことは覚えさせておきたかったからですよ……。

 なお、この章で初めて登場するメジロセンリ、そして別章で登場する双子の姉妹のマリの由来はタイトルの元ネタに由来するわけです。が、人物像などは特に参照にはしておりません。あくまで名前のみお借りした次第です。


 とまあ、そんなわけでタイガが姿を表す章となります。

 日系の名前にしては珍しいという理由により、無料の翻訳システムが「大河」と誤訳してしまうという一連の件ははたして読み手の方にコメディとして伝わっているのだろうかとちょっと不安になりつつも、個人的には気に入っている所になります。

 ちなみにいたるところで翻訳システムが設置されている一般化しているおかげで主要言語間なら母語同士でもスムーズな会話がなりたつという本編とも共通する設定は、「未来なんだからそれくらい可能にしろ! その程度のことが実現できない文明ならいっそ滅べ!」という語学習得がとにかく苦手な私からの主張になります。


 本章で初めて登場する、本作キーキャラクターの悪堕ちワルキューレのメジロセンリは書いていて楽しい人でもある反面、気を抜くとリリイとセンリの話になってしまいそうなところもあって扱いに気を遣うところもありました。

 この人も私のトラウマ人物を一部下敷きにしていますね……。その人物をモデルにするのは彼女で二人目になります。


 喫煙者なのは、元優等生がわかりやすくグレているからです。

 「どうせなら十六回斬ればよかったのに」という台詞の元ネタに関しては、幽遊白書をご参照に。



【#4 好きよキャプテン】

 ザ・リリーズの名曲がサブタイトルです。


 リリイが世話になった人物の別れの章ということで、「遠い街へ行ってもう帰らないの」「涙拭けって優しい声」「生きることと恋を教えてくれたの」というあたりを参照にエピソードを組み立てました。


 動画屋に続く謎のサブカルアウトロー商売、本屋が登場する回です。これを思いついた時「早くやらないと誰かに先を越される!」と謎のテンションにかられてエピソードに組みこんだわけですが、焦らなくてもこんなザルすぎるアイディアをまともに使おうとするヤツお前くらいだよ……と声をかけてやりたい。

 インさんなる人物が『フィフティシェイズ・オブ・グレイ』を引き合いに出しているのは、元々は『トワイライト』の二次創作だったことによる対抗心ですね……。つうかこの時代は『フィフティシェイズ……』以降、原典が二次創作であるヒット小説が出てこなかったということになりますね……ミラクルやイレギュラーが起きない文化的に貧相な未来世界ですね……(遠い目)。


 リリイとタイガが公園で追いかけっこをするところと、タイガの「るろうに剣心」での推しメンが志々雄というところはちょっと気に入っています(※2)。



【#5 恋のインディアン人形】

 リンリン・ランランの名曲がサブタイトルです。

 二人の名前がピーターパンのタイガーリリーに由来する以上、組み込まずにいられようか! と、サブタイトルは先述の「デュオU&U 」から引用するとフザけた判断を下す原因ともいえる神曲ですよ。

 「夢を作ってガラスの箱にしまっておくよないつでも内気な女の子ではありません」とか「おとなの真似して今日もまた恋する相手を探してる」とか歌詞がいちいち素晴らしい(でもどっちかというとリリイは夢を作ってガラスの箱にしまっておくタイプですね、明らかに……)。


 そんなわけで「弓を射ってはあなたの胸に心を伝えるいつでも元気な女の子であるのです」を強く意識してエピソードを作った結果、あのような仕様となりました。一番書きたかった所でもあった為か、書いていて一番楽しかった章ですね。



 ところで本作執筆中に、岡崎京子のとても有名な名作漫画『ヘルタースケルター』を初めて読み、主要人物がヒロインのことをタイガーリリーと呼ぶことや女性の美醜が大きなテーマであること、サイボーグに近いような手術を施す女医とそのクリニックに関する疑惑が物語の縦軸であることを知り「どうしよう……影響受けたと思われる!」と一人で勝手に焦っておりました。そして大変おもしろい漫画でございました『ヘルタースケルター』は……。やはり名作って呼ばれる作品は違いますよ。



