9ー⑬ …………ナン。はい私の負け

 そんなグレイを見過ごすことができないもの、その人はすぐ側に来ていた。

 ミリアだ。これまでは少し離れたところにいたが、グレイの悲鳴を聞くなり即参上してきた。

「安心してくださいせんぱい! せんぱいの無念はあたしが晴らします! あの3人がさじを投げたくなるほど怒涛のセリフ攻めをすることでしりとり王になりますから!」

「だからツカッガ・リエッカーどこ行ったんだよ! 助けてくれるのは有難いけどな! 優先順位を考えろよお前ら!」


 果たしてキバは新たな挑戦者であるミリアの言葉を拾ったのか、それとも最後のグレイの突っ込みを火種としたのか。そこは分からなかったが、『ら』で始まるもの展開し始めた。

「来週でやっと俺の任期が明けるぜ。こんな穴倉生活ともおさらばさ。憧れの青い空と青い海が俺を待っている! 安心しろ、お前らに土産をきちんと買って送ってやるぜ!」

「『絶叫した。それ以外俺に何ができたと言えるだろうか。つい先ほどまで普通に話していたのに。冗談を飛ばしていたのに。そんな彼の頭がもぎ取られた果実の様に存在しなくなっているのだ。冗談みたいに彼だったものから赤い液体が飛び散る。いつの間にか俺のズボンがぬれていた。だがそれが彼の液体によるものではない。赤くないのだから。なのに。何故。数秒後、自分の股間から出したものだと気付いた』」

「宝だぁ! やったあ! あの伝承は本物だったんだ! 宝は俺のものだ! 俺だけのもの!」

「のけものは嫌いなのだけれども? 私の番を踏み倒さないで欲しいのだけれども? ヴァレスティン氏?」


 何から言えばいいのか。

 突然戦場の兵士みたいなことを言い出したキバに言うべきなのか。

 地の文を言ってくるという離れ業をかましてきたキバンカを攻めるべきか。

 基礎基本に則りながらも、ツカッガ・リエッカーという本質を見失っているミリアにツッコむべきか。

 死にそうなセリフではないながらも、きちんと律義にしりとりを続けているキウホに食らいつくべきなのか。

 グレイの思考は焼き付く寸前だった。もし彼の頭脳が機械であったなら熱暴走さえ起きていたかもしれない。


 そんなグレイの様子をさすがに見かねたのが、完全傍観者を決め込んでいたバースだった。

「あーあー、もういいよ。お前は。よくやったから。その点俺はちゃんと見ていたから。だからお前は何も言わなくていいよ、な?」

 彼が肩に腕を絡ませながら、そのまま自分が座りその勢いでグレイを座らせてきた。そしてかなり強めの力でしりとり集団に背を向けさせるようにして動かした。

「……バース」


「何となく分かってたさ、副生徒会長さんよ。あんた無視したくないんだろ? 無視ってのはいわば究極の方法。それを使えばどんな事態もなかったことにできる。でも一番相手を傷つける方法、それを分かってるから取りたくなかったんだろ? あんた優しいもんな」

「……」

「何が何でも無視しない。こいつは美点だけどそんなことばっかやってたら、疲れてどうにかなっちまうぜ? ぶっ倒れちまったらあの書記係さんも生徒会長さんもわんわん泣いちまうぜ? そんな姿を見たくないだろ?」

「……」

「露骨なあいつらのやり方に付き合う必要はないんだよ。無視しない程度に適当に相手をして、話を合わせてやればいいんだ。それだけであんたに対して酷い奴だとかそういう風に思う輩なんていないさ」


「……なあ」

「さあ、お前は無理しないでお前のやりたいことをやってだな」

「お前しりとりしてるだろ」

「バレたか」

 励ますふりをしてその実しりとりしてくる。もし先のキバ達の一幕が無ければグレイも気付かなかっただろうが、さすがに見抜いたようだ。だからいたずらがばれた子供の笑顔そのもので、バースは降参してきた。ご丁寧に両手をあげることでさらにはっきりと態度を表して。

 そんなバカどものことなど知らんとばかりに、ジウソーはケガスクワーの怪我を魔法で完全に治していた。

 そんな彼を見かねてか、バースが遠くから声をかけた。


「おーい、ジウソー。お前もやろうぜ。意外とこれ楽しいぜ?」

「誰がやるか。お前らに手を貸すが慣れ合うつもりは無いと言っただろう。それはそこの副生徒会長もだがお前も同類だ。私は私が心の底から信じたり認めたものにしか仲良くしない。それにそろそろキフドマが学校関係者全員を連れて来る。そいつらが来たらもう遊んでいる暇などないぞ」

「是非とも参加して欲しいんだけどなー、楽しいんだけどなー、新しい世界が見えると思うんだけどなー」

 何気なく食い下がってきて、しかもしりとりしながらバースを鬱陶しく思ったのか、ただ一言だけ応じた。


「…………ナン。はい私の負け、だからしりとりも終わりだ」

「うわ、つまんね。即負けやがったよこいつ。遊び心が無さすぎだろ」

「何とでも言え。そしてキフドマも来た。遊びの時間は終わったのだ」

 ジウソーが顎で指し示した先、そこにちょうどキフドマが現れた。空間を跳躍しての移動であったためか、飛び降りではなかったからか、今度はきちんと着地できていた。そのため初めて生徒会室で会った時のように、しっかりと直立した姿勢で告げてきた。


「ジウソー殿、お待たせしました。全関係者に報告完了しました。そう時間をかけずに事情を知ったヴァルハラントの人魔全員がこちらに……」

 そこで報告は終わった。それ以上は何も言わず、ただキフドマは突っ立っていた。

 ジウソーはキフドマをよく知っている。結果こそあまりついてきてくれないが、彼は忍者足らんと努力する輩であり、そこは評価している。そしてそんな彼は話しをするときは明瞭に言ってきた。

 なのだが今はどうか。中途半端なところで報告が止まってしまい、目線はジウソーを見ていない。これまでのキフドマでは考えられない行動であった。

「キフドマ? どうかしたのか?」

「……ガルフォードが起動しています。いったい何故……何の通告もなしに……まさか、もうツカッガ・リエッカーが攻めてくるのでしょうか!?」

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