9-⑮ 俺達の、勝利だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
魔石の中に押さえこまれていた魔力が解放されていく。ガルフォード内部の弾丸周囲に魔力が広がっていった。
破壊力をあげるため、魔力を詰め込んだ弾丸を以前のときも撃った。だが今回はその比ではないほどの魔力量が魔石の中に込められている。
恐らく弾着したときには、かつてとは比べものにならないほどの爆発が起きる。そうヴァンは予想していた。
(さすがに王都全員の魔力を込めただけのことはあるな……もう相当の速さで打てるほど魔力が充実しているのに、まだ相当の魔力が魔石に残っている。これがぶつかればどれだけの破壊が起きるのか、さしもの魔獣も危ういかもしれんな……)
そう思考していながらも、ヴァンはまだガルフォードの中に魔力を展開していた。
このとき、ガルフォードはまだヴァンでも制御できるものであった。過去にない膨大な魔力量ではあったが、想定内の範囲。発射の機会をいくらでも調節できる程度であったのだから。
しかしそこにあるものが加わっていく。実力だけはある、ヴァルハラント学校全員の圧倒的大多量の魔力。
それは燃え上がっている火炎に、ガソリンと高濃度酸素をぶちまけるに等しい行い。そうなれば火炎は何になるのか。
至極当然、高温になり、周囲を燃やし尽くす猛火へと変化
最終的には業火へと変貌するのだ。あらゆるものを焼き尽くし制御できない、天災へと昇格する。
それはガルフォードもまた例外ではなかった。荒ぶる魔力の奔流が暴走を引き起こし始めた。
(ん……?)
そのことにヴァンも気付いたが、もう遅い。
ヴァルハラント学校の魔力が完全に加わり、一気にガルフォード内部の魔力量は超高濃度のものになっていった。
(な、なんだ!? 突然魔力が……上がっていく!? なんだこの量! こんな量制御できんぞ!?)
充填が完了したことを知らせる赤い光はとうに出ていた。
しかしそれでも魔力が多い。多すぎる。ガルフォードから出ている光はさらに深みを増して深紅、いや、それを通り越して黒にさえなり始めていた。
しかも魔力が逆流し始め、魔石の中に続々と流れ込んでいっている。これでは爆発の規模が大きくなりすぎる。それどころか許容量を超えて破砕してしまう。
もしそうなれば魔力に引火、大爆発はさけられない。魔力量を含めて考えればこの校舎など簡単に吹っ飛ぶだろう。
しかもこれは制御できなくなってきている。いくら魔力を調節しようとしても大きすぎて流入が止まらなかった。
「う、ウドツカヴ、殿!」
「ど、どうした?」
ヴァンの言い方にただならぬものを察したのか、組んでいる腕を解きながらヴァンに身を乗り出してきた。
「何なんですか、これは……! 込められた、魔力量が……多すぎます! このままでは充填を続けていては! 暴発します!」
「なに!?」
「だ、ダメだ……抑えきれん……もう撃ちます! ガルフォード、はっ!」
ヴァンが全てを言うことはできなかった。その前にガルフォードは発射されていた。
爆音。
近場にいるヴァンとウドツカヴの鼓膜を破るほどの。大気振動の衝撃で屋上からも吹き飛ばすほどの。
咄嗟に防御魔法をウドツカヴが展開しなければ、それらがいとも容易く実行されるほどの。
その勢いに押されるようにして弾丸は青空に飛翔していった。
込められた魔力、射出速度、燃えるような橙色の魔石。隕石破壊のときとは比較にならないものが、天空へと進撃を開始していった。
尋常ではない魔力が濃縮された魔石、それはこの世に二つとない奇石。
以前のときと同じ軌跡、それを描いて飛んでいく輝石。
だから、奇跡を起こした。
超高濃度の魔力が込められていたため、魔石は物理現象を超越、次元の壁すらも歪曲、破壊、突入した。
別次元に待機し奇襲の準備を行っていた、ツカッガ・リエッカーとミスヤルヒーの大群がいる場所に、直撃した。
破裂、炸裂、爆裂を連鎖的に起こし、大爆発へと変貌したそれはツカッガ・リエッカーとミスヤルヒーの集団を悲鳴すら上げさせず消滅させた。
さらに暴れ狂う魔石はツカッガ・リエッカー達を倒してもなお暴れ足りず、爆ぜ割れた。その数、数千。
それらは次元の壁を再度突破、元の次元に戻り、流星群として世界中に降り注いだ。
「騎士ウギョ・シー、報告にあったミスヤルヒーの像はすでに破壊されています! 空から降ってきたものにより木っ端みじんです!」
「騎士ウギョ・ツソー、討伐対象であるミスヤルヒー数十は全滅! 降ってきた彗星によって押し潰されました!」
「騎士ウギョ・ウシュ、目的のミスヤルヒー像は全て寸分の狂いもなく打ち抜かれています! 復活は不可能です! この地の平和は……守られました!」
王城、最高指揮官であるカウキョや数名の騎士団長が控えている騎士団指令本部で続々と聞こえてくる実況。驚きが、喜びが、興奮が入り混じった声をカウキョは国王専用の椅子で聞いていた。