【#6 渚のシンドバッド】

 ピンクレディーの代表的なヒットナンバーですね。

 「ここかと思えばまたまたあちら浮気な人ね」で「ちょいとおにいさんなれなれしいわ」「いい気なものね」な章にしたかったわけですが、なっているかどうか。

 そしてタイガが腹が立つほどうっとりさせるテクニックを持っている子なのかどうか……。


 というわけで、本編には名前だけ出てきていた目白児童保護育成会の登場となります。

 当初は、よくある「改造処置を施される子供たちが集められた無菌室めいた病院の施設」もしくは「鬼のような大人たちが管理する劣悪な孤児収容施設」をイメージしていましたが、それではあんまりおもしろくないということにになり、このような次第に変更いたしました。

 本編にはタイガがこの施設に対する思い出を語って本編主人公に同情心を催させるシーンがありますが、本人の感じる不満は「好きな格好ができない、施設で出される薄味の和食が口に合わない、悪さをするとすぐワコさんに叱られる」程度のあまり深刻でないものだったと思われます。


 所在地は横須賀付近で太平洋に面しており有名な観光地があったり文人の別荘があったような場所……というところになっていますが、どこなんでしょうねぇ……と下手にごまかすついでに、適当なこと書いてすみませんとあやまっておきます。本当にすみません。

 なお目白児童保護育成会がこの辺りにある設定になったのは、「デュオU&U 」と並行して昔買ったクレイジーケンバンドのCDを聴き直していたせいです。そのせいでどうしても神奈川県のあたりにしたくなった……。


 本編屈指の華麗なる一族、北ノ方家と縁戚関係があるという設定の帳尻を合わせるために登場したワコさんこと目白輪子なる人物も、子供を改造しようとする怪しい施設によく登場する怪しい博士や偽善的な笑顔の怖い鬼婆のようなキャラクターを避けようとして設定した人物です。

 インテリジェンスさと一般人とはちょっとかけ離れた倫理観をもちつつも、根本的にお嬢さん気質のアットホームで可愛らしいところのあるおばさんという風に描きたかった。なお、現在放送中に朝ドラ「まんぷく」の松坂慶子さんをイメージモデルにしておりました。面倒だけどチャーミングで憎めないおばさまぶりが可愛い。いいキャラクターですよね。


 センリの姉妹のプロワルキューレのマリは本編#7に学年主任としてちらっと登場する学年主任と同一人物という設定です。彼女の働きかけでミツクリナギサは太平洋校の学園長に就任したという流れがあります。彼女も彼女なりにワルキューレの待遇に対して問題意識は持っているのですが、姉妹とは違って正攻法で対処すべきという気持ちが強いようです。


 メジロの子供達として登場するクウガですが、ピューマが由来の名前が示す通り中南米出身の子です。本編でタイガが中南米の激戦区に好んで出撃していることになっていますが、危険地帯であるが故に実入りが大きいということの他に彼女からの影響も少なくないということになっています。



【#7 待つわ】

 あみんによる、「80年代女性歌手によるいい根性してる女が出てくる歌ランキング」で私の中では「まちぶせ」と並ぶ名曲がサブタイトル。

 「可愛いふりしてあの子わりとやるもんだねとと言われ続けたあの頃」の話ということで、生きるのは辛くはなさそうですが大いにムカついてる時期のことになります。


 特に必要ではないので一括名無しのモブとして処理しましたが施設の別棟には男子もいて集団で生活しています。彼らも何かしら人体強化系の手術を受けた子や侵略者の子供達という設定です。


 本編でも何かとタイガが口にするトンチキな少女活劇ドラマ『セシルの覇道』がここでも登場させています。元々は二十一世紀末育ちの彼女にギャルファッションをさせるための方便として用いた設定だったはず。

 因みに、藤井みほな『GALS』、高口里純『花のあすか組』、佐木飛朗斗、所十三『特攻の拓』あたりが混ざったようなドラマという設定です(『特攻の拓』は読んでないのですが)。腐敗にまみれ千々に乱れる世紀末日本に覇王の相を持って生まれた渋谷のカリスマギャル・セシルが自分たちのプライドのために強敵と闘い、友情を築き、悪い大人たちの陰謀を暴き、時には地べたに這いつくばることがあっても友のため少女の未来のためにに立ち上がるセシルの名前は次第に天下に轟渡るという話──だと思う。タイガのお気に入りであるアユパイセンは『花のあすか組』でいうと鬼嶋ヨーコに相当するキャラクターですよ……と言ったところで伝わるかどうか(※3)。


