スカッとジャパンを見て、私が想うこと。

@karaokeoff0305

スカッとジャパンを見て、私が想うこと。

毎週月曜夜19時。

父は必ずと言って良い程、ある番組にチャンネルを変える。



「梨沙子、面白いぞ、コレ。たまには息抜きに見たらどうだ。」



そう言って父が薦めてくれるバラエティー番組が、実はあまり好きではない。

好意を無駄にしては駄目だ、と渋々画面に目をやるのだが。



「ちょっとォ~おたく達の会話、さっきからずっと見てて思ったんですけどォ・・・」



内容は、いつもワンパターンだ。

理不尽なクレーマーに、困る店員。そこに颯爽と助けに現れるイケメン。

こんなのばかり見せられて見る側は飽きないのか、とつい感心してしまう。



「ざまあみろ、アハハハハ!」



父なんかは、特にこの番組が気に入ってるようで―

クレーマーが報復を受けている場面では、指を差し大声で笑っている。




(この番組ってなーんか、引っ掛かるんだよなぁ・・・)



そう思うものの、何故引っ掛かるのか肝心な部分は解らず、

ただ悶々として画面を凝視していた。



「日本人って、ハッキリ物事を言わないのね。」


不意に、青い瞳をした金髪の女性が脳裏を過った。

英会話サークルか、それとも語学ボランティアか。

何処で知り合った人か記憶に薄いが、そんな事を言ってた

外国の女性が居たような。



「まぁ、でもそれが日本の良い所なんだよ」



金髪の女性―その外国人には、そんな言葉を発した気がする。

随分前の出来事で、もうハッキリとは思い出せないが。



「思っても、人前で堂々と自分の気持ちを口にするんじゃありません。

それが正しい事だとしても。触らぬ神に祟りなしよ」



思えば、物心ついた時から―

何十、何百回というほど母からこの言葉を浴びせられて来た。

学校、社会と言う場でも。日本という国に生まれ、育った人は

恐らく全員がこの言葉を耳にしたことだろう。



「間違ってると思ったらハッキリ言わせて貰いますからね、私は」



ところが、どうだか私は―

長いこと、語学ボランティアをしているうちに気付けば外国の方の風習に染まっていた。【間違ってると思ったら、ハッキリ口に出して堂々と相手に言う】という、外国の方の風習を何処かで魅力的に感じていたのかもしれない。

だからどうという訳でもないが私は―



「あはは、ざまあみろ!クソ上司め!」



満面の笑みを浮かべてそう絶叫する父や、


「日頃のストレスが発散されてスカッとしましたあ」


と厭らしい笑みを浮かべる女性アナウンサーの声が、鼻について仕方ない。



「言いたいことがあるんだったら、その場でハッキリ言えよ」



そんな想いが、脳裏を掠めるのだった。

この番組を生き甲斐にしている父の考えは理解しかねるが、

同じ日本人として、正直まあ分からなくもない部分もある。




「あ?なんだテメー。喧嘩うってんのか?」



それは、高校2年生の時。

果敢にも、クラスのいじめに立ち向かったら、同じクラスの

ヤンキーの男子に強い口調でそう詰め寄られたのであった。



「まあまあ、落ち着けって。」



同じクラスの誰か―(確か男子)がそう宥め、事無きを得たが

その同級生が居なかったらどうなってた事やら。

下手すれば大怪我を追って病院に担ぎ込まれていたかもしれない。



それ以来、【果敢に立ち向かう】ことはしなくなった。

文句を言うのは、あまりに酷い理不尽を受けた時だけ。

それでも、人より堂々と言う機会があるだけマシかもしれない。



「そう、人前で何か言うって勇気いるのよね・・・

気持ち、分からんでもない・・・」




ふわああ、と欠伸をしながら時計を見遣る。

番組に見惚れていて気付けば夜の9時。

つい夢中になって夜更かし―なーんてことにならないのが

この番組の利点だな。そう思いながら寝支度を始める。



「あー、やっぱ面白いなあ。

この『爽快!ツーレツ・ジャパン』は!」



父は、笑いながら番組の余韻に浸っている。

『日本人って、ハッキリ物事を言わないのね。』

その光景を見る度、あの女性の言葉を思い出すのは

何故だろう。頭でぼんやり、そんなことを考えながら

いそいそとベッドへ向かった。

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