第28話 『村焼き姫と魔女の焼き菓子』

 村を焼かれたい女優としてよくお名前の挙がることの多い栗山千明さん。


 そんな栗山さん演じるお姫様が、何卒おらが村を焼いて下されとハアハアされなかがら縋られることに困惑し「わらわはもう村など焼きとうないのじゃー!」と叫んで家出をする。

 身分を隠して城下をさすらっている所、遭遇したのは綾瀬はるかさん演じる菓子屋の女将である。女将の作る焼き菓子の味に魅入られたお姫様は是非ともこの菓子の焼き方を教えてくれと頼みこみお菓子作りを習う。そして「村よりももっと焼き甲斐があるものに出会えたぞよ」とすっかり満足する。

 しかし菓子屋の女将はかつてお姫様に村を焼かれてから天涯孤独の身となり、傭兵として各地をさすらった経験をある凄腕の戦士だという過去を隠していたのだった――。


 ――と、去年あたりに思いついたバカバカしい妄想を基にした短いお話を練り直したものが本作になります。というわけで改めまして、ピクルズジンジャーでございます。


 物語の余韻を台無しにするようなバカ話から始めてしまってすみません。もともと私はバカバカしい話のほうが好きなもので。なお、お姫様役が栗山千明なのはわかるがどうして元凄腕の戦士な菓子屋の女将が綾瀬はるかなのかという問いに関しては「栗山さんも好きだが綾瀬さんも好きだからだ」と答えさせて頂きます。――干物女やひみつのアッコちゃん、新島八重から槍使いの傭兵、ポワワンとしたキャラクターからキリっとした格好いい役まで演じられるのが稀有な方ではありませんか。


 そんなわけでついバカ話でオチをつけたくなるのも、「村を焼かれたい」という「被虐心を刺激されるくらい素敵な方です」という意味合いで使われるtwitter界隈で見かける慣用句に対しても、「いや、たとえ栗山千明でも焼かれたら普通にイヤだろ。住んでる村を」と素で返してしまうようなヤツであるためです。嗜虐と被虐の粋と美学を理解できないやつなのですよ、根っから無粋なので。

 無粋であるため、村を焼いてもらいたいと請われる方だって本当はそんな行為に手を染めたくはなく、もっと甲斐のあるものを焼きたいと思ってらっしゃるかもしれないではないか。たとえばお菓子とか――と勝手に思って作ったのが先に紹介したバカバカしいストーリー案で、さらにそこから発展させたのが本作となります。


 もともといずれ『胴なし馬のファラダ』のようなフェアリーテール系ファンタジー中編小説に昇華して発表したいという気持ちはあったのですが、カクヨムコン4には短編部門があるということでそこに合わせて練り直しました(その過程でお姫様に菓子の作り方を教える娘から元戦士という設定が消えて、あのようなことになりました)。

 せっかくのコンテスト、せっかくの新部門なので、新作で参加してみたい気持ちが抑えられなかったのですよ。


 しかしまあ、短い文字数でキレのある物語を書くのが苦手な者には一万字までという制限は厳しいものでした。本当に短編は難しいよ……。


 本作において、フェアリーテール調の物語や童話や民話調の語り口を採用したのは、この方法だと長いスパンの物語を圧縮して語れるのでは? という策略と計算が働いたためです。私なりの小説フォーマットで語ると一万字では足りなさすぎるという予感があったため。

 その目論見が成功したのかどうかは自分では不明ですし、そもそもカクヨムコン4の短編部門が募集している「エンターテインメント」に相応しいものか? もっというと一番大事なクオリティはどうだ? という疑問を突き詰めると止まらなくなりますのでほどほどにしておきます。


 なお、こういう結末にせざるを得なくなったのは、「村を焼かれた方が焼いたものを許すのは難しかろうし、そもそも許してくれと願う方が厚かましいのではないか」という気持ちと折り合いがつけられなかった為です。

 


 なお、基本的に私はそういう話しか今のところ書く気がありませんし、このジャンルはこういうものだという気構えで書きましたので本作には百合のタグをつけております。が、当然「タグ詐欺だ!」「ジャンル詐欺だ!」という方もいらっしゃる方も中にはいらっしゃるかと思われます。

 しかしまあ、私は恋愛や性愛に結びつくものでなくても女子と女子の二人がポジティブなものにしろネガティブなものにしろ重ための感情を向けあう話はこのジャンルに含むと考える派閥(むしろそういう話を積極的に書きたいし読みたい、例え百合とは冠していない作品であっても……という派閥)なので、こういうタグをつけた次第です。

 

 詐欺だ! と思われた方におかれましては、違う宗派の説教を聞いて時間を無駄にしたと心を慰めて速やかにこの物語の内容を忘れていただきますと互いに有益な時間を過ごせますよ……とだけ申して物陰へ隠れることに致します。

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