 本章でやりたかったのは、どうしてもリリイとタイガを電車に乗せるということでした。女子ふたりが電車にのって何かからの脱出を試みるのは、百合書きの端くれとして一度は挑戦したいシチュエーションだったのですよ。

 せっかく綺麗な景色が楽しめる電車の沿線にあると施設の所在地を設定したんだから、やらいでか! と決行した次第になります。

 なんという路線のつもりなのかは二人の会話から明らかだと思われますのでここでは伏せておきます。一応調べはしてみたものの、正確さよりもとにかく自分のロマンを優先しました。大嘘すみません。ちなみにリリイの『スラムダンク』の推しは流川楓ですね。



【#8 渚の『・・・・・』】

 おニャン子クラブの派生ユニットだった、うしろゆびさされ組のナンバー。私の世代だと「ハイスクール奇面組」のオープニングテーマだったことで有名なような。

 「やってくれましたやってくれました あなたって」で「やってられないわやってられないわ もう私」でまとめねばならぬという命題があった章でありますが、ここでやらなきゃいけないことがありすぎた為にとんでもない難産になった章でもあります。そのせいで文字数がえげつないことに。

 

 とりあえず語り易そうなところから明かしてまいりますと、本編に登場する生徒会長キタノカタマコの侍女たちの名前と出自を明かしております。彼女らもある種の人造ワルキューレですよということで(彼女らの誕生するには時期的に第一世代のワルキューレの協力が必要となるはずですし、そこから北ノ方を挟む葦切と目白の対立という話も展開できそうですが今そういうことをやる余力はない)。

 センスが無いと批判されているセンリのネーミングですが、国籍や民族を思わせるものは排除したいという彼女なりの意志が働いたのかもしれません。


 センリがいい人なのか悪い人なのか、本音を明かしているのか甘言で子供を誑かしているのかは読まれた方の判断にゆだねます。とりあえずリリイはこのように語っておりますよ、ということで。今のところ作者の立場で確実に言えることは、かつての仲間を襲った運命がかなりのトラウマになっておりワルキューレの在り方に疑問を持っている人ということだけですね。



 ――さてまあ、どうして難産になったのかの理由を私の中の供養を兼ねてひとくさり――。

 

 難産になった理由は、展開の大幅な変更や挿入するつもりだったエピソードを全没にするような作業に泣かされていた為です。そのため公開していた章に入れていた前振りなどをしれっと削除するような不細工な行動に及ぶこととなりました。


 以下はその内訳など。私が延々反省を述べるだけなので、興味がない方はスルーしてくださって差支えありません。


 タイガが既に手術を受けている子であること、お金の為に手術を受け入れたことをを知ってリリイが激怒する件は、実は#6で語られる輸送船の風呂場でワルキューレになるようスカウトされた時に同時に知ったという展開にする予定でした(自然に手術痕を見せる展開にするための入浴シーンだった)。

 そのために#6では最初「本当はこの時もう少し話していたことはあったけれど尺の都合で後回しに」なんてリリイは書き入れていたわけです。

 が、いくら私がフリーダムに時系列をぐちゃぐちゃにしたがるマンであるとはいえここでまた回想シーン入れるのは難しい。読んでいても絶対ややこしくなる。つうかはっきり言って書くのがスゲエ大変! 

 もうこれなら、タイガが手術済みの子なのを知ったのはこの時ってことに変更して事前の前振りをなかったことにするのが正解だ! と判断した結果が現行の形となります。やっぱりこれが正解だったと思う。


 全没にしたエピソードは、リリイが故郷の街を脱出する際に「ターニャ姐さんの亭主の兄さん」一騎打ちをして倒してからいくというものです。これもこの章で回想シーンとして入れるために、#5で「つまらぬ一仕事をこなした後にセンリと合流した」というようなことを当初書き入れていたわけです。

 その際に、リリイが兄さんに母親が浄化槽を出したのは誰かと問い詰めるシーンと、兄さんがリリイに自分と組まないかと持ち掛けるような流れを予定していたわけです(というかそれがしたかったが為の、「渚の『・・・・・』」という章題だといっても過言ではない。「突然こんなところに呼び出したKontan MIE MIE」に掛けたかったのですよ)。

