2度目の魂ドナー契約

ちびまるフォイ

ドナー契約ってこんなに簡単!

「ここが魂ドナー契約の会場か……! がんばるぞ!」


魂ドナー契約を結ぶには試験に合格する必要がある。

受付証を持って中に入る。


「君は……!」


「どこかでお会いしましたか?」


「いや、大丈夫。さぁ試験会場はこちらだ」


白衣を着た研究員に促され、魂ドナー契約試験がはじまった。

試験は全部で3項目。


①筆記試験

②面接試験

③性格診断


で行われる。


死んでも自分の魂が別の誰かに移植してもらうんだから

当然、それなりに移植してもいいくらいの魂であることを証明しないと。

悪人の魂をドナーに移植するわけにいかないだろうから。


「では面接をはじめます。君が魂ドナー契約に来た理由は?」


「死んでも魂が別の肉体に移植されるから、人生リスタートできるからです」


「ほぅ、興味深い答えだ。そんなに今の人生に満足してないのかい?」


「あんまり自分の人生を覚えてないんですが、たぶんぎゅっと圧縮すると

 ものの数分で語り終わるくらいうすっぺらな人生なんで」


その後はつい自分の自虐話に花が咲いてしまった。

自分をアピールするはずの面接で自分をおとしめてどうする。


「終わった……完全に落ちた……」



――――――――――――――

【合格通知】


このたびは魂ドナー契約に合格おめでとうございます。

つきまして、あなたが死亡した際には別の体に

あなたの魂が移植されます。添付のカードをお持ちください。

――――――――――――――


結果はまさかの合格。

筆記もズタボロで性格診断なんて目も当てられなかったのに合格。

理由はわからないが紙に入っているドナーカードを受け取った。


「やった! これで魂ドナーしてもらえるんだ!!」


死んでも第二の人生が待っているのかと思うと、

これまで灰色に見えていた世界が一気に色づき始めた。


翌日、仕事に行くと待っていたのは死にたくなるような叱責だった。


「君の書く始末書には心が感じられないんだよ!!」


「はぁ……」


「はぁ……、じゃないよ!! やり直しだ!!」


「はい……」


今日も上司に難癖つけられて怒鳴られた。俺は怒られやすいタイプらしい。

席に戻っても周りからは好奇の視線を送られる。


「なんだよこの人生……最悪じゃないか……」


もう我慢できなくなりビルの屋上へと向かった。

びゅうびゅうとビル風が吹き荒れる中、手すりの向こう側に立つ。


「ここから飛び降りれば、俺には魂ドナー契約で第二の人生がはじまるんだ!」


覚悟を決めて一歩踏み出すそのとき。


「あ、どうも」


笑顔のサラリーマンが同じように手すりの外側に立っていた。


「ど、どうも……」 つい挨拶を返す。


「私ね、妻も子供もいるんですが家に帰るのがつらくって。

 最近じゃ会社でも家でも居場所がなくて辛いんですよ。はは」


「は、はぁ……」


「あ、それじゃお先に」


まるで先に電車にでも乗るようなテンションで男は落下した。

ビルの下では悲鳴がおこり騒ぎになって人が集まる。


「ったく、これじゃ巻き添えが多すぎて死ねないよ……」


自殺を諦めて男の死体を見に行くと、ドナーカードが目に入った。


「この人も魂ドナー契約してたんだ!」


俺以外にも持っている人がいるなんて。

魂がいったいどんな人に移植されるのか気になる。どういう選ばれ方なのか。


「あなた、この人の知り合いですか?」


「ゆ、友人です! はい!」


友人ということで一緒にドナー送迎者に乗って現場を見に行くことに。

着いた先は、人間が量産されている工場だった。


「え、これ……」


「よし、移植をはじめよう」


言葉を失っている俺を尻目に、着々と魂ドナー移植は進んでいく。

量産されている人間に魂が移植されると、男は新しい体で生まれ変わった。


「やった! 魂ドナー移植されたんだ! 記憶があるのに新しい姿!

 まさに転生だ! やったー!」


男は自分が量産されているアンドロイドだとも知らずに喜んでいた。

俺も死んだらこうなるのか。そんなの嫌だ。


「で、あなたはどれにします?」


「結構です!!」


慌ててその場から逃げてドナー契約を結んだ場所へ急ぐ。

これは転生を保証してくれるドナー契約なんかじゃない。

死んだ後の魂をおもちゃにされるだけのものだ。


「魂ドナー契約を解除させてください!」


「……契約を解除なさりたいんですか?」


「はい! すぐに! お願いします!」


「わかりました。こちらで少々お待ちください」


待合室に案内されておとなしく座っている。

まもなく黒いスーツを着た人たちがぞろぞろと入って来た。


「あなたがドナー契約を解除したいんですね?」


「はい! やっぱり急に怖くなったんです!」


「そうですか。ではそのまま、動かないで」


男は胸ポケットから銃を取り出して銃口を突きつけた。


「うそ……」



ためらわずに撃たれた銃弾は逃げた俺の後ろをかすめていった。


「逃げたぞ!!」

「追え!! 逃がすな!!」


男たちは強制的にドナー移植させようと追いかける。


無我夢中で走り続けると、いつの間にか追っ手をまいていた。

人間、必死になると思わぬ体力が発揮されるんだな。


「はぁ……危なかった……もう追ってきてないよな?」


身を隠していた路地裏から道に出た瞬間。



キキーーッ!!



耳をつんざくブレーキ音が聞こえた瞬間、俺の体は宙にとんだ。


「やっと逃げられたのに……そんな……」


地面にたたきつけられると、バラバラに分断された自分の体が目に入った。

断面からは精巧なアンドロイドのパーツが覗いている。


周りの騒ぎに感づいた追っ手もすぐに到着した。



「実に興味深い検体だったな。

 魂が入った機械は自分を機械だと自覚しなくなるうえ、

 2回目のドナー契約を結ぶとは……」


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