第29話 『神話になり損なったありふれた暴力に纏わる物語』

 暴力に纏わる物語を書かねばならぬ。

 2018年12月初旬、子供が録画していた深夜アニメを見ながらなぜか突然そんな思いに取り憑かれた。


 ざっくり言うと、女の子が酷い暴力に遭ってるのを見て激昂した少年が何かしら覚醒するというような展開を目にして、なんとなくつまらない気持ちになったのである。

 とにもかくにも女の子というのは物語で可哀想な目に遭わされがちである。二次元文化では特に。

「この物語は悲惨な暴力や理不尽がまかり通るシビアな世界観をウリにしております」と標榜するかのような世界観でも、可哀想な目に遭うのは女の子が多い。


 現実問題、普通に生きていて可哀想な目に遭うのは女の子だけではない。男の子も遭う。おじさんも遭う。おばさんだって遭う。老若男女それぞれ悲惨な目に遭う時は遭う。個人的に現実で耳にする暴力関連のニュースで一番か二番にキツイと思うのが、警察組織など男性主体の縦社会で新人が先輩にしごきという形で屈辱的な暴力に晒されていたという類のものである。本当に辛い。耳にするだけで凹む。あれ系の文化はとっとと廃れて欲しい。 

 リアルでハードな世界観をウリにするのであれば、女の子以外、例えばむくつけき青年も絶望させたり虫ケラのように扱ったりするべきなのではないだろうか。

 とはいえやっぱり物語上では「可哀想な目に遭うのは女の子が映えるよね」「少年や青年ならまだしもおっさんやおばさんの凄惨な被暴力に需要ねえだろ」という事情が垣間見えてしまうことは否めないのであった(批判してるくせに私も書いてしまうしなあ)。

 女の子が可哀想な目に遭う、そこには少なからずスケベな関心があるだろう。

 希望に燃えてる女の子が酷い目に遭って絶望するのがウリなのですよという作品は、「これは悲惨でリアルでハードな世界観の物語で……」とゴニャゴニャ語らず「本作では女の子が酷い目に遭いますぜ旦那」と最初から視聴者のスケベ心に訴えかけるよう宣伝してくれた方が誠実ではないか、とちょっと憤慨したのであった。


 そんな流れで、スケベ心を誘発しない暴力がふと書いてみたくなったのだ。


 人類を前にしたシステマティックで圧倒的な暴力と言うか、強制収容所的に老若男女の尊厳を奪って踏みにじるだけの暴力とか、「HUNTER×HUNTER」アリ編序盤の人類皆等しく肉団子! みたいなアレとか、クルタ族の最期みたいな本当の意味で血も涙もない暴力というか、なんかそういうのを書かねばならないのではないか?


 ──と、謎の使命感に駆られて書いた割に出来上がったのは、女の子が一番酷い目にあっている上にただのスケベなシーンもあるこのような小説でしたとさ。ちゃんちゃん。



 なんだか血生臭い話を書いてしまった為にフザけたノリでバランスを取ろうと企てるピクルズジンジャーでございます。

 前作のあとがきでしばらく百合以外のものは当分書きたくないとか言っていたのに、突然降って湧いたせいで珍しく少年の方が目立つ小説を書いておりました。それでもやっぱりボーイミーツガールを書く気にはなれなくてこのような内容となっております。


 やたら長いタイトルですが、コンテストに参加したかったのでなるべく人目を惹くものにしたいなと浅はかに考えてこうなりました。


 テラ、ツク、スサ、ザナ、オク、といった名前は安易に古事記にちなんでつけたものですが単にそれだけです。物語の舞台はぼんやりしたどこかの昔の世界です。


 ツクのキャラクターの遠いモデルになったのは南海大遠征で知られる鄭和です。私はこの人が世界史に登場する偉人で一番好きだというのに、リスペクト精神が現れていない妙な少年になっておりました。嫌いではないキャラクターなのですが。

 ともあれ、ツクに育てられたオクが海を目指すのはモデルになった人物の要素によるものです。



 書いてる時は謎の使命感に取り憑かれているのでなんとも思わないけれど、公開してはたと冷静になり「私、何を書いているんだろう……?」という虚無めいた気持ちに陥る、ということはどの小説を書いていてもあることなのですが、久しぶりにそれが大きかった小説でした。


 ともあれ、誰だって酷い目に遭う時は等しく遭う、そして酷い目に遭ったキャラクター達や物語に「ああ可哀想……!」的なスケベ心を催さない物語を書きたかった(こういうの自分で言っちゃダメだろう)。


 しかし物語というのは如何に読み手のスケベ心を喚起させてこそのものではないのか、エンターテイメントを標榜するなら特に……、と、根本的なことに気がついた状態で後書きを終えたいと思います。

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