 が、文字の量が既にヤクザだからそんなエピソード入れてる物理的余裕が無い。そしてムリなく回想へと運ぶ展開を考える脳みその容量もない。よくよく考えてみればこの二人には強い因縁があるわけでもないし、結構な労力を割いてまでこだわるエピソードではないな……と判断してすっぱり無かったことにすることにした次第です。

 基本的に私の少女とヤクザなおっさんの二人づれ萌えを満足させるためだけのエピソードのようなもんですし、やっぱり削って正解でしたね。ちなみにそういう展開を入れたくなったのはクレイジーケンバンドの曲の影響でしょうね。「タイガー&ドラゴン」、「トランジスタGガール」(※4)あたりの。


 あったはずの前フリが無くなってることに気づくほど読み込んでくださった方がもしいらっしゃれば、この場を借りて「不細工なことになってすみません」と謝らせて頂きます。



【#9 うたかた】

 ピンクレディー末期の神がかった名曲がタイトルになります。こちらは「デュオU&U 」でカバーされていない曲ですね。

 一夜を共にした相手の後ろ姿を見送る女の心情を歌う、大人でなければ歌いこなせないような曲ですごく良いのですよ。「うたかたの恋でもいいの」「出会う時だれもが他人よ」「生きている誰もが一人よ」の歌詞とか、一人で立って歩ける女の言葉っぽいところが凄くいい。

 ディスコ風の曲調とかラストシーンに流すのがぴったりすぎて、どうしても終章のタイトルはこれにしたいという私の思い入れを優先しました。


 でも本章でリリイが歌う曲は、浜崎あゆみの「Boys & Girls」らしき曲ですけどね……。「SEASONS」とどっちにするか迷いましたが、二人の門出の歌なら前者の方が適当だろうということでこちらを選ぶことに。歌詞の内容もこっち向きでしたので。

 それにしても自分が小説を書くようになり、その中で浜崎さんの歌を引用するようになるとは思いもよりませんでした。


 

 そんなわけで、何故にリリイが妙な形で手記を書くことになったのか、タイガはどういう子でどういう最期を迎えるのかはここで明かす章となります。

 まあこのように戦場にて百鬼丸のような兄貴分と行動をともにするどろろのような子だったわけですよ。本編では元気にアホっぷりをさらしているので最期は暗示するにとどめる案もあったのですが、本編でも長生きはできない旨は明らかにしているから……という理由で現行の形をとりました。


 かつて小戚と呼ばれた女の子が本編で登場するメジロリリイに近い姿になって、地下工房を訪れて日傘に改造された傘を受け取りにくる――というのは早い段階で決めていたラストシーンです。


 「誰がヤスミンを浄化槽の外にだしたのか」という謎に対する答えがフェアかアンフェアかは読んだ方の判断に任せます。



【ボーナストラック 年下の女の子】

 キャンディーズの不朽の名曲「年下の男の子」をもじったものがサブタイトルになります。

 二人の話に第三者を交えたために、この章だけトリオのアイドルであるキャンディーズにした次第です。


 語り手は本編の方で私がなにかと便利使いしてしまうキャラクターの一人であるシャー・ユイ(ここでも便利使いしてすまん)、「変人の先輩」「Sさん」と呼ばれる人物は本編主人公のサメジマサランです。太平洋校を卒業し、他に仕事を持つアラサーの予備役ワルキューレになった二人の小旅行中の出来事が書かれています。

 Sさんたちがリリイとタイガにどういう迷惑をこうむったのか、二人とどういう関係だったのかは本編をお読みくださいということで。


 時系列的にリリイが死んでからちょっと後、というあたりくらいですかね。

 

 タイガの没後にセンリのスキャンダルが明るみに出て、以後メジロ式の術式を受けたものはワルキューレとしては正式に認められなくなります。名前だけ登場するメジロチエリは養成校に籍を置くことのできた最後の飴食いワルキューレキャンディーズということになっています。


 かくして、特別に選ばれた女の子しかワルキューレになれなかった時代から誰でも簡単にワルキューレになれる時代へと移り変わってゆく過渡期に二人は活動して足跡を残した訳ですね。