(やってくれたのね、ヴァンくん。しかもツカッガ・リエッカーだけでなく、ミスヤルヒーまで全て粉砕したなんて……あなたは世界を救っただけでなく、10年の戦乱まで無くしてしまった……あなたは歴史を作ったのよ……)
報告はまだまだ続いていく。そのどれもが歓喜に満ち溢れていたものであった。いつまでも聞いていたい。カウキョの感情はそのように語りかけていた。
しかし敢えて、カウキョはその報告を止めさせた。立ち上がり、その傍らに置いてあった錫杖で地面を叩くことで、喧騒を鎮めさせる。
何故? と集団が目線で問いかけていた。
この興奮のるつぼを陛下は何故止めるのか? 口にこそしないが誰しもがそう訴えかけていた。
その気持ちを痛いほどカウキョも理解していた。
だからこそ、声高らかに止めた理由を、宣誓を始めた。
「ツカッガ・リエッカーとミスヤルヒーは滅んだ! 世界は平和を! 未来は安寧を! 生命は繁栄を手に入れた! その功績は全てヴァン・グランハウンドにあり! よってこの英雄を永遠に称えるため、今日という日を『ヴァンの日』と制定する! 総員、宴の用意をせよ! 遅れるものは罰があると思え! このカウキョ・ウーキュが命ずる!」
王になってから数十年、出した命令は数知れず。そんなカウキョだったが、今初めて一人の異存を唱えるものがいない命令を下した。
呆気、呆然、絶句。
様々な言い方はあるだろうが、結局のところヴァンとウドツカヴは、ただただ空を眺めていた。どう対応すればいいのか分からなかったからだ。
試射のつもりが大本命を打ち抜いた、それも完璧とさえいえる成果を持って。
その現実がヴァン達の思考回路の働きを極端に鈍くしていた。
だが、それでも目にしたものが、耳にしたものが、脳に届いていたものがあったから、現状が何となく分からざるを得なかった。
「あの……今一瞬だけ見えたのって……」
「……ツカッガ・リエッカーだ……ミスヤルヒーもいたな……大群で」
耳の調子が戻っていないから聞こえづらいのは自然である。しかしそれ以上に精神的な部分が聞くことを拒みたかった。だがそれでも2人の会話は聞こえてしまったから、進んでいく。
「ぶつかりましたよね……? 魔石……」
「ああ……」
「倒しましたよね……? どっちも……」
「一瞬しか見えなかったけど、そうだろうな……」
それで会話は止まった。今自分が認識している現実が間違いではないということが分かってしまったからだ。
ヴァン達にしてみると面食らっていたが、下は違っていた。老若男女の声が方々から上がっていった。
「やった! やった! やったぞ! やったぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ツカッガ・リエッカーが倒れた! 私たちは生き延びたのよ!」
「しかも今全世界に放映されているけど、世界中のミスヤルヒーっていう悪魔達も壊れたらしいぞ! 未来世界の危機すらも救ったんだ!」
忘我の境地にいながら歓天喜地になりつつ喜悦している。
いや、これらの言葉を重ね合わせてもまだ表現しつくせない、もはや言語が追いつく世界を超えていた。
それぞれが好き勝手な雄たけびを上げていたが、やがてそれは1つのものに落ち着いていく。この成果をもたらしてくれた者への、感謝の念を込めた名前を呼んだ。
「ヴァン会長!」
「生徒会長!」
「英雄!」
「聖王!」
「神!」
『やりましたよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「は、ははは……」
またしても、またしても世界を救った。救ってしまった。しかも全く意図していない方法が偶然、偶々なってしまった。
普段のヴァンならここで泣き叫んでいただろう。
だが今日は違った。
何故ならこれは覚悟の上での善行、毒を食らわば皿まで食らおうとしていた。その覚悟が変な方向に捻じれていた。
言い方を変えるなら、ヴァンは
(だったら……)
立ち上がり歩き始める。目指していたのは距離はそうない地点、屋上の縁。そこに到達するなり身を乗り出すヴァン。
(最後まで……!)
その姿を認めたとき、大衆は1人、また1人と静かになっていた。完全なる沈黙が場を支配するのに時間はあまり要さなかった。
(最後まで、善人でいてやる!)
皆待っていた。ヴァンが何をするのか、どうするのか。それを逃すまいと全身の意識を集中させて見て、聞いて、感じていた。
そんな人々にどうするのが正解なのか、ヴァンは知っていた。
「俺達の……」
感謝と幸福と満足を表せばいいのだ。単純明快な行いをすればいいのだ。
「俺達の……!」
だからヴァンは、握り拳を天に向かって突き上げた。
「俺達の、勝利だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヴァンの、初の、善行をした上での、狂喜の叫び。
それに観衆は応えた。怒涛の声で応えた。
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