 ワルキューレの概念も変わると同時に侵略者の概念も多様化し、これまでのように単純に駆除すればいいだけでは許されなくなり、また「誰でもワルキューレになれる技術」は当然従来のヒトvsヒトの戦争にも転用可なわけですから人類をとりまく状況は益々ややこしくなってゆくのでした──という時代を迎える直前の一コマということになります。

 

 本編やそのスピンオフ以外にもまたこの世界観でお話を作るとしたら「どうしてセンリは誰でもワルキューレになれるようにしたのか?」「何故ワルキューレは特別に選ばれた女の子でないと困るという層があるのか」という所は避けて通れないことになるわけですが、今それを考えるのはしんどいです。

 それにしてもプロメテウスっぽい人になっちゃいましたね、この人は。



 さて、軽い気持ちで初めてみたものの馬鹿馬鹿しいネタ込みでやりたいことを全部やる方針を採択した為に途中で地獄もみた連載もこうしてなんとか完結させることができました。


 ──実は、「やりたいこと」の一つに「信頼できない語り手」をやるというのがありました。せっかく陰険で素直でない女の子を語り手に選んでいる以上は挑戦したいな、と。

 けれども精神的に余裕がない執筆となったのでそちらを実現するのは難しいことになりました。一人称小説をよく書く者としてはまたリベンジしてみたいものです。


 はちかつぎ姫や姥皮なども下敷きにしておりましたが、本作は一応シンデレラ譚のバリエーションになると書き手としては思っております。

 なお、キャッチコピーの元ネタ及び本作のモチーフは「いい子は天国に行ける。でも悪い子はどこにだって行ける」というメイ・ウエストの有名な名言です。実に素敵な言葉ですね。


 これがハッピーエンドなのかどうかは分かりませんが、二人にはときっと悔いなく生きていたんだと思いますよ。

 なお本編には二人とも最後まで元気に出続けると予定です。本編では現在二人の間では微妙な距離が生じております。これからどうなることでしょうね……。


 そういった点も含めて問題山積みな本編を完結まで運ぶのが私の課題です。ちょっと体力が落ちてますので更新ペースはゆっくりになりそうですが、お付き合い下さますと幸いです。




(オマケ)

 以下、この文章に必要のない裏話や小ネタなどを注釈の形でまとめてみました。まあ非常にくだらないものですので無視するかどうかご自由に、どうぞ。


(※1)

 ぶっちゃけますとメジロ姓の二人は、某ゲームの某二人がモデルです。特にタイガのモデルになったキャラクターを数年こっそり推しているため、つい出来心でこの子たち二人を下敷きにしたキャラクターを登場させたくなったのですよ……。でもって私はかなりのニコイチ主義故「この子っぽい出すなら相方も出さねばならぬ!」という心境になり、出したのがリリイですよ。 

 おかげさまで、二人とも書き進めるうちにモデルのキャラクターとは似ても似つかぬ妙な子たちになったので安心しています。


(※2)

 本編のある章でタイガが柴田ヨクサル「エアマスター」が元ネタである台詞を呟いています。それにちなんで「エアマスター」における二人の推しキャラをあげますとリリイがジョンス・リーでタイガが坂本ジュリエッタです。まあどうでもいい小ネタです。


(※3)

 最近あまり読まれないようですが『花のあすか組』は百合の基礎教養だと思うのですよ……。桜庭一樹だって言及していたというのに。

 少女達のみで形成されたマフィアみたいな組織の首領の側近までいったカリスマ性のあるもといじめられっ子の美少女が、昔の因縁から次々ふりかかる火の粉を振り払ったりする過程で抗争や冒険に巻き込まれたりする話ですよ。その過程でいくつも描かれる女子と女子の関係性が良いのですよ。発表されたのは80年代から90年代にかけてですが、2010年代の二次創作の形と抜群に相性のいい形をしていると思う。

 東京23区の地区代表みたいなのがメンバー従えて戦争する「イクサ23」なってどう考えてもソシャゲにしてくださいってヤツじゃないか……。ああ勿体ない。


(※4)

 TOKIOへの提供曲で、アルバムの『 SOUL PUNCH』にセルフカバーバージョンが入ってる。世界中が釘付けになるようなセクシーな女の子のとりこになる男を歌った曲。執着する対象が十歳の女の子なのは我ながらどうかと思うものの。

 なお大人になったリリイはこういう人になっているんじゃないかなとイメージしながら「インターナショナルプレイガール」も聴いておりました